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第7章:武者修行編

第63話:「めけめけー」

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 時は遡り、セネカの一年の長期休みのこと。
 セネカたちはニシロの密林に来ていた。

「ここは任せて!」

 セネカの大きな声が響き渡る。

 セネカは左前方から押し寄せてくる軍隊カニムシに対して[まち針]を十本撃ち込んだ。
 隊列の最善にいた十匹の頭に針が刺さり、針が空中に固定される。

 突然前の個体が止まったので、後ろにいたカニムシ達はつんのめった。
 その瞬間を見計らって飛び出したセネカは、次々に軍隊カニムシの首を跳ねていく。手前の個体はあらかた倒したが、後ろからはまだもりもりと軍隊カニムシがやって来ているので、セネカの手は空きそうにない。

 セネカの様子を見て、【探知】を全開にしているマイオルが叫んだ。

「プラウティア! ラディッシュオニオンが六匹、後方からこっちに向かっているわ! 対処お願い! ガイアは右から来ているダークスライムモールドに対して罠を発動させて!」

 マイオルの声は通りが良く指揮に適している。指示を受けた二人は行動を開始した。

 プラウティアは素早く前進してラディッシュオニオンを視界に入れた。
 ラディッシュオニオンは植物の魔物だ。非常に美味なので今日の夕飯になるだろう。

 マイオルは先日から植物の魔物を優先してプラウティアにまわしている。それには理由があった。

 プラウティアはダガーを構えてスキルを発動した。
 ズバン! と大きい音がして三匹のラディッシュオニオンの茎が切られ、丸く膨らんだ実だけになった。

 プラウティアは【植物採取】のスキルを利用することで、植物系の魔物に対して滅法強くなった。魔物によっては同時に素材を得ることもできるので一石二鳥だ。

「プラウティア、ラディッシュオニオン四匹追加!」
「はーい!」


 ガイアはのそのそと這って近づいてくるダークスライムモールドを見た。戦闘力の高い魔物ではないが、体液に溶解作用があるので放置すると危険だ。しかも今は大群で襲ってきている。

 ガイアは密林の木を利用して作った罠を作動させた。
 重い木と石がドシンと落ちてダークスライムモールドが潰される。
 大半が戦闘不能になり、生き残りもすぐには動けない状態だ。

 一人での冒険時間が長かったので、ガイアは罠を仕掛けるのが非常にうまかった。
 そのことに気付いたマイオルはガイアに罠場を作ってもらい、手が足りなくなった時に使うことにしていた。
 ガイアはここ数日の経験を活かして罠師としての才能を開花させようとしている。

 探知をしていたマイオルの視界にさらに追加の魔物が見えてきた。厄介な魔物たちだ。

「ニーナ! ラディッシュオニオンの奥側からスティングトータスがたくさん来ているわ! 対処お願い! ファビウス君! 左側からデビルモスキートがたかって来ているからどうにかして」

 そう言いながらマイオルは右前方から近づいているスカーレットキャタピラーに矢を放った。

「めけめけー」
「分かった!」

 ニーナは謎の言葉で返事をし、ファビウスは気前よく承った。ニーナはさっきからこの調子なのでみんな慣れてしまった。

「[インパクト]」

 ニーナは【槌術】のサブスキルを使用した。
 金属製の巨大な槌を地面に叩きつけると衝撃波が発生した。
 スティングトータスの甲羅にひびが入る。

 間髪入れずに槌で打ち据えることで、十匹のスティングトータスは瞬く間に打ち倒された。

 ファビウスは剣を巧みに使ってデビルモスキートを斬り伏せていく。
 デビルモスキートの集団は瞬時にファビウスを囲んだが、ファビウスは盾をうまく使って危なげなく倒し切った。

 マイオルはボロボロの格好のニーナとファビウスを見て呟いた。

「どうしてこうなったのよ⋯⋯」





 長期休みに入った後、セネカたちは一週間かけて王都から南に下った。

 そこにはニシロの密林と呼ばれる熱帯雨林が存在している。四人の話し合いによってそこが修行場に相応しいという結論になった。

 ニシロの密林の魔物はそれほど強くはないが、数が多いと知られている。
 弱い魔物寄せを使って密林に入るとひっきりなしに魔物が押し寄せて、物量で冒険者を圧倒しようとしてくるのだ。
 
 セネカ達はニシロの密林で一日中戦闘を行い、継戦能力や連携力を高めるのが今の自分たちに必要な修行ではないかと考えた。

 セネカも丸一日全力で戦い続けることはできないので、それ以外のメンバーが踏ん張らなければならない時間が必ず出てくるはずだ。そうすることで個人の力も増してくるはずだし、パーティとしての力もついてくるだろう。

 加えて、ニシロ密林の魔物を間引く依頼は割りが良く、素材も良い値がつく。
 修行になり、お金も稼げるとなれば、やらない選択はない。
 四人はニシロ密林に向かった。

 ニシロ密林の側には大規模な野営地があるので、そこで滞在をしながら狩りを続けることになる。

 初日、四人は密林に入り、魔物寄せを使用せずに戦ってこの地に慣れようと考えていた。

 敵地に入ったらまずは【探知】である。
 初回なのでマイオルはかなり広範に【探知】した。

 おびただしい数の魔物が生息している。
 獣や植物も格段に多い。

 その中で、魔物に追いかけられながら爆速で移動する人が二人いる。

「え、何してるのよ」

 マイオルはその二人のことをよく知っていた。

「みんな戦闘準備をして。ニーナとファビウス君が何故かこっちに向かってくるから」

「ニーナって槌遣いのニーナだよね?」

「えぇ、Sクラスのニーナとファビウス君よ。詳しいことはあとにしましょう。もうすぐ着くわ」

「分かりました」

 プラウティアとガイアも戦う準備万端だ。

「にげろー」

 ニーナの気の抜ける声が遠くから聞こえてくる。

 マイオルは二人が十分に近づいて来たことを確認してから大きな声で言った。

「助太刀するわ!」

「頼む!」

 答えたのはファビウスだ。声の主がマイオルだとは気がついていない。

「セネカ、プラウティア!」

 マイオルの合図を聞いて、セネカとプラウティアが飛び出した。身のこなしが軽い。

 前方を見るとニーナとファビウスが横に並んで走って来ている。二人の間には少しだけ空間があるようだ。

 セネカは二人の間隙を【縫って】高速で通り抜け、敵を斬りつける。

「えっ、セネカ?」

 ニーナは自分の横を疾風のように通り抜けていった剣士に見覚えがあった。

 セネカの後ろにはプラウティアが続いている。

 多種多様な敵がいる。
 プラウティアは前側の敵を牽制しつつ、植物系の敵を見つけては圧倒的な攻撃力で次々と撃破していった。

「ニーナ! 細かいことは後にして今は戦いましょう!」

 呆気に取られたような顔をしているニーナにマイオルは言った。
 二人をよく見ると革鎧はボロボロで、頬も煤けている。

 ニーナはニコっと笑ってからポーションをあおり、反転して前線に向かった。

「詳しい話はあとでね」

 ファビウスの綺麗な顔にも泥がついていたけれど、それを感じさせない爽やかさで敵陣に突っ込んで行った。

「そしたらいっちょやりますか!」

 マイオルは声を出して気合を入れ直す。その後ろには不敵に笑うガイアが静かに立っていた。





 敵をやりこめて野営地に帰ったあと、マイオルはファビウスに話を聞いた。

「僕たちのパーティは前衛と後衛に分かれてひたすらに個々の実力を伸ばすというのが課題なんだ」
「ニーナがどうしてもニシロ密林で暴れたいっていうからやって来たんだ」
「昨日までは良かったんだけど、今日はニーナが魔物寄せを多めに使っちゃってね。魔物が集まりすぎたんだ」
「二人で何とか凌いでいたんだけど流石に限界が来たから、最大出力でスキルを使って逃げていたら、君たちに会ったんだ」

 ファビウスの話をかいつまむとこんな感じであった。

 マイオル達が真剣に話をしている横で、ニーナとセネカは旧交をあたためていた。

「セネカ。元気だった?」
「うん! とっても! ニーナは大変だったみたいだね」
「そだね。けど、良い修行になったよ」
「強くなった?」
「めけめけー」
「めけめけー」

 意気投合したようである。

「せっかくパーティで行動しているところ申し訳ないんだけど、もし良かったら僕たちと一緒にニシロ密林をまわってくれないかな? ニーナも同じ意見のはずだよ」

 ファビウスがそう切り出した。
 マイオルは悪くないと思ったけれど、自分の意見だけでは決められないので、プラウティアとガイアの方を見た。

「四人でも六人でもどうせ手が足りなくなるのだから、六人でも構わないぞ。むしろ大変なのは指揮をするマイオルではないか?」

「私はどちらでも良いです。けど、六人だったら予定よりも奥に行って、高価な素材を取れるかもしれないですね」

 二人の意見を聞いてマイオルはまた考えた。確かに指揮をするのは自分になりそうだからその負担は大きい。

 しかし、それこそが求めていた訓練なのかもしれないと考えて、了承することにした。

「分かった。それじゃあお願いするわ。だけど、パーティでの訓練もしたいから何日かに一回は別行動にしましょう。連日連夜魔物の群れを相手にしていたら参ってしまうしね」

「それもそうだね。僕たちも二人での戦い方をもっと磨きたいし、そうさせてもらおうかな。みんながいて、とても心強いよ」

 ファビウスはあくまでも爽やかにそう言い切った。

 ひと段落してから横を見ると、両手を繋いだニーナとセネカがぐるぐる回って、儀式のようなものを取り行っていたので、四人は何となく眺め続けた。
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