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第5章:王立冒険者学校編(1)

第50話:ルキウス調査

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 喫茶店での会合の後、セネカとキトは教会へ行って、『グラディウス』という高齢の神官に会いたいという旨を伝えた。

 バエティカでスキルを鑑定してもらった時のお礼だと伝えると、いくらか待たされた後にどの人物か同定された。

 グラディウスは巡礼の旅に出ており、足取りが掴みにくい神官のようだが、定期的に王都に帰ってくるという。

 返事が来るという確証はないが言伝を頼み、帰還の際には王立魔導学校のキトか王立冒険者学校のセネカに連絡が行くように手配した。

 それから時間が経ち、学校は長期休みに入ろうとしていた。
 前期の課題や授業に終わる目処が経ち、休み中の計画を立て始めなくてはならない。

 そんな時、セネカに手紙が届いた。差出人は『グラディウス』である。慌てて開封すると、面会を受諾する旨と候補日時が記載されていた。

 急いで魔導学校に行くと、キトも同じ手紙を受け取ったと分かった。期末の忙しい時ではあるが、二人は予定をなんとか開けて最短でグラディウスに会うことにした。





 約束の日、期末の荒波に揉まれて精神的にボロボロになっていた二人は王都の東に位置する教会を訪れた。
 ここは王都の中では比較的質素な作りをしている教会のようだ。

 受付でグラディウスの名前を告げると二人は司教を名乗る男に案内された。

 男は教会を奥へ奥へ進んで行き、大きな部屋の前で立ち止まり、そのまま扉を開けた。

「グラディウス様、面会人です」

「おう、ウァリウス! お主が直々に連れてきてくれたのか。そりゃあ、すまんかったなぁ」

「いえ、私は良いのです。それではごゆっくり」

 セネカとマイオルを部屋に入れた後、司教は頭を下げ、元来た道を戻っていった。

 部屋の中は質素ではあるものの、比較的豪華に作られている。それなりの格の応接室なのだろう。控えめだが良い香りが漂っている。

 そこに座っていたのは、バエティカで見た時と何も変わらない一人の老神官だった。

「おー! 良く来てくれたな。スキルのお礼に面会する子供と言うのも最近はめっきり減ってしまってのう⋯⋯。なんとも嬉しいもんじゃ。まずはそこにかけてくれ」

 着席を促されたので二人は座った。

 すると、グラディウスは自分の胸元を指差した。

「確かセネカとキトと言ったかのう? 二人のスキルのことを話してもらえるか? なにぶん多くの子供の鑑定をしているでな。申し訳ないが記憶が薄れてしまうのじゃよ」

 そう言いながらもグラディウスは胸元を指差すのをやめなかった。
 気になるので見ていると、胸元にうっすらと輝く文字が浮かび上がってきた。

『ルキウスの話はするな。盗聴されている』

 それを見たキトはグラディウスの質問に答えるために自分のスキルや来歴について改めて話した。セネカもそれに続いて同じようなことを話し、挨拶に来ただけの少女を装った。

 グラディウスは適度に相槌を打って話を広げつつ、輝く文字で必要なことを伝えてくれた。

『ルキウスはここにはいない。今は会えない』
『三日後の夜、「スペルンカ」という店で待っている』
『店は自力で見つけて欲しい』
『そこで話をしよう』
『今日はつけられるかもしれない。明日から動き出せ』

 セネカとキトは背中にびっしょりと汗をかきながら表面では他愛のない話を続けた。

 幸いにもグラディウスがちょうど良い方向に話を振ってくれるので二人はなんとか乗り越えることができた。そして、身体に怠さを感じながらゆっくりと教会から去っていった。





 次の日、セネカはマイオルと協力して『スペルンカ』という店を探すことにした。

 キトは明日の午前にある試験までは身動きがとれないようなのでマイオルに支援を要請した。

 王都近郊出身のガイアにも話を聞いてみたけれど、『スペルンカ』という店のことを聞いたことはないそうだ。

 Sクラスには王都出身の友人がいたけれど、情報が漏れるのを恐れてセネカは聞くことができずにいた。三日目までなにも手がかりがなければなりふり構っていられないが、まずは自分たちで詰めることにする。

 王都には膨大な数の店がある。普通に考えたら探し出せるわけがない。しかし、グラディウスはセネカ達に伝えた。これはセネカ達なら見つけられるという目算があるということである。

 密会するのに適した場所であり、かつセネカやキトであれば見つけられる場所であるというのが大きな手がかりになるとキトは言った。

 グラディウスと話した時にセネカが王立冒険者学校のSクラスであるということ、キトが王立魔導学園の推薦合格者であることは伝えてある。その情報からグラディウスが考えたという可能性もある。

 この話を聞いた時、マイオルはセネカとキトが試されていると感じた。ルキウスの情報は、知恵を持った人にしか知らせたくないのかもしれない。





 店に関する調査はセネカに任せて、マイオルはグラディウス自身のことを調べることにした。

 教会で話せない話をするのであれば、それは必然的にグラディウスと関係の深い店なのではないかと思ったのだ。

 グラディウスは司教に気安い態度で接することができるほど位が高いことが分かっている。
 
 マイオルは冒険者ギルドの資料室にある歴代の教会の役職者の記録を読み漁った。すると、十数年前までは『グラディウス』という人物が枢機卿をしていたことが分かった。

 このグラディウスが同一人物かは分からないが、マイオルはさらに深く調べることにした。そして間接的な証拠を集め、グラディウスの支持母体が教会の魔導系派閥だという結論に至った。

 ギルドの資料室であれこれと考えているとセネカがやってきた。

「セネカ、何かわかった?」

「ううん」
 セネカは首を横に振った。

「収穫はなかったんだけど、ちょっと気になったことがあって調べてたの」

「気になること?」

「うん。部屋に入った時、特徴的な香りがしたんだよね。その香りがグラディウスさんからだったから、もしかしたら手がかりになるかもしれないと思って」

「香り?」

「うん。質素だけど辛さがあって良い匂いだったよ。香草が入ってるんだと思うけれど、それだけじゃなさそうでね」

「そんなに特徴的な匂いだったんだ。それでその香りの出所を探ってきたのね?」

「うん。知り合いが使っている物と同じ物が欲しいって、薬草店のお姉さんに聞いてみたの。そしたら心当たりがあるって言われたから明日行ってみようと思って」

「なんてお店?」

「『ファルマ』。昔からある古い薬局なんだけれど、そこでいくつかのポプリを売っているみたいでね。教会関係の人が出入りしていることもあるみたい」

「それは面白いわね。この件が終わったらあたしも行ってみたいわ。⋯⋯そしたらセネカはその薬局のことも含めて引き続き調査お願いね」

「分かった」

 お互いに分かったことを共有しあったあと、二人はまたそれぞれの調査に戻った。
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