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第7章:武者修行編
第67話:技法
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スペルンカでの会合から何日か経った後、セネカとマイオルはアッタロスに連れられてギルドの特別訓練室に行った。
「それじゃあ、契約通り二人に俺が得た技法を教えて行こうと思うが、しばらくは基礎を固めていく必要がある」
セネカとマイオルは目をキラキラさせながら頷いた。
「まずは技法という言葉についてだが、一般的な意味の他に上級冒険者の間で通じる意味がある。それは『サブスキルやスキルに匹敵する技術』というものだと思っておけば良いんだが、人によっても解釈は違うし、言葉が違うこともある。
例えば【剣術】スキルを持ってなくても剣が強いやつはたくさんいるがそういうものは技法とは言われない。だが、[豪剣]のように爆発的に身体能力を強化できればそれは技法と呼ぶ人が出てくるだろう。
教会の中には非常に高度な技法を『御業』と呼ぶ人間もいる。グラディウスの爺さんの変装なんかは別スキルに思えるぐらいだから『御業』の領域だ。セネカの魔法もそれに近しい物を感じる」
「グラディウスさんの変装には驚きました」
マイオルが言ったのに合わせてセネカも頷いた。
「あっはっは。あれは反則だよな。マイオルに黙っていた俺が言うのも変だが、あの爺さんは意地が悪いぜ。教会には技法に関する書物がたくさんあって、高位の聖職者は閲覧できるらしいが、グラディウスの爺さんほど詳しい人間はいない」
「みんな詳しいんじゃないんですか?」
「高位の人間ほど権力闘争に明け暮れているから、自分に関するものと有名なものぐらいしか知らないことが多いだろう。グラディウスの爺さんは昔から研究者気質の聖職者で、スキルに関する知識を溜め込むのが好きなんだ」
「だから魔導関係の人との交流が盛んなんですね」
「それだけが理由ではないだろうけどな。あの人は俺が心から信用している人間の一人で、セネカがエウスとアンナの子供だということも伝えてある」
「お父さんとお母さんのことを知っているの?」
セネカはぴょんぴょんと飛び跳ねながら聞いた。
「あぁ。あの爺さんの里子と同じパーティを組んでいたからな。高位の聖職者は里親として良く名前を貸すんだが、直接目をかけて本当に庇護しているのは爺さんくらいだろう」
アッタロスはニヤっとした後でなぜか寂しそうな顔をした。
「話が逸れたな。普通技法が身についてくるのはレベル3の後半になってからと言われているんだが、お前らは規格外だからな。セネカはもちろんだが、マイオルにも技法の兆しが見えている」
「えっ、あたしですか?」
マイオルは素っ頓狂な顔だ。
「やはり気がついていなかったか。大量の魔力を込めて【探知】スキルを使っている時、頭に魔力が集められているんだ。おそらく脳の機能を高めているだろう。そのおかげなのか、魔力操作による身体強化の芽が出始めているぞ」
「?」
「マイオルは最近ほわっとしてる時あるよ?」
「身体を巡る魔力であれば、俺はある程度分かるから間違いない。剣を振るう時や前に出る時、力を込める方向に向かって少しだけ魔力が動いているんだ」
マイオルは自分の掌を不思議そうに眺めた。
セネカは何故か感心するように何度も頷いている。
「二人が特殊なのか、これまでの常識が間違っていたのかは分からん。だが、セネカの魔法も膨大な時間をかけた結果だと聞いたし、お前らの話だと早いうちに技法を身につけることでスキルの成長にも影響しそうだ。だから教える。身につくかは分からんが、訓練自体は無駄にならないと俺は思っている」
二人はコクコクと首肯した。
「まずは二人とも身体強化の技法を身につけてくれ。マイオルは自分に【探知】を使いながら細かく見ていけば出来るはずだ。セネカは魔力操作ができるんだからコツを掴めば強化が出来ると俺は思っている。基礎練習として毎日やるようにしてくれ」
「分かりました」
「はーい!」
「次に武器に魔力を通せるようになってくれ。セネカは出来ているが、魔力効率が良くないので訓練が必要だな。マイオルは身体強化の練度が高くなったら試してみるんだ」
マイオルは話を聞きながらも早速魔力を動かそうと奮闘している。
「この訓練の肝は剣の先の魔力まで自分の支配下におくことだ。身体から離れた場所の魔力をしっかり操作できるようになったら、その時こそ俺が編み出した技法を教える」
「はーい!」
新たな訓練と聞いてセネカは嬉しくなって跳び上がった。
◆
アッタロスの話を聞いてからセネカとマイオルはこっそり練習をしていた。
ニシロ密林に来てからもニーナとファビウスの目がない時には二人とも必死に魔力操作の訓練をしている。
ガイアとプラウティアには何も言っていないが、セネカとマイオルは時間があると二人の目の前に行って、これ見よがしに魔力操作の訓練を始める。
最初は何かと思っていたが、ガイアが魔力操作の訓練を開始すると満足して離れていくので何らかのメッセージなのだと思うようになった。
セネカとマイオルが身体強化をしようとしていることにガイアは気がついた。
高位の魔法使いの中には、自らの技能によって身体強化をすることが出来るようになる者がいるので、この二人はそれを達成しようとしているのだと悟ったのだ。
プラウティアはガイアから話を聞いて二人の行動を理解したけれど、魔力の流れなど全く分からない。だが、プラウティアが理解できていないのを認識するとマイオルは露骨な行動に出るようになった。
「プラウティアってさ、スキルを使って採取する時に魔力が手に移るよね」
はじめて言われた時は「へぇー」という反応だった。
しかし、プラウティアがスキルを使うたびにマイオルは何度も同じことを言ってくる。
プラウティアは心から恐怖を感じ始めたので改めてガイアに相談すると、『スキルを使う時に魔力を移動できるのだから、訓練すれば身体強化が出来るかもしれないよ』という優しさに満ちたメッセージだと言われた。
プルプルしながら魔力操作をしようともがき始めたらマイオルはニコッと笑って、いつもの朗らかな少女に戻ったので、プラウティアは心から安堵した。
マイオルが再度同じことしか言わない人形と化すのを恐れてプラウティアは必死に訓練に励んでいる。
◆
アッタロスの教えを受けてから、ひと月近くが経過するとそれぞれ課題が見えてきた。
セネカは魔力の操作が格段に上手い。しかしその魔力をどうやって強化に持っていけば良いのか分からない。ガイアと議論をしながら試行錯誤を重ねたが、結局感覚に身を任せて訓練に励んでいる。
マイオルは、魔力操作は拙いものの身体強化自体は出来ている。【探知】の能力の中に脳の強化が含まれているので、それほど苦労しなかった。現時点での進度はマイオルの方が良い。
しかし、武器に魔力を移すのはセネカの方が慣れているはずなので、ここで多少前にいたとしても意味がないとマイオルは思っていた。
幸運なことに『月下の誓い』はそれぞれが独自の歩調で歩いているので、変に競争意識を持つことがない。マイオルは『訓練の鬼』の本領を発揮して、努力を続けることにした。
「それじゃあ、契約通り二人に俺が得た技法を教えて行こうと思うが、しばらくは基礎を固めていく必要がある」
セネカとマイオルは目をキラキラさせながら頷いた。
「まずは技法という言葉についてだが、一般的な意味の他に上級冒険者の間で通じる意味がある。それは『サブスキルやスキルに匹敵する技術』というものだと思っておけば良いんだが、人によっても解釈は違うし、言葉が違うこともある。
例えば【剣術】スキルを持ってなくても剣が強いやつはたくさんいるがそういうものは技法とは言われない。だが、[豪剣]のように爆発的に身体能力を強化できればそれは技法と呼ぶ人が出てくるだろう。
教会の中には非常に高度な技法を『御業』と呼ぶ人間もいる。グラディウスの爺さんの変装なんかは別スキルに思えるぐらいだから『御業』の領域だ。セネカの魔法もそれに近しい物を感じる」
「グラディウスさんの変装には驚きました」
マイオルが言ったのに合わせてセネカも頷いた。
「あっはっは。あれは反則だよな。マイオルに黙っていた俺が言うのも変だが、あの爺さんは意地が悪いぜ。教会には技法に関する書物がたくさんあって、高位の聖職者は閲覧できるらしいが、グラディウスの爺さんほど詳しい人間はいない」
「みんな詳しいんじゃないんですか?」
「高位の人間ほど権力闘争に明け暮れているから、自分に関するものと有名なものぐらいしか知らないことが多いだろう。グラディウスの爺さんは昔から研究者気質の聖職者で、スキルに関する知識を溜め込むのが好きなんだ」
「だから魔導関係の人との交流が盛んなんですね」
「それだけが理由ではないだろうけどな。あの人は俺が心から信用している人間の一人で、セネカがエウスとアンナの子供だということも伝えてある」
「お父さんとお母さんのことを知っているの?」
セネカはぴょんぴょんと飛び跳ねながら聞いた。
「あぁ。あの爺さんの里子と同じパーティを組んでいたからな。高位の聖職者は里親として良く名前を貸すんだが、直接目をかけて本当に庇護しているのは爺さんくらいだろう」
アッタロスはニヤっとした後でなぜか寂しそうな顔をした。
「話が逸れたな。普通技法が身についてくるのはレベル3の後半になってからと言われているんだが、お前らは規格外だからな。セネカはもちろんだが、マイオルにも技法の兆しが見えている」
「えっ、あたしですか?」
マイオルは素っ頓狂な顔だ。
「やはり気がついていなかったか。大量の魔力を込めて【探知】スキルを使っている時、頭に魔力が集められているんだ。おそらく脳の機能を高めているだろう。そのおかげなのか、魔力操作による身体強化の芽が出始めているぞ」
「?」
「マイオルは最近ほわっとしてる時あるよ?」
「身体を巡る魔力であれば、俺はある程度分かるから間違いない。剣を振るう時や前に出る時、力を込める方向に向かって少しだけ魔力が動いているんだ」
マイオルは自分の掌を不思議そうに眺めた。
セネカは何故か感心するように何度も頷いている。
「二人が特殊なのか、これまでの常識が間違っていたのかは分からん。だが、セネカの魔法も膨大な時間をかけた結果だと聞いたし、お前らの話だと早いうちに技法を身につけることでスキルの成長にも影響しそうだ。だから教える。身につくかは分からんが、訓練自体は無駄にならないと俺は思っている」
二人はコクコクと首肯した。
「まずは二人とも身体強化の技法を身につけてくれ。マイオルは自分に【探知】を使いながら細かく見ていけば出来るはずだ。セネカは魔力操作ができるんだからコツを掴めば強化が出来ると俺は思っている。基礎練習として毎日やるようにしてくれ」
「分かりました」
「はーい!」
「次に武器に魔力を通せるようになってくれ。セネカは出来ているが、魔力効率が良くないので訓練が必要だな。マイオルは身体強化の練度が高くなったら試してみるんだ」
マイオルは話を聞きながらも早速魔力を動かそうと奮闘している。
「この訓練の肝は剣の先の魔力まで自分の支配下におくことだ。身体から離れた場所の魔力をしっかり操作できるようになったら、その時こそ俺が編み出した技法を教える」
「はーい!」
新たな訓練と聞いてセネカは嬉しくなって跳び上がった。
◆
アッタロスの話を聞いてからセネカとマイオルはこっそり練習をしていた。
ニシロ密林に来てからもニーナとファビウスの目がない時には二人とも必死に魔力操作の訓練をしている。
ガイアとプラウティアには何も言っていないが、セネカとマイオルは時間があると二人の目の前に行って、これ見よがしに魔力操作の訓練を始める。
最初は何かと思っていたが、ガイアが魔力操作の訓練を開始すると満足して離れていくので何らかのメッセージなのだと思うようになった。
セネカとマイオルが身体強化をしようとしていることにガイアは気がついた。
高位の魔法使いの中には、自らの技能によって身体強化をすることが出来るようになる者がいるので、この二人はそれを達成しようとしているのだと悟ったのだ。
プラウティアはガイアから話を聞いて二人の行動を理解したけれど、魔力の流れなど全く分からない。だが、プラウティアが理解できていないのを認識するとマイオルは露骨な行動に出るようになった。
「プラウティアってさ、スキルを使って採取する時に魔力が手に移るよね」
はじめて言われた時は「へぇー」という反応だった。
しかし、プラウティアがスキルを使うたびにマイオルは何度も同じことを言ってくる。
プラウティアは心から恐怖を感じ始めたので改めてガイアに相談すると、『スキルを使う時に魔力を移動できるのだから、訓練すれば身体強化が出来るかもしれないよ』という優しさに満ちたメッセージだと言われた。
プルプルしながら魔力操作をしようともがき始めたらマイオルはニコッと笑って、いつもの朗らかな少女に戻ったので、プラウティアは心から安堵した。
マイオルが再度同じことしか言わない人形と化すのを恐れてプラウティアは必死に訓練に励んでいる。
◆
アッタロスの教えを受けてから、ひと月近くが経過するとそれぞれ課題が見えてきた。
セネカは魔力の操作が格段に上手い。しかしその魔力をどうやって強化に持っていけば良いのか分からない。ガイアと議論をしながら試行錯誤を重ねたが、結局感覚に身を任せて訓練に励んでいる。
マイオルは、魔力操作は拙いものの身体強化自体は出来ている。【探知】の能力の中に脳の強化が含まれているので、それほど苦労しなかった。現時点での進度はマイオルの方が良い。
しかし、武器に魔力を移すのはセネカの方が慣れているはずなので、ここで多少前にいたとしても意味がないとマイオルは思っていた。
幸運なことに『月下の誓い』はそれぞれが独自の歩調で歩いているので、変に競争意識を持つことがない。マイオルは『訓練の鬼』の本領を発揮して、努力を続けることにした。
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