57 / 162
第5章:王立冒険者学校編(1)
第57話:ハリボテ
しおりを挟む
次の日、マイオルはガイアとプラウティアを連れて王都の森に向かった。秘密の話をするためだ。
マイオルがいれば大抵の人は探知できるため、森で話す方が安全である。
セネカは考えたいことがまだまだあるらしく、今日も王都を徘徊しているようだ。もしかしたらそろそろ煮詰まってキト辺りに相談を持ちかけているかもしれないとマイオルは考えていた。
しばらく歩いて人の気配がしなくなったところでマイオルが切り出した。
「突然連れ出して来ちゃってごめんね。どうしても秘密の話があってね」
「私は構わないが⋯⋯」
「はわわわ。謝らないでください」
いつも通りガイアは冷静で、プラウティアは焦っている。
「だが、この前、聖者の話を聞いたばかりだぞ? それ以上に秘密の話などあるのか?」
ガイアはまたとんでもないことを伝えられるのではないかと身構えた。
「秘密は秘密だけど、教会や政治とは関係がないわ。効果的な修練の話だから」
「そうか」
「安心しました」
ガイアとプラウティアは肩の力を抜いて深く息を吐いた。
「セネカがレベル3だということは伝えたけれど、どう考えても早すぎると思うでしょう?」
二人は神妙に頷いた。二年でレベル3というのは明らかにおかしいが、聞くに聞けなかったのだ。
「あたしとキトがレベル2というのもかなり早いわね。スキルの種類を考えると余計に。おかげで天才だとか言われているけれど、これには秘密があるの」
「⋯⋯秘密?」
プラウティアは息を飲むような仕草をしてから聞いた。
「えぇ。何故私たちがこんなにも早くレベルアップ出来たのかという秘密。それはね——」
「ちょ、ちょっと待って! も、もしかしてレベルアップの秘訣を教えてくれるの? もしそんな方法があるのだとしたら、それは世界をひっくり返すほどの情報ですよ! とてもとても気になるので聞きたいです! でも、そんな話を聞いても私は何も返せないから⋯⋯」
プラウティアは大きめの声で遮り、あわてたように言った。
マイオルが返す。
「そうね。プラウティアの言う通り、これが本当なら世界を揺るがす情報だわ。でも、たった三人だけで検証したことに過ぎないとも言えるの。だから不確実だし、リスクもあると思う」
二人は真剣にマイオルの話を聞いている。
「話を聞いてもらって二人の意見を聞きたいの。私たちが期待する見返りは、二人の率直な意見と議論への参加。試さなくても構わないわ。スキルとレベルのことは一生の問題だからね」
そう言われてじっくりと考えた後で、プラウティアとガイアは口を開いた。
「分かりました。それでもまだ足りないと思うけど、話を聞きます」
「私もマイオルの話を聞いてから判断したい」
しっかり頷いてから、マイオルは続きを話し始めた。
「私たちの考えを端的に話すわね。まず反復練習はレベルアップという意味では効果はとても薄いと考えているわ。大事なのは質。上位の熟練度を稼ぐと表現されているけれど、どんな手段を使ってでも、できる限り上位の熟練度を稼ぐことが何よりも大事なんじゃないかって思っている。もし次のレベルにならないと稼げないような上質の熟練度を稼げたとしたら、おそらくレベルは一瞬で上昇するわ。
⋯⋯これが私たちの秘密」
ガイアもプラウティアも聞き逃すまいと必死だ。
「レベルが一瞬で上がるってどういうことですか?」
「プラウティア。セネカがレベル2になった時、一瞬でレベルが上がったとしか思えないほど、突然レベルが上がったそうなの。あたしと出会う前の話なんだけどね」
「はわわ。セネカちゃんとマイオルちゃんが出会う前って⋯⋯。二人はセネカちゃんが十一歳の時に出会ったんじゃなかったですか?」
ガイアも横でプラウティアの意見に賛同している。
「その通りよ。セネカはスキルを得てから二ヶ月ちょっとでレベルが上がったの」
「!?」
「セネカは二ヶ月でレベル2になって、それから一年と少しでレベル3になったの。本物の天才ね。あたしとは違うわ」
プラウティアは『マイオルちゃんだってすごい』と言いかけたけれど、マイオルの心底切なそうな顔を見てやめた。
「みんな勘違いしているけど、あたしはたまたまセネカに会えたからここにいるだけなの。そうじゃなかったらいまだにバエティカの街で、何となく斥候をして、なんとなく生きていたと思うわ」
「龍を倒すっていう夢があったんじゃないのか?」
ガイアは強い口調で聞いた。
「もちろんあったわ。銅級冒険者になって、特待生になって、いつか特別な冒険者になるって言って家を飛び出した。そのあと努力もしていたわ。だけど、本当は途方に暮れていたのよ。夢はあってもどうしたら良いのかはわからなかった。
そうやって迷っている時に私の前にセネカが現れたの。セネカの話を聞いて、なんとか学べることはないかって必死に努力をした。そしたらたまたま上手く行っただけなの」
マイオルはいつも元気いっぱいで周囲に明るさを灯しているが、今は弱々しく見えた。
プラウティアもガイアも何も言うことができなかった。
「セネカのおかげで、あたしは今でもまだ夢を見続けられる。過去のことをいつまでも引きずるのは良くないけれど、あたしはいつか必ずセネカの助けになるって決めているの。
だけど、あたしの力だけでは前に進むのが遅すぎる。このままだとセネカはどんどん強くなっていって、あたしでは手に負えなくなるわ。
だからね。ガイア、プラウティア。
あたしに力を貸して欲しいの。あなたたちは自分の力で王立冒険者学校に入って、いまその才能を花開かせようとしている。
二人は本物の天才なのよ。
私みたいなハリボテの天才じゃない。
そんなあなたたちの力を借りて、一緒に考えて前に進んで行きたいって思ったの」
「分かったよ!」
そう言ってマイオルの手を取ったのは意外にもプラウティアだった。
「毎日あんなに自分を追い込んでいて、マイオルちゃんは鉄人だと思っていたけれど、そんな気持ちがあったんですね。私は自分が何をしたいのか分からないけれど、それが見つかるまでみんなの役に立てるように頑張ります」
「ありがとう、プラウティア」
マイオルはプラウティアにぎゅっと抱きついた。
そんな二人を見てガイアは言った。
「私はマイオルが言うほど天才じゃない。だが、強くなりたいのはみんな一緒じゃないか。スキルの検証も確実じゃないと言うが、不確実な状況に身を任せて強くなっていくのが冒険者だ。⋯⋯マイオル、私もプラウティアもセネカも味方だぞ」
そう言って、さらに外側から二人を抱きしめた。
マイオルの目から涙が溢れる。
それを見たプラウティアがもらい泣きし、ガイアも胸が熱くなって泣いてしまった。
「ありがとう、ガイア。でもあなたはセネカと同じくらいの天才だと思うわよ」
「私もそう思う」
マイオルとプラウティアは笑ってそう言った。
「そうだろうか? 私は全くそう思わないけどな」
「天才ってそうなのよねー」
マイオルがそう言ったのを聞いてプラウティアはクスクス笑い出した。
「どうしたの? プラウティア」
「マイオルちゃんの言い方だと、天才は自分が天才だって気づけないと思ったら面白くって⋯⋯。
そう言ったマイオルちゃんも自分では気付いてないんだけど、天才かもしれないわけです。
だから自覚のない人こそ、自分のことを天才だって思うことにしちゃえば良いかなって思って」
「それって矛盾してない?」
「そうですね。だけど自分のことを天才だって思ったら、何でも出来る気分になるかなって⋯⋯」
「確かにね」
「そうだな」
マイオルはスキルを使って、ニヤっとしてから大声で言った。
「その通りだよね? セネカ!」
すると、猛烈な勢いで近づいて、体当たりするように三人に抱きついて来た少女がいた。
「みんなずるいよ! 何しているの!?」
森に様子を見に来ていたセネカが寂しそうに頭をスリスリ擦り付けている。
「青春よ!」
堂々と言い切ったマイオルはどこか恥ずかしげでもあったけれど、満足そうな顔をしていた。
セネカを交えて四人でじゃれついた『月下の誓い』は笑顔のまま、日が暮れるまで森で遊ぶことにした。
----------
お読みいただきありがとうございます。第5章:王立冒険者学校編(1)は終了です。
次話から第6章(間章):砂漠の少年編が始まります!
例のあの少年が登場します。
マイオルがいれば大抵の人は探知できるため、森で話す方が安全である。
セネカは考えたいことがまだまだあるらしく、今日も王都を徘徊しているようだ。もしかしたらそろそろ煮詰まってキト辺りに相談を持ちかけているかもしれないとマイオルは考えていた。
しばらく歩いて人の気配がしなくなったところでマイオルが切り出した。
「突然連れ出して来ちゃってごめんね。どうしても秘密の話があってね」
「私は構わないが⋯⋯」
「はわわわ。謝らないでください」
いつも通りガイアは冷静で、プラウティアは焦っている。
「だが、この前、聖者の話を聞いたばかりだぞ? それ以上に秘密の話などあるのか?」
ガイアはまたとんでもないことを伝えられるのではないかと身構えた。
「秘密は秘密だけど、教会や政治とは関係がないわ。効果的な修練の話だから」
「そうか」
「安心しました」
ガイアとプラウティアは肩の力を抜いて深く息を吐いた。
「セネカがレベル3だということは伝えたけれど、どう考えても早すぎると思うでしょう?」
二人は神妙に頷いた。二年でレベル3というのは明らかにおかしいが、聞くに聞けなかったのだ。
「あたしとキトがレベル2というのもかなり早いわね。スキルの種類を考えると余計に。おかげで天才だとか言われているけれど、これには秘密があるの」
「⋯⋯秘密?」
プラウティアは息を飲むような仕草をしてから聞いた。
「えぇ。何故私たちがこんなにも早くレベルアップ出来たのかという秘密。それはね——」
「ちょ、ちょっと待って! も、もしかしてレベルアップの秘訣を教えてくれるの? もしそんな方法があるのだとしたら、それは世界をひっくり返すほどの情報ですよ! とてもとても気になるので聞きたいです! でも、そんな話を聞いても私は何も返せないから⋯⋯」
プラウティアは大きめの声で遮り、あわてたように言った。
マイオルが返す。
「そうね。プラウティアの言う通り、これが本当なら世界を揺るがす情報だわ。でも、たった三人だけで検証したことに過ぎないとも言えるの。だから不確実だし、リスクもあると思う」
二人は真剣にマイオルの話を聞いている。
「話を聞いてもらって二人の意見を聞きたいの。私たちが期待する見返りは、二人の率直な意見と議論への参加。試さなくても構わないわ。スキルとレベルのことは一生の問題だからね」
そう言われてじっくりと考えた後で、プラウティアとガイアは口を開いた。
「分かりました。それでもまだ足りないと思うけど、話を聞きます」
「私もマイオルの話を聞いてから判断したい」
しっかり頷いてから、マイオルは続きを話し始めた。
「私たちの考えを端的に話すわね。まず反復練習はレベルアップという意味では効果はとても薄いと考えているわ。大事なのは質。上位の熟練度を稼ぐと表現されているけれど、どんな手段を使ってでも、できる限り上位の熟練度を稼ぐことが何よりも大事なんじゃないかって思っている。もし次のレベルにならないと稼げないような上質の熟練度を稼げたとしたら、おそらくレベルは一瞬で上昇するわ。
⋯⋯これが私たちの秘密」
ガイアもプラウティアも聞き逃すまいと必死だ。
「レベルが一瞬で上がるってどういうことですか?」
「プラウティア。セネカがレベル2になった時、一瞬でレベルが上がったとしか思えないほど、突然レベルが上がったそうなの。あたしと出会う前の話なんだけどね」
「はわわ。セネカちゃんとマイオルちゃんが出会う前って⋯⋯。二人はセネカちゃんが十一歳の時に出会ったんじゃなかったですか?」
ガイアも横でプラウティアの意見に賛同している。
「その通りよ。セネカはスキルを得てから二ヶ月ちょっとでレベルが上がったの」
「!?」
「セネカは二ヶ月でレベル2になって、それから一年と少しでレベル3になったの。本物の天才ね。あたしとは違うわ」
プラウティアは『マイオルちゃんだってすごい』と言いかけたけれど、マイオルの心底切なそうな顔を見てやめた。
「みんな勘違いしているけど、あたしはたまたまセネカに会えたからここにいるだけなの。そうじゃなかったらいまだにバエティカの街で、何となく斥候をして、なんとなく生きていたと思うわ」
「龍を倒すっていう夢があったんじゃないのか?」
ガイアは強い口調で聞いた。
「もちろんあったわ。銅級冒険者になって、特待生になって、いつか特別な冒険者になるって言って家を飛び出した。そのあと努力もしていたわ。だけど、本当は途方に暮れていたのよ。夢はあってもどうしたら良いのかはわからなかった。
そうやって迷っている時に私の前にセネカが現れたの。セネカの話を聞いて、なんとか学べることはないかって必死に努力をした。そしたらたまたま上手く行っただけなの」
マイオルはいつも元気いっぱいで周囲に明るさを灯しているが、今は弱々しく見えた。
プラウティアもガイアも何も言うことができなかった。
「セネカのおかげで、あたしは今でもまだ夢を見続けられる。過去のことをいつまでも引きずるのは良くないけれど、あたしはいつか必ずセネカの助けになるって決めているの。
だけど、あたしの力だけでは前に進むのが遅すぎる。このままだとセネカはどんどん強くなっていって、あたしでは手に負えなくなるわ。
だからね。ガイア、プラウティア。
あたしに力を貸して欲しいの。あなたたちは自分の力で王立冒険者学校に入って、いまその才能を花開かせようとしている。
二人は本物の天才なのよ。
私みたいなハリボテの天才じゃない。
そんなあなたたちの力を借りて、一緒に考えて前に進んで行きたいって思ったの」
「分かったよ!」
そう言ってマイオルの手を取ったのは意外にもプラウティアだった。
「毎日あんなに自分を追い込んでいて、マイオルちゃんは鉄人だと思っていたけれど、そんな気持ちがあったんですね。私は自分が何をしたいのか分からないけれど、それが見つかるまでみんなの役に立てるように頑張ります」
「ありがとう、プラウティア」
マイオルはプラウティアにぎゅっと抱きついた。
そんな二人を見てガイアは言った。
「私はマイオルが言うほど天才じゃない。だが、強くなりたいのはみんな一緒じゃないか。スキルの検証も確実じゃないと言うが、不確実な状況に身を任せて強くなっていくのが冒険者だ。⋯⋯マイオル、私もプラウティアもセネカも味方だぞ」
そう言って、さらに外側から二人を抱きしめた。
マイオルの目から涙が溢れる。
それを見たプラウティアがもらい泣きし、ガイアも胸が熱くなって泣いてしまった。
「ありがとう、ガイア。でもあなたはセネカと同じくらいの天才だと思うわよ」
「私もそう思う」
マイオルとプラウティアは笑ってそう言った。
「そうだろうか? 私は全くそう思わないけどな」
「天才ってそうなのよねー」
マイオルがそう言ったのを聞いてプラウティアはクスクス笑い出した。
「どうしたの? プラウティア」
「マイオルちゃんの言い方だと、天才は自分が天才だって気づけないと思ったら面白くって⋯⋯。
そう言ったマイオルちゃんも自分では気付いてないんだけど、天才かもしれないわけです。
だから自覚のない人こそ、自分のことを天才だって思うことにしちゃえば良いかなって思って」
「それって矛盾してない?」
「そうですね。だけど自分のことを天才だって思ったら、何でも出来る気分になるかなって⋯⋯」
「確かにね」
「そうだな」
マイオルはスキルを使って、ニヤっとしてから大声で言った。
「その通りだよね? セネカ!」
すると、猛烈な勢いで近づいて、体当たりするように三人に抱きついて来た少女がいた。
「みんなずるいよ! 何しているの!?」
森に様子を見に来ていたセネカが寂しそうに頭をスリスリ擦り付けている。
「青春よ!」
堂々と言い切ったマイオルはどこか恥ずかしげでもあったけれど、満足そうな顔をしていた。
セネカを交えて四人でじゃれついた『月下の誓い』は笑顔のまま、日が暮れるまで森で遊ぶことにした。
----------
お読みいただきありがとうございます。第5章:王立冒険者学校編(1)は終了です。
次話から第6章(間章):砂漠の少年編が始まります!
例のあの少年が登場します。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
581
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる