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第5章:王立冒険者学校編(1)
第49話:変な四人
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プラウティア・ヘルバは貴族の四女である。
貴族とは言っても氏族の傍流の傍流であるのだが、プラウティアの家系はとある特徴を持つため、時に元老院から儀式に駆り出されることがあり、歴史が古い。
その特徴とは、女が生まれるとみんな植物系のスキルを授けられるというものだ。
プラウティアの姉たちも次々と植物に関するスキルに目覚めた。
【樹木魔法】、【花占い】、【生長促進】、そしてプラウティアの【植物採取】だ。
家は比較的裕福だった。
植物関係の各種産業に親族が存在するので、スキルを活かしてそれなりにうまくやっている。
スキルに対する信仰心は高めであるものの、スキルを活かせる仕事であれば本人の好きに進路を決めて良いという家風だった。
プラウティアは自分の第一感に従って冒険者になることに決めた。
◆
冒険者になってからのプラウティアの道は決して平坦ではなかった。だが、後から考えていれば恵まれていたのだと思う。
父の伝手で斥候能力に長けた冒険者を紹介してもらって、修練に励むことができた。
植物に関する知識は幼少の頃から学んでいたので、後はスキルに合わせて応用していけば良い。
【植物採取】のスキルは過去に持つ者がいたようだったが、珍しいスキルなので業績も上げやすかった。
プラウティアは周囲から評価されて、王立冒険者学校にも優秀な成績で入学を決めた。
しかし、順風満帆な経歴とは裏腹に、ずっと自分に自信を持つことができずにいた。
◆
スキルはそれぞれの人の個性に合わせて授けられるものだとされている。
しかし、プラウティアの場合、血縁というものが大きく影響しているように思えてしまう。
うまく行くことがあっても、生まれが良かっただけで、自分の力で成したようには思えなかった。
それが恵まれていることなのだとは理解できても、何だか割り切れない気持ちが胸の中で渦巻いていた。
女にだけ授けられる植物系のスキルを家族は『祝福』だと礼賛している。それは事実なのだろうとプラウティアも感じている。
だけど、これは『呪い』なのではないかという考えも頭の何処かにあって、素直に受け入れられない自分もいる。
そんな葛藤がプラウティアという人間を形作ってきたのだった。
◆
プラウティアが王立冒険者学校に入ってから三ヶ月が経った。
セネカ、マイオル、ガイアとは週末に一緒に活動する『週末パーティ』ということでお試し期間だったのだが、先週正式にパーティを組むことに決めた。
形としてはセネカとマイオルの『月下の誓い』に二人が加入するということになるので、ギルドで手続きを行った。
この三ヶ月間、プラウティアは無我夢中だった。毎日鍛錬をして勉強をして、仲間と一緒に笑い合った。
名実共に冒険者になったと実感することが出来るようになった。
◆
はっきり言って『月下の誓い』の三人はおかしい。
とにかく理解不能なのはセネカだ。
パーティに加入したことでセネカがレベル3であるということがプラウティアとガイアに伝えられた。
王都の森で活動しているときでもセネカの実力はすごいと思ったものだったが、かなり力を抑えた状態だったらしい。
最近、セネカはマイオルと一緒に地面にまち針をグサグサ刺して何やら話している。
「こんな感じ?」
「いやもうちょっと左がいいんじゃない?」
理解不能だ。
◆
パーティリーダーのマイオルもおかしい。
変人ばかりのSクラスの中で『常識人』と言われているようだ。
確かにそうだと思える部分も多い。
だけど、マイオルは訓練の鬼だ。
セネカは自分がやるべきことに没頭しているように見えるのに対して、マイオルはひたすら自分を鍛えているように見える。
厳しいところにあえて身を置くような苛烈さがある。
訓練から離れると二人とも快活で明るい性格だ。Sクラスの人たちはセネカとマイオルがどれだけ日々自分を追い込んでいるのか知らないだろう。
むしろ、のほほんと毎日を過ごしているようにすら見えているかもしれない。
だけど、よく観察するとそうではないことが分かるのだ。
◆
最後にガイアだ。
ガイアはスキルが異常に強力だということにみんな目が行っている。
驚くほどに強力な魔法だと思う。
だけど、冷静に考えると、あのスキルのお披露目をせずにここまで来れたのがおかしい。
いくら学科ができると言っても、この実技偏重の冒険者学校でBクラスに在籍することができたのだ。スキル抜きで。
スキルを駆使して必死に頑張ってAクラスに入ったプラウティアには、それがどれだけ異常なことか分かる。
確かにガイアにはスキル以外で突出した能力はない。
プラウティアやセネカのように採取には秀でていないし、マイオルのように指揮ができるわけでもない。けれども、ガイアは抜け目がない。
ずっと一人で過酷な野営生活をしてきたことも影響しているのだろう。勉強を重ねてきたことも原因だろう。
場慣れしている上に、机上の勉強と実践的な知識が結びついている。
マイオルとは違う意味で参謀的な役割を果たし始めている。
魔法の訓練も最近は進んできていて、覚醒の兆しが見えてきている。
◆
プラウティアは毎日ダガーを振っている。
走っている。
学校の雑草を採取して、戯れにスキルを磨いている。
最初は正直きついと思って、セネカ達と組むのをやめようかなとも考えた。
だけど、今はそんな毎日が大好きだ。
周りの三人ははっきり言っておかしい。変だ。
だけど、誰もプラウティアのことをおかしいと言わない。変だと言わない。
あれだけ自分のことをおかしいと思っていたプラウティアが「自分は案外普通なのかもしれない」と思ってしまうほどに変わった人たちばかりだ。
意外と居心地が良い。
いつのまにか自分も毒されてしまったかもしれない。
そう考えると笑いが込み上げてくる。
プラウティアは英雄になりたいわけでも、冒険をしたいわけでもない。
だけどここにいたら、やりたいことが見つかる気がした。
自分を呪っていたのは自分自身だったのかもしれない。
そんなことを頭の片隅で考えながら、プラウディアは今日もダガーを振り回す。
貴族とは言っても氏族の傍流の傍流であるのだが、プラウティアの家系はとある特徴を持つため、時に元老院から儀式に駆り出されることがあり、歴史が古い。
その特徴とは、女が生まれるとみんな植物系のスキルを授けられるというものだ。
プラウティアの姉たちも次々と植物に関するスキルに目覚めた。
【樹木魔法】、【花占い】、【生長促進】、そしてプラウティアの【植物採取】だ。
家は比較的裕福だった。
植物関係の各種産業に親族が存在するので、スキルを活かしてそれなりにうまくやっている。
スキルに対する信仰心は高めであるものの、スキルを活かせる仕事であれば本人の好きに進路を決めて良いという家風だった。
プラウティアは自分の第一感に従って冒険者になることに決めた。
◆
冒険者になってからのプラウティアの道は決して平坦ではなかった。だが、後から考えていれば恵まれていたのだと思う。
父の伝手で斥候能力に長けた冒険者を紹介してもらって、修練に励むことができた。
植物に関する知識は幼少の頃から学んでいたので、後はスキルに合わせて応用していけば良い。
【植物採取】のスキルは過去に持つ者がいたようだったが、珍しいスキルなので業績も上げやすかった。
プラウティアは周囲から評価されて、王立冒険者学校にも優秀な成績で入学を決めた。
しかし、順風満帆な経歴とは裏腹に、ずっと自分に自信を持つことができずにいた。
◆
スキルはそれぞれの人の個性に合わせて授けられるものだとされている。
しかし、プラウティアの場合、血縁というものが大きく影響しているように思えてしまう。
うまく行くことがあっても、生まれが良かっただけで、自分の力で成したようには思えなかった。
それが恵まれていることなのだとは理解できても、何だか割り切れない気持ちが胸の中で渦巻いていた。
女にだけ授けられる植物系のスキルを家族は『祝福』だと礼賛している。それは事実なのだろうとプラウティアも感じている。
だけど、これは『呪い』なのではないかという考えも頭の何処かにあって、素直に受け入れられない自分もいる。
そんな葛藤がプラウティアという人間を形作ってきたのだった。
◆
プラウティアが王立冒険者学校に入ってから三ヶ月が経った。
セネカ、マイオル、ガイアとは週末に一緒に活動する『週末パーティ』ということでお試し期間だったのだが、先週正式にパーティを組むことに決めた。
形としてはセネカとマイオルの『月下の誓い』に二人が加入するということになるので、ギルドで手続きを行った。
この三ヶ月間、プラウティアは無我夢中だった。毎日鍛錬をして勉強をして、仲間と一緒に笑い合った。
名実共に冒険者になったと実感することが出来るようになった。
◆
はっきり言って『月下の誓い』の三人はおかしい。
とにかく理解不能なのはセネカだ。
パーティに加入したことでセネカがレベル3であるということがプラウティアとガイアに伝えられた。
王都の森で活動しているときでもセネカの実力はすごいと思ったものだったが、かなり力を抑えた状態だったらしい。
最近、セネカはマイオルと一緒に地面にまち針をグサグサ刺して何やら話している。
「こんな感じ?」
「いやもうちょっと左がいいんじゃない?」
理解不能だ。
◆
パーティリーダーのマイオルもおかしい。
変人ばかりのSクラスの中で『常識人』と言われているようだ。
確かにそうだと思える部分も多い。
だけど、マイオルは訓練の鬼だ。
セネカは自分がやるべきことに没頭しているように見えるのに対して、マイオルはひたすら自分を鍛えているように見える。
厳しいところにあえて身を置くような苛烈さがある。
訓練から離れると二人とも快活で明るい性格だ。Sクラスの人たちはセネカとマイオルがどれだけ日々自分を追い込んでいるのか知らないだろう。
むしろ、のほほんと毎日を過ごしているようにすら見えているかもしれない。
だけど、よく観察するとそうではないことが分かるのだ。
◆
最後にガイアだ。
ガイアはスキルが異常に強力だということにみんな目が行っている。
驚くほどに強力な魔法だと思う。
だけど、冷静に考えると、あのスキルのお披露目をせずにここまで来れたのがおかしい。
いくら学科ができると言っても、この実技偏重の冒険者学校でBクラスに在籍することができたのだ。スキル抜きで。
スキルを駆使して必死に頑張ってAクラスに入ったプラウティアには、それがどれだけ異常なことか分かる。
確かにガイアにはスキル以外で突出した能力はない。
プラウティアやセネカのように採取には秀でていないし、マイオルのように指揮ができるわけでもない。けれども、ガイアは抜け目がない。
ずっと一人で過酷な野営生活をしてきたことも影響しているのだろう。勉強を重ねてきたことも原因だろう。
場慣れしている上に、机上の勉強と実践的な知識が結びついている。
マイオルとは違う意味で参謀的な役割を果たし始めている。
魔法の訓練も最近は進んできていて、覚醒の兆しが見えてきている。
◆
プラウティアは毎日ダガーを振っている。
走っている。
学校の雑草を採取して、戯れにスキルを磨いている。
最初は正直きついと思って、セネカ達と組むのをやめようかなとも考えた。
だけど、今はそんな毎日が大好きだ。
周りの三人ははっきり言っておかしい。変だ。
だけど、誰もプラウティアのことをおかしいと言わない。変だと言わない。
あれだけ自分のことをおかしいと思っていたプラウティアが「自分は案外普通なのかもしれない」と思ってしまうほどに変わった人たちばかりだ。
意外と居心地が良い。
いつのまにか自分も毒されてしまったかもしれない。
そう考えると笑いが込み上げてくる。
プラウティアは英雄になりたいわけでも、冒険をしたいわけでもない。
だけどここにいたら、やりたいことが見つかる気がした。
自分を呪っていたのは自分自身だったのかもしれない。
そんなことを頭の片隅で考えながら、プラウディアは今日もダガーを振り回す。
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