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第5章:王立冒険者学校編(1)

第39話:流星の冒険者

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 次の日は授業開始日だ。

 セネカは朝早く起きて素振りをしながら胸を躍らせた。

 昨日はガイアとプラウティアに出会えて楽しかった。
 二人とも特異な能力を秘めていて、そして頭が良い。
 セネカとは違う世界で生きてきた二人だった。

 今日はどんな人に会えるのだろうか。
 強い友達はいるだろうか。
 いつのまにか素振りに力が入ってしまっていた。

 部屋に戻るとガイアが起きていた。

「おはよう、セネカ。武器を持っているけれど、もしかしてまた鍛錬?」

 ガイアは信じられないものを見たような目をしている。

「そうだよ。今日は初日だから軽めにしたの」

 ガイアがセネカを見ると汗で髪が濡れている。

「それのどこが軽めなのか分からないけれど、まだ早いし、軽く汗を流してきたら? この寮にはシャワールームもあるって聞いたよ」

「そうなんだ! 行ってくるね」

 タオルと着替えを持ってセネカが部屋を出ると、隣の部屋から人が出てきた。マイオルだ。

「おはよう! マイオルも汗を流しに行くの?」

「おはよう! セネカも朝の鍛錬が終わったところなのね。一緒に行きましょう」

 汗だくのマイオルはセネカを見るとニコッと笑って言った。

「私は寮の横の林で刀を振っていたんだけど、マイオルはどこにいたの?」

「あたしは反対側の広場みたいなところね。こっちには何人か人がいたんだけど、そっちには人はいた?」

「いや、私一人だったよ」

「あたしも明日はそっち側に行こうかしらね」

 そう言いながら二人はシャワーを浴びて身支度を整えた。





 王立冒険者学校は広大な面積を誇る。

 敷地の真ん中には大きな校舎が立ち並び、大半の学生はここで時間を過ごすことになるが、一部例外が存在する。

 それはSクラスの人間だ。

 Sクラスには専用の校舎が用意されており、学園の端に存在する。
 ちょうど女子寮の真反対にSクラスの校舎があるので、セネカとマイオルは走って行くことにした。

 二人は学校から支給された学生服を着て、最低限の武器だけを持っている。

 多くの学生が敷地内を行き交っている。
 みんな優雅に歩いていて、二人のように走っている者はいない。

 田舎者がいると思われるかもしれないが、実際田舎者なので良いかとマイオルは開き直っている。
 セネカは注目されているのに慣れているので何とも思っていないようだ。キラキラとした瞳で周囲をキョロキョロと伺っている。

「セネカ、見えてきたわよ。あれがあたし達の校舎ね」

 セネカはマイオルを指す方を見た。すると、古ぼけた石造りの建物が見えてきた。

「あれが私達の校舎なの?」

「そうよ。昔、この学校が始まった時はあの校舎しかなかったんだって。当時の質実さを受け継ぐために成績優秀者だけはこの校舎に集まることになっているみたい」

 周囲には二人しかいないようだ。

 マイオルは意を決して建物に入った。





 一年の教室に行くとすでに五人の生徒がいた。

「君たちもSクラスなのかな?」

 教室の中心で話をしていた男がこちらに寄ってきた。
 金色の長い髪を垂らしたキザな男だった。しかし、軟弱な空気は微塵もなく、隙のない立ち姿をしている。

 セネカとマイオルはゆっくり頷いた。

「そうか! 僕はプルケル・クルリス、銅級冒険者だ! よろしく頼む!」

 プルケルが手を差し出してきたのでマイオルは握手した。

「あたしはマイオル、銅級冒険者よ」

「おぉ! 君がマイオルさんか! 特待生同士よろしく頼むよ。となればそっちの女性は⋯⋯」

 目があったのでセネカは言った。

「セネカ。よろしくね」

 セネカは人見知りが発動してややぎごちないがプルケルには関係なかったようだ。

「やっぱりそうか! バエティカ支部から二人も特待生を出すなんてすごいよね。二人はパーティなのかい?」

「そうよ。あたし達は二人でやってきたの」

「そうか。それはさぞ人気があっただろうね。こんなにも見目麗しい女性が二人いて、実力もあるんだから!」

 マイオルは心の中でプルケルのことを『貴公子』と呼ぶことにした。余りにも馴れ馴れしいので皮肉を込めている。

 セネカはルキウス以外の男のことはジャガイモのようにしか思っていないので、何にも感じていなかった。

「おい、プルケル! 俺にも二人を紹介してくれよ!」

 そう言って茶色の髪を見事に立てた少年が近づいてきた。

「俺はストロー・アエディス。銅級冒険者だ。気軽にストローって呼んでくれよな!」

 なんとも元気な男である。

 その後も教室の人を紹介されたが、セネカは全部を覚えることが出来なさそうだったので、途中から話をキャンセルしていた。大胆である。

 マイオルは話の輪に入って何かやっているようだ。セネカが教室を見回すと、椅子に座って静かに外を眺めている少女がいた。

 波長が合う気がしたのでセネカは話してみることにした。

「私はセネカ、よろしくね」

 少女はくりくりの瞳をセネカに向けてゆっくり応えた。

「私はニーナ。トリアス出身なの。よろしくね」

 セネカは満面の笑みでニーナとの邂逅を楽しんだ。





 授業開始時間が迫ってきたので、それぞれが思い思いの席に座った。

 セネカは後ろの方の席に座った。左にはニーナ、右にはマイオルがいる。

 プルケルとストローは最前の席で誰が担任なのだろうと話している。
 例年Sクラスの担任には高名な冒険者が選ばれるらしい。

 マイオルは少し前からなんだかニヤニヤしているけれども、理由はわからない。楽しいことがあったのかもしれないとセネカはなんとなく流していた。

 少しすると、人が歩いてくる音が聞こえてきた。
 一般的には静かな音だけれど、冒険者にしては大きい音だ。わざと鳴らしているのかもしれない。

 教室が静まり返り、全員が入り口に注目する。

 入ってきたのは歴戦を感じさせる細身の男だった。

「あー!!!」

 セネカが立ち上がって大きな声をあげる。
 マイオルはついに堪えきれなくなって吹き出した。

 入ってきた男は教室を見回してから言った。

「Sクラスの担任をすることになったアッタロス・ペルガモンだ。よろしく頼む」

 セネカが指をさして固まっていると今度はプルケルとストローが立ち上がって声を上げた。

「『流星』のアッタロスだ! 先の戦線の英雄、伝説の金級冒険者が担任だぞ!」
「【魔剣術】の最高峰の冒険者だ! ありえない!」

 教室がざわつきだしたのでアッタロスは苦笑いをしながら手振りで騒ぎを鎮めた。

「今年のSクラスは特待生が五人もいる。これは例年にない数だ。豊作なのは喜ばしいことだが、それだけ注目度も高い。俺も担任として最善を尽くすつもりだが、冒険者は基本自己責任だ。才能あふれる諸君はこの恵まれた環境を活かして、より高みに上がってもらえればと思う。
中には俺が直接審査を行った者もいる。その時はまさか担任になるなんて思っていなかったが、才気溢れる君たちの担任ができるのは俺だと推されてここに来ることになった。はっきり言って器じゃないと思うが、先達としてしっかり指導させてもらう。改めてよろしく頼む」

 アッタロスは改めて教室にいた十二人の生徒の顔を見た。

「詳しいことは後で副担任のミトアさんに説明してもらうことにするが、Sクラスは毎週この時間に集まって俺の授業をすることになっている。内容は一任されている。講義をする時もあるだろうが、基本的には実技をするつもりだ。
このクラスには必然的に血の気の多いやつが集まる。せっかくの初日だし、まずはそれぞれ模擬戦をしてもらおうか。校舎裏にちょうど良い場所があるからみんなで移動しよう」

 そう言われたのでみんな席を立って移動を始めた。
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