スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜

藤花スイ

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第5章:王立冒険者学校編(1)

第53話:撚糸

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 夕暮れの街を歩く少女がいる。

 少女の足取りは軽くて優雅だ。

 垂れ目の顔に柔らかな表情。ものすごく美人というわけではないけれど、どこか目を惹かれてしまう。

 外から見ると少女は落ち着き払って、冷静に見える。

 しかし、頭の中はその類稀なる頭脳を全力で駆使して、思考に没頭していた。

 良かったという気持ちがある。

 セネカが『スペルンカ』に行くことが決まった時点で最低要件には達した。
 これでルキウスの情報を聞きそびれるということはなくなった。

 彼女の幼馴染はまた格別の結果を残した。

 マイオルも流石だった。
 下調べに始まって、聞き込みまでこなし、結果に繋げた。
 表面上だけ辿れば、偶然担任が知っていただけに見えてしまうが、そうではないことを少女は分かっている。

 一人が達成で、一人がほぼ達成。
 困難な課題に対して二日でこの進展だ。上出来だと言えるだろう。
 本当に良かったと思える。

 だが、悔しくないと言ったら嘘になる。

 相談しながら進めているのだから誰か一人の成果ではない。
 だけど、どこかで取り決められた規則のせいで、『スペルンカ』に行けるのは一人の案内人に対して一人のようだ。

 自分たちは試されているらしい。『試練』という言葉は大袈裟なのだろうが、誰かに認められないと行けないようだ。

「ここまで来て、直接ルキウスの話を聞けないなんて」

 少女の心はそんな想いで満ちていた。
 だから少女は没頭する。
 没入する。
 どうしたら自分もスペルンカに辿り着けるか考え続ける。

 セネカは知っていた。
 キトが周囲を気にせず己の考えに集中する時、その表情は切なげで、楽しげで、神秘的だ。

 顔を出したばかりの月の光がキトを薄ぼんやり照らしている。
 街行く人々はその少女に目を奪われた。





 マイオルがヘロの噴水前で待っているとアッタロスがやってきた。

 アッタロスは冒険者の格好をしているけれど小綺麗だ。髪を香油で軽く撫で付けているようにも見える。

「よし。じゃあ、行くか」

 マイオルはスタスタと歩いてゆくアッタロスの後ろについて王都の街を歩いてゆく。アッタロスは少しずつ外側に向かっているようだ。

 大きな道から中くらいの道に入ってゆき、ついには人が余りいない小路になった。

 細い道を何回か曲がった後、ランタンの灯る店がある。

「あそこに目的の人がいる。気さくでおおらかだが、【探知】スキルは使わないでくれ。気取られるからな。もちろん危険を感じたときはその限りではない」

 聞いたマイオルが「分かりました」と頷くと、アッタロスは笑顔を浮かべて店に入って行った。





「グレイの爺さんはいるか?」

 入るなり、アッタロスがカウンターにいた店主に聞いた。

 この店は入ってすぐのところにカウンターがあるが、そこに客はいなかった。だから奥にも席があるのだろうとマイオルは思った。

「おう! アッタロスじゃねえか。久しぶりだな。グレイさんなら奥のトカラの部屋にいるよ。いつものところだ」

「分かった」

 そう言ってアッタロスはどんどんと店の奥に進んでいった。

 一つ扉を潜るとすぐに階段があるので、そこを下って行く。アッタロスが一言も話さないのでマイオルも黙っている。

 長く下った後、何個も部屋が並んでいた。下った距離的にここは地下の部屋だろう。

 アッタロスは廊下の突き当たりにある部屋に進んで行った。部屋の扉に『トカラ』と書かれている。

 アッタロスは勢いよく扉を開けて言った。

「爺さん、俺だ。アッタロスだ」

「そろそろ来る頃だと思っておったぞ、アッタロス」

 中には精悍な顔つきをした老人がいて、ニカッと笑いながら言った。

 そしてマイオルの方を見た。

「あれ、お嬢さんは誰だい?」

 あんまりな言い方にマイオルは苦笑いをするしかなかったが、内心ではちょっと傷ついた。





「話は分かった。そのお嬢さんがグラディウスに会いたいという訳じゃな」

「あぁ、そうだ。このアッタロス・ペルガモンが認めた」

 アッタロスは機嫌が良さそうだ。

「分かった。それではわしが責任を持って『スペルンカ』に連れていこう!」

「あっはっは。何が責任を持ってだよ。面白い爺さんだなぁ」

 その後、マイオルは二人の会話を聞いていたが、アッタロスは終始楽しそうで、グレイもおおらかに話をしている。

「お二人は随分と仲が良いのですね?」

 会話の隙間にマイオルがおそるおそる聞いた。

「此奴がガキの頃からの付き合いになるからのう。古馴染みみたいなもんじゃな」

 グレイは孫でも見るような優しい目でアッタロスの方を向いた。

「まぁこの爺さんには昔に世話になったんだ。パーティメンバーの保護者みたいなもんでな。口うるさく注意されたこともあったが、今では良い思い出だよ」

「何が口うるさいじゃ! お前が悪ガキだったからだろうが!」

「何言ってんだ。俺ほど物分かりの良い少年もいなかっただろ!」

 語気は荒いけれど、二人ともニヤニヤしていて、心から軽口を楽しんでいそうだったので、マイオルは大人しく様子を見ることにした。

 何度かマイオルの話題になったけれど、何を答えても二人とも笑みを浮かべるだけで深掘りしてこなかったので、マイオルは無難に時を過ごした。





 会合のあと、アッタロスは冒険者学校にマイオルを送って行った。
 マイオルは聞きたいことがたくさんあったのだが、アッタロスは余り答えなかった。

「明日たくさんのことが分かる。それを消化した後で色々と話をしよう。そうなったら俺のことも話せるさ」

 アッタロスは悪巧みをするような笑みを浮かべて言ってくるので、マイオルは憮然とした気持ちを抱いた。

 何度か発言の意図を聞いてみたけれど取り合ってくれないので、マイオルは諦めることにした。





 翌日、キトはセーミアという教官の部屋に向かっていた。

 セーミアは魔法化学の大家で、彼女の作る物質は時に薬剤になったり、武具になったり、はたまたインクになったりする。

 魔導教会の名誉会員に名を連ねるほどの業績をあげていてあらゆる界隈に顔が利くが、権力を振るうことはない。

 笑みを絶やさない穏やかな気質がユリアと合うのだろう。二人は深い友人で、ユリアから「セーミアだけは間違いなく味方だから信用して良い」と言われている。

 キトの足取りは軽くも重くもない。
 やるべきことはやった。調べるべきことは調べた。

 深く深く調べて、結論に至った。

 もしかしたらそれは間違っているのかもしれないが、それでも良い。
 その時は自分の実力不足を認めてやり直そう。キトはそんな風に考えていた。

 早朝、王立冒険者学校に行って、セネカとマイオルと話してきた。
 想定した通り、マイオルは『スペルンカ』への導を得た。

 アッタロスやグレイのやり取りにも細かな手がかりが散りばめられていたようにキトには見えた。

 繋がりははっきり言って細い。
 繋がっていると断言するのは憚られるくらいだ。
 だけど、その細い関わりを引き揃えてっていくうちに、確かな関係がキトには見えてきた。

 前提が違ったら、結論は根底から覆るかもしれない。
 違う視点から見たら荒唐無稽なことを話してしまうかもしれない。

 推測を語るというのは、それにかけた時間の量だけ怖さも増してゆく。

 そんなことを考えているうちに、キトはついにセーミアの部屋についてしまった。

 扉を軽く叩いて返事を待つ。

 さぁ、大一番がやってきた。

 キトは確かな足取りでその部屋に入った。
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