スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜

藤花スイ

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第5章:王立冒険者学校編(1)

第52話:あら、素敵

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 セネカがアピアナと話をしている時、マイオルはアッタロスの教官室にいた。

「それで、その店の情報を俺に聞きたいと言う訳か」

「はい。そうです」

 マイオルはグラディウスとスペルンカのことをアッタロスに説明し、協力を取り付けようとしていた。

「『スペルンカ』という名前は聞いたことがないが、心当たりはある。あの人だったらおそらく知っているだろうという人物が思い浮かんでいるからな」

「本当ですか?」

 マイオルは身を乗り出した。

「あぁ。だが、その人のことを紹介するのは俺にもリスクがある。だから、対価が欲しい」

「対価ですか?」

「そうだ。この話は教師としての役割を大きく逸脱している。だから、冒険者同士の依頼として請け負いたい」

 なるほどそう来たかとマイオルは納得した。

「もちろん成功報酬ですよね? その対価はなんですか?」

「スキルの秘密だ」

「秘密?」

「あぁ、セネカ、マイオル、お前らのレベルアップはどう考えても早すぎる。そこに秘密があるはずだ。その内容を俺にも教えてくれ」

 マイオルは深く考えた。
 その秘密は自分たちにとって生命線でもあるし、知っている人間は少ない方が良い。

 秘密なんてないと言うことも出来るが、今更そんなことを言ってもアッタロスには隠し通せないだろう。

「先生が負う可能性のあるリスクについて教えてください。現時点では釣り合うように思いません」

 マイオルがそう言うとアッタロスは目を細めてからゆっくりと話し出した。

「誤魔化しても仕方がないから言うが、俺とグラディウス殿は見知った仲だ。グラディウス殿は今、教会内で微妙な立ち位置にいるんだ」

 アッタロスは中身を話さなかったが、ルキウスのことが関係しているとマイオルは思った。

「俺に関係しないところで学生が勝手にグラディウス殿のところに行くのは良いが、俺が冒険者学校を利用してグラディウス殿の派閥拡大を画策していると取られるとまずいことになる」

「そういう懸念があることは分かりましたが、それでもやはりレベルのことを話すには足りません」

 アッタロスは顎に手を当てて考える。

「まぁそうだろうな。じゃあ条件を足そう。レベルアップのことに関して俺は情報を他人に漏らすような行為を行わない。加えて、俺がレベル4になってから編み出した技法をマイオルとセネカに伝授しよう。二人にとって確実に益になると断言する」

 マイオルはアッタロスの話を聞いて訝しい気持ちになった。
 そもそもこちらがお願いする側だったはずなのに、なぜか向こうの交渉になっている。

 そしてアッタロスがレベル4になってから得た技術を教えると言うのは、逆に破格だ。

 マイオルたちが掴んでいるレベルアップに関する情報も、レベルが上のアッタロスに通用するか不明なのに、なぜアッタロスがそこまでしようとするのか分からなかった。

 少し考えたあと、マイオルに心当たりが浮かんできたので聞いてみた。

「⋯⋯その技法についてですが、あたしとセネカのどちらの方により有益ですか?」

 すると、アッタロスはとぼけたような目をして、そっぽを向いて言った。

「⋯⋯セネカだ」

 マイオルは突然ジト目になった。

 レベルアップの秘密のことは当然気になっているのだろうが、アッタロスは親友の娘にただ教えを授けたいだけに見えて来た。教師としては贔屓しすぎだ。

「だから突然冒険者同士の依頼とか言い出したんですね?」

「ナンノコトダ?」

 アッタロスはマイオルの方を見ようとしない。
 いつもの威厳が台無しだ。

 マイオルはため息をついた。

「⋯⋯その条件でお願いします」

「よし。そしたら、こういう場合はしっかりと書面に残した方が良いから契約書を作ろう」

 突然キリッとした顔でアッタロスが言うのでマイオルは頷いた。
 どちらにとって良いことなのかは分からない。

「冒険者としての格が上がって行くほど契約することが増えて行くから慣れておいた方が良い。マイオルは商家出身だったよな? 出来れば手解きを受けておいた方が良いぞ」

 確かにマイオルもその必要性を感じ始めて来ていた。もうすぐ長期休みが始まるので実家で相談してみても良いかもしれない。

 アッタロスが上等な紙に契約内容を記したので、マイオルは何度も読んで穴がないか確認し、魔力を込めて契約を行った。

「マイオル、今回のことは大事にはならないが、教会関係のことは気をつけて行動した方が良い。お前ら二人は注意しているだろうが、さらに倍は気を遣って事を進めるんだ。最近はそれぐらい情勢が複雑だ」

「分かりました。アッタロスさんは教会系の派閥なんですか?」

「いや、そんなことはない。だが、グラディウス殿には個人的な恩義があってな。必要に応じて情報交換を行っているんだ」

 マイオルは「なるほど」と言った。

「それじゃあ、契約も結んだし、人を紹介しよう。刻限は明日だったよな? そしたら今日の夜に行くしかない。悪いが二刻後に王都東の『ヘロ噴水』の前に来てくれ。街娘のような格好であればなんでも良い」

 そう決まったのでマイオルは寮に戻ることにした。





 マイオルが寮に戻ると、セネカが帰って来てキトと話をしていた。マイオルは契約書のあたりで時間がかかったために遅くなってしまった。

 話を聞くと、セネカが『スペルンカ』に行く約束をしたと聞いたので、マイオルは契約のことを話した。

「そしたら、セネちゃんはグラディウスさんに会えるのが確定で、マイオルは有力って状況だね」

 キトが言った。

「えぇ、そうね。アッタロスさんとの契約をセネカかキトにしてもらおうと思ったんだけど、『試練を超えたのはマイオルだ』って言って、拒まれたんだよね」

「試練かぁ。一人しか連れて行けないっていうのも何か関係があるのかな?」

「うーん。どうかなぁ。分からないよねぇ」

 キトとマイオルが話しているのをセネカは聞いている。

「セネカ、キト、ごめんね。アッタロスさんにレベルアップのことを話すことにしてしまって」

「ううん。私は良いよ」

 セネカは本当に問題と思っていなさそうな素振りだ。

「私もそれで良かったと思う。吹聴して回るのでなければ問題ないし、いっそのこと、そのアッタロス先生をこちら側に引き込んだ方が良いと思う」

 キトは良いことを思いついた! と言う顔で二人に言った。

「こちら側に引き込むってどういうこと?」

「どうせなんだからしっかり話して、ユリアさんみたいに味方になって貰おうよ。だって、有名な金級冒険者なんでしょ? 私たちがこれから成長して行く上で、先達になる人が必要だよ」

「むぅー」

 セネカは何故か唸っている。
 色々あって有耶無耶になってしまったが、この前の模擬戦で実は完敗していたことを思い出したのかもしれない。

「それは確かにそうね。アッタロスさんはセネカのこともあるから多分信用して良いし、経験も豊富だから味方になってくれたら心強いわ」

「キトもアッタロスさんに会おうよ。話す時に」

 セネカがそう言うとマイオルも乗った。

「ベテランの冒険者だから薬剤開発にも意見を貰えるかもしれないわね」

「あら、素敵」

 キトは嬉しそうだ。

「レベルの話する時にキトも一緒に行こう?」

 セネカがキトの袖口を摘んでちょんちょん引っ張っている。

「そうね。それも良いかもしれないわね」

「あたしはそろそろアッタロスさんとの待ち合わせに行かなくちゃならないわ。帰りがいつになるか分からないから今日はキトには会えないわね。明日の朝、報告するわ」

「うん。私も今から魔導学校で調べ物をしてくる。明日お願いね」

 そんなこんなで、三人はそれぞれのやるべきことに向かって、また動き出した。
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