スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜

藤花スイ

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第3章:銅級冒険者昇格編

第31話:当たりスキル

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 マイオルがそれをジューリアに話すと、ジューリアからナエウスに伝わり、ついにはギルドのほぼ全ての冒険者が知ることとなった。
 だから、セネカが森の広場についたときにはすでに多くの観客が待っていて、指笛をピーピー鳴らす者までいた。

 すでにノルトは待っていて、セネカを咎めるような目で見ていたけれど、セネカには覚えがないので特に反応しなかった。
 むしろマイオルが申し訳なさそうな顔をしているのが何故かセネカには分からなかった。

 観客がいるのは予想外だったがセネカは注目されているのに慣れている。ただでさえ人目を引く美少女なのに時たま奇行をするのだから周囲の者は目を離すことができなくなってきている。
 一方のノルトはこういう事態に慣れてはいなかったが、今日は一世一代の勝負である。全力を出さねばならぬと息巻いている。

 ノルトは前に出て模擬剣を抜いてから言った。

「セネカ、今日は本気を出してくれ! 俺はどんなに惨めでも良い。俺とお前の今の距離を知りたいんだ!」

「分かった」

 ノルトの言葉に気をよくした者は多かった。
 これだけの見世物になっている中で見栄を張らずに戦おうというのだ。ノルトのことをよく知らぬ者も「ほう」と評価を高めた。

「セネカ、俺たちがスキルを授かった時のことを覚えているか?」

 セネカは何の話をしているのか分からなかったので首を傾げた。

「俺はお前のスキルを『ハズレ』だと言った」

 その言葉を聞いた途端、セネカの目がピッと張り詰めた。場に緊張感が立ち込める。

「俺は自分の【剣術】を当たりだと思ったんだ。そんな俺がやっとのことで鉄級冒険者になっているときに、お前はもう銅級だ」

 セネカは謎の迫力を出しながらノルトの話を黙って聞いている。

「差がついてしまったのかもしれないが、俺はその言葉を訂正する気はない。俺の『当たり』はお前の『ハズレ』に必ず追いつく!」

 ノルトは剣を青眼に構えた。見る人が見れば歳の割に良く鍛錬していると分かるだろう。
 セネカはノルトの言葉を聞いて張り詰めた空気を幾分か弛緩させた。

「ノルトのそういうところは嫌いじゃないよ。そんなことを言ったら私が手を抜くわけにはいかないって、分かって言ってる」

「はっはっはっはっ」
「あっはっは」

 突然笑い出した二人に周囲の冒険者は戸惑っている。

「ノルト、先に言っておくね」

 ノルトはセネカの一挙手一投足を見逃さないように観察した。

「すごく強くなった」

 ノルトは何かが来ると思って深く集中した。

 瞬きすらもせずにセネカを見ていた。

 そのはずだった。

 なのにいつのまにかセネカが視界から消えた。

 そして、後ろから剣で殴られて、そのまま気絶した。





「それで、あれは何をしたの?」

 帰り道でマイオルがセネカに聞いた。

 あの時、マイオルの目にはセネカが普通にノルトの背後に回って剣で叩いたようにしか見えなかった。
 確かにものすごく速かったけれども、若手の有望株と評されるノルトが反応出来ないほどの動きではないように思った。反応できないのと避けられないは明確に違う。

「あれはノルトの意識の隙間を【縫った】の」

「はい?」

「人の意識って、続いているように見えても実は途切れ途切れだったりするの。むしろぐっと集中している時ほど視野が狭くなっているから、その隙間を狙ってみた。ノルトとは戦い慣れているし、出来るかなって」

「それでやってみたら魔力をほとんど失ったと」

「そうみたい」

 えへへと笑うセネカの顔はとてもかわいかったが、やったことは全く可愛げがない。これが誰にでも使えるようになったら無敵なのではないかとマイオルは思ったので、本人に聞いてみた。

「それって鍛えたら最強じゃない?」

「うーん。いや、どうしても隙が見えない人とか、意表をついても通用しない人っているんだってさ。でも知能の低い魔物には良く効くかもね」

「それってどういう情報よ」

「昔、お父さんが言っていたの」

 セネカはとびきり寂しそうな顔をした。
 本人は無自覚のようだが、両親やルキウスの話をする時、セネカは壊れてしまいそうなくらい切ない顔をすることがある。

 マイオルはなんとか話を変えるためにそのあと一生懸命頑張った。





 ノルトがナエウスに起こされたのはセネカがこの場を去ってからすぐ後のことだった。

 セネカは観客に腕聞きの回復士が何人もいることを知っていたので、比較的強く攻撃した。それは「全力で来てくれ」と言ったノルトの気持ちにセネカなりに答えた結果だった。

 結局ノルトを回復したのはジューリアだった。

 ジューリアは気に入った相手しか回復しない。傷が深い時や同じ依頼を受けている時は別だが、平時に回復をしているとキリがなくなる。貴重な魔法を行使し続けるためにはどこかで線引きをしなくてはならない。それがジューリアの矜持だった。

 ジューリアはセネカとマイオルだったら躊躇わずに回復する。単に可愛い後輩だからということだけではなく、あの二人の姿勢に敬意を持っているからだ。
 セネカとマイオルはなるべくして銅級冒険者になったのだと多くの同業者が認めている。それは二人の鬼気迫る活動と誠実な行動から来たものだった。

 ジューリアはノルトのことは嫌いではない。
 真面目なのは知っているし、勤勉なこともよく分かっている。時に尊大になることもあるようだが、そんな冒険者は多いので気にならない。
 優秀だが、パッとしない。ジューリアはノルトにそんな印象を持っていた。
 だが、セネカに対峙するノルトを見て考えが変わった。

 セネカはジューリアから見ても凄すぎる。思わず嫉妬してしまいそうになるほどの才能だ。
 『樫の枝』は優秀なパーティだ。全員が近いうちに銀級冒険者になると評されるほど期待されている。それでもこれまでにさまざまな才能に追い越されてきた。上には上がいる世界だと何度も思い知らされてきた。

 『新緑の祈り』が来た時も衝撃だった。アンニアは若くして銅級になった才媛で、あっという間にバエティカでも有数のパーティを作り上げた。
 そんなアンニアと比べてもセネカは凄すぎる。それについていこうと己の道を邁進するマイオルも常軌を逸している。
 一緒にいるとそんなことは微塵も思わないのだけれど、改めて考えるとハッとしてしまう。

 ジューリアでさえ、そうなのだ。そんな才能を身近で見てきたノルトはどうだったのだろう。
 ノルトは十分に優秀だ。セネカとマイオルさえいなければ街一番の若手だと胸を張れる。このまま順調に育てば将来は銀級冒険者になれるかもしれない。それはかつてのジューリアたちと同じだ。

 じゃあ、ジューリアがまだ子供の時にセネカが隣にいたらどうだっただろうか。
 そう考えると胸が痛む。
 圧倒的な才能の前には多少の才なんて霞んでしまう。
 もしかしたら自分は逃げてしまったかもしれない。潰れてしまったかもしれない。

 だからなのだろう。
 恥を晒してでもセネカに真正面からぶつかろうとするノルトの姿に激しく胸を揺さぶられた。
 ノルトが倒れた時、真っ先に走り出してしまった。

 そういう冒険者が何人もいた。
 治療を終えて気づけば、ノルトの周りには『樫の枝』の男たちを含めてさまざまな冒険者がいた。みんなそれなりに経験を積んできた者達ばかりだ。若い冒険者達はノルトのことを惨めだ馬鹿だと罵っている。
 そんな奴らはナエウスが睨みを飛ばして追い払った。





 ノルトが目を覚ますと先輩の冒険者達に囲まれていた。
 周囲を見まわし、自分を起こしてくれているナエウスの様子から自分が負けたことを悟った。

 ノルトの記憶は鮮明だったが、何が起きたのかは全く分からなかった。
 昔からセネカと戦うと、いつのまにか負けていることがある。今回もそれだった。
 シンプルに強くて速いルキウスとは違う強さをセネカは持っている。あれが異質な強さだということをノルトはよく分かっていた。

 近くにいるピケとミッツを見ると二人とも苦笑いをしている。今回も二人に相談してセネカ対策をしてきたのだが、全く意味をなさなかった。
 セネカやルキウスに対策が功を奏したことは正直ないが、あの二人以外には大抵の策が通用する。
 あの二人に対抗するために三人はものすごい早さで成長してきたのだ。今回のことも必ず糧になる。そんな確信がノルトにはあった。

 だからノルトは小さくつぶやいた。

「次は良い勝負にしてやる」

 それは本当に小さな声だったのだが、幾人かの耳には届いた。
 特に一番近くにいたナエウスにははっきりと聞こえたので、彼はとても良い顔でノルトに言った。

「ノルト、お前良いよ。俺が剣を見てやるから今度俺らのところに来い」

 憧れのナエウスに誘ってもらえて、ノルトは破顔した。



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ここまで読んでいただきありがとうございます。第3章:銅級冒険者昇格編は終了です。

次話から第4章:ルシタニア編が始まります。短い章になる予定です。
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