スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜

藤花スイ

文字の大きさ
上 下
22 / 219
第3章:銅級冒険者昇格編

第22話:帰還

しおりを挟む
 マイオルは倒れそうになるのを必死に堪えながら、キト特製のポーションを飲んだ。このポーションは体力だけではなく、僅かながら魔力も回復する。

 【探知】を使うと敵の反応が消えている。
 セネカが倒したのだろう。
 しかし、セネカの魔力反応が非常に弱くなっている。危ない状態なのかもしれないと思ってマイオルは走った。

 大した距離ではないけれど、身体の重みと焦りから非常に遠くに感じる。

 セネカの姿が見えた。
 床にぺたんと座り込んでポーションを飲んでいる。

「セネカ!」

 セネカはマイオルの方を向き、ひどく柔らかな顔で微笑んだ。

「やったね。マイオル」

 そう言った後、セネカは気を失った。





 セネカは目覚めた。
 誰かの肩に担がれているようだ。

 なんとなくゴツゴツしているので男性だろうとセネカは思った。

 身じろぎをしてみる。

「ん? 起きたか?」

 聞き覚えのある声だ。

 目を開けてみるとマイオルの顔があった。

「セネカ! 起きたのね!」

「やっぱり起きたか。一旦下ろすが大丈夫か?」

 セネカは小さく「うん」と言った。

 すると優しい動きで地面に寝かされた。

 セネカはゆっくりと身体を動かして立ち上がった。
 痛みはなく、怪我は治っているようだ。

 見回すと、マイオルと『樫の枝』の四人がいる。
 セネカを担いでいたのはナエウスのようだ。

 ジューリアが近づいてくる。

「セネカちゃん、大丈夫? 怪我は私の魔法でほとんど治ったけれど、酷い状態だったから⋯⋯」

 ナエウスもジューリアもすごく心配そうな顔をしているのが分かった。
 離れたところにいるマイオルは泣きそうに見える。

 セネカは手を軽く握りしめたり、足ぶみしたりしてみた。疲労感はあるものの、身体に問題はなさそうだ。

「大丈夫みたいです」

「そうか⋯⋯。良かった」

 ナエウスが落ち着いた声で言った。





 念のためというジューリアの言葉を聞いて、セネカは再びナエウスにおぶさった。

 セネカが気を失ってから、マイオルはセネカに応急処置を行った。
 セネカはポーションを飲んでいたのである程度の回復はしていたが、内臓が傷ついていたらしい。

 血相を変えたマイオルは矢筒や弓を捨て置いてセネカを背負った。

 そして街に向かって泣きながら走っているところをメーノンが発見したらしい。

 事情を聞いた『樫の枝』の面々は即座に行動してくれた。
 ジューリアはセネカとマイオルの治療、ナエウスとメーノンは現場の確認と物資の回収、アカルスはセネカたちの護衛だ。

 おかげでマイオルの弓矢をはじめ、あばれ猿の牙と尻尾など討伐証明になる物を回収することができた。

 ジューリアの回復魔法も間に合ったのでセネカの命は救われたが、一向に目を覚まさないのでみんなに心配をかけたらしい。
 セネカは誠心誠意お礼を言った。

 そんなこんなで、背負われて運ばれているうちにだんだん調子が戻ってきたように感じたので、セネカは下ろしてもらった。

 そしてゆっくりマイオルに近づき、そっと抱きしめる。

「生きて帰って来れたね。マイオル、ありがとう」

 抱き合う二人の姿を見て、ナエウスはなぜか涙した。





 バエット山林の周辺部に差し掛かった時、セネカはキョロキョロし出した。
 そして小さな一角ウサギを探し出して、首を刎ねた。

 一行はセネカが突拍子のないことをするのは知っていたが、突然のことだったので驚いた。

「セネカ、どうしたの?」

 マイオルが聞いた。

「ここで倒しておかないと森に入るのが怖くなる気がして」

 マイオルが疑問符を浮かべているとジューリアが言った。

「死に近づく経験をした後で緊張が解けると恐怖が襲ってくることがあるの。そのおかげでもう二度と魔物と戦えなくなる冒険者もいるわ」

 ナエウスがあとを続ける。

「『もっと調子が良くなったら』って言っているうちに魔物の領域に入れなくなることもある。そういう時は多少無理矢理でも早めに魔物と対峙した方が良いのさ。セネカちゃんはそれが感覚的に分かったんだろう。マイオルちゃんも真似してみたらどうだ?」

 そう言われてマイオルも辺りを探した。
 メーノンがスキルでオオガエルを見つけてくれたので、マイオルは両断した。





 『樫の枝』のおかげで何とかバエティカに帰ってきた二人はギルドに簡単な報告をした後、寮に帰った。

 積もる話はあったが、お互いに体力の限界だったので、また後でということになり、眠った。

 マイオルはそれから二日間起きなかった。

 重症だったのはセネカの方だったが、セネカは次の日にひょっこり起きて活動を始めた。

 ギルドに行って事細かく報告すると、トゥリアがすごく心配していた。
 ジューリアにも会ったので調子の報告をした。そのあとで治療費を払おうとしたが断られた。
 それから、キトに薬のお礼を行ったりとさまざまだった。

 そんな感じで過ごしているとマイオルが起きた。
 時折寝返りを打っていたのでそろそろ起きるかもしれないとセネカは思っていた。

「おはよう! マイオル」

 ぼんやりとしているマイオルに向かってセネカは端切れよく言った。

 マイオルは辺りをキョロキョロしていて状況が掴めていないようだ。

「バエティカに帰ってきて、私たちの部屋に戻ってきて、マイオルは二日も眠っていたんだよ? 調子はどう?」

 セネカの話を聞いてマイオルは目が覚めたようだ。

「えっ、二日?」

 そう小声で言った。

 セネカが応えようとしたところ、マイオルは急に立ち上がって言った。

「セネカ、あたしレベル2になった⋯⋯」

 しかし、突然立ち上がったものだから、言うなり眩んでヘロヘロとベッドに戻って行った。

 セネカはとびきりの笑顔で言った。

「やっぱり⋯⋯。マイオル、おめでとう!」

 マイオルは起きたてで情緒が不安定だったので、セネカの言葉を聞いて泣き始めた。

「あたし、死んじゃうかと思ったの。
 勝てる見込みがない戦いで、頭が真っ白になった。
 自分のことを無力に感じた。
 だけど、やけっぱちになって意地だけで進んでみたら突然パッと道が拓けたんだ。
 これが最期なのだとしたら、全てを賭けないと後悔するって。
 それで戦ったらあばれ猿は倒れて、あたしのレベルは上がっていたの」

 セネカは「うんうん」と聞いてから、マイオルのことを抱きしめた。

 いつもはお姉さんなマイオルもこの時だけはセネカの胸の中でメソメソと泣いた。





 数日間休んだ後、マイオルはセネカとバエット山林に行った。
 マイオルのレベルが上がった効果を確認するのが目的なので依頼は受けていない。

 マイオルはここに来るまでに走ったが、身体能力が明らかに向上しているのが分かった。
 身体は軽くてキレが良い。セネカよりも俊敏に動けそうだ。
 盾や剣を持つ腕の感触的に筋力もかなり上がっているようだ。
 慣れるのに時間が必要だが、近接戦闘能力の向上が見込めるとマイオルは思った。

 スキル【探知】を発動した。
 範囲、精度ともに大幅に向上している。
 加えて、人が探知できるようになっており、魔力反応だけではわからなかった情報を得ることができる。

 次に[視野:主観]を発動すると、今まで俯瞰的に浮かんできた情報がマイオルの通常の視野に統合された。
 近距離ではこの視野の方が見やすいはずなので重宝するだろう。

 最後に[軌跡]を発動して、セネカに動き回って貰った。
 俯瞰的な視野で見ると、セネカが通った後が点線になって残っている。弓矢を射るときに有効な場合があるかもしれないとマイオルは思った。[視野:主観]を合わせて発動してみると、その点線がマイオルの目にも入ってきた。

 マイオルはスキルの範囲を絞り、魔力を注ぎ込んだ。すると、視界にセネカの残像が見え始め、剣の軌道や腕の振りまで細かく追うことができるようになった。

 あのときマイオルは夢中でスキルを使っていたが、これと同様の現象が起きたおかげで命を救われた。
 もしかしたらあのとき既にレベル2の領域に足を踏み入れていたのかもしれないとマイオルは何となく感じた。

 ここまで試して、マイオルは頭の処理速度が上がっていることに気がついた。
 以前と比べると情報量が増えているのに頭が圧倒される感覚がない。
 これもレベルアップにより身体能力が上がった影響なのかもしれないとマイオルは思っていた。

 セネカと剣で軽く打ち合う。
 技量では敵うべくもないが、力では押している。マイオルはレベルアップの強さと残酷さを身をもって味わった。

 そして自分を強く戒めていかないと、簡単に強くなった気持ちになって基礎が疎かになり、足元から崩れることになると思って、あらためて息をついた。

 一日中、セネカは興味津々で、マイオルのやることなすことをよく見つめていた。
しおりを挟む
感想 130

あなたにおすすめの小説

異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます

ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。 何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。 生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える そして気がつけば、広大な牧場を経営していた ※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。 7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。 5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます! 8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺の召喚魔術が特殊な件〜留年3年目から始まる、いずれ最強の召喚術士の成り上がり〜

あおぞら
ファンタジー
 2050年、地球にのちにダンジョンと呼ばれる次元の裂け目が開いた。  そこから大量のモンスターが溢れ出し、人類は1度滅亡の危機に立たされた。  しかし人類は、ダンジョンが発生したことによって誕生した、空気中の物質、《マナ》を発見し、《魔導バングル》と言う物を発明し、そのバングルに《マナ》を通すことによって、この世界の伝承や神話から召喚獣を呼び出せる様になり、その力を使ってモンスターに対抗できる様になった。  時は流れて2250年。  地球では魔術と化学の共存が当たり前になった時代。  そんな中、主人公である八条降魔は国立召喚術士育成学園都市に入学した。  この学園の生徒はまず、精霊や妖精などのスピリットや、鬼、狼、竜などの神話や伝承の生き物を召喚し契約する。  他の生徒が続々と成功させていく中で、降魔だけは、何も召喚することができなかった。  そのせいで何年も留年を繰り返してしまう。  しかしそれにはある理由があって———  これは学園を3年留年してから始まる、いずれ最強になる召喚術士の物語。    

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

底辺冒険者だけど魔法を極めてみることにした ~無能スキルから神スキルに進化した【魔法創造】と【アイテム作成】で無双する~

蒼乃白兎
ファンタジー
 冒険者のロアはみんなから『無能』と有名な底辺冒険者である。  所持スキルは【アイテム作成】のみ。  能力はレベルと引き換えにアイテムを作成する、というものだった。   ロアはこのスキルのせいで、他の人に比べてレベルが上がった時の恩恵が雀の涙ほどしかない。  それこそロアが『無能』とバカにされている大きな理由だった。  しかし、ロアは少しでも自分の実力を上げようと【アイテム作成】の能力を使うことなくレベルを上げ続けた。  スライムやゴブリンなどの低級モンスターを狩り続けて1年。  50レベルに到達したロアにとんでもない変化が訪れた。 『【アイテム作成】が【魔法創造】に進化しました』  手に入れた【魔法創造】はレベルと引き換えに魔法を創造できるというもの。  つまりレベルを消費すればするほど、レベル上げの効率はドンドン上がる。  更に【アイテム作成】の能力も利用することで、強力な装備でステータスを補ったり、価値の高いアイテムを作成できたり、超便利!  【アイテム作成】と【魔法創造】──二つのスキルが相乗効果を生み、ロアは驚異的な成長を遂げていく。  ※2/27日間総合1位 3/3週間総合1位

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処理中です...