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第3章:銅級冒険者昇格編
第22話:帰還
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マイオルは倒れそうになるのを必死に堪えながら、キト特製のポーションを飲んだ。このポーションは体力だけではなく、僅かながら魔力も回復する。
【探知】を使うと敵の反応が消えている。
セネカが倒したのだろう。
しかし、セネカの魔力反応が非常に弱くなっている。危ない状態なのかもしれないと思ってマイオルは走った。
大した距離ではないけれど、身体の重みと焦りから非常に遠くに感じる。
セネカの姿が見えた。
床にぺたんと座り込んでポーションを飲んでいる。
「セネカ!」
セネカはマイオルの方を向き、ひどく柔らかな顔で微笑んだ。
「やったね。マイオル」
そう言った後、セネカは気を失った。
◆
セネカは目覚めた。
誰かの肩に担がれているようだ。
なんとなくゴツゴツしているので男性だろうとセネカは思った。
身じろぎをしてみる。
「ん? 起きたか?」
聞き覚えのある声だ。
目を開けてみるとマイオルの顔があった。
「セネカ! 起きたのね!」
「やっぱり起きたか。一旦下ろすが大丈夫か?」
セネカは小さく「うん」と言った。
すると優しい動きで地面に寝かされた。
セネカはゆっくりと身体を動かして立ち上がった。
痛みはなく、怪我は治っているようだ。
見回すと、マイオルと『樫の枝』の四人がいる。
セネカを担いでいたのはナエウスのようだ。
ジューリアが近づいてくる。
「セネカちゃん、大丈夫? 怪我は私の魔法でほとんど治ったけれど、酷い状態だったから⋯⋯」
ナエウスもジューリアもすごく心配そうな顔をしているのが分かった。
離れたところにいるマイオルは泣きそうに見える。
セネカは手を軽く握りしめたり、足ぶみしたりしてみた。疲労感はあるものの、身体に問題はなさそうだ。
「大丈夫みたいです」
「そうか⋯⋯。良かった」
ナエウスが落ち着いた声で言った。
◆
念のためというジューリアの言葉を聞いて、セネカは再びナエウスにおぶさった。
セネカが気を失ってから、マイオルはセネカに応急処置を行った。
セネカはポーションを飲んでいたのである程度の回復はしていたが、内臓が傷ついていたらしい。
血相を変えたマイオルは矢筒や弓を捨て置いてセネカを背負った。
そして街に向かって泣きながら走っているところをメーノンが発見したらしい。
事情を聞いた『樫の枝』の面々は即座に行動してくれた。
ジューリアはセネカとマイオルの治療、ナエウスとメーノンは現場の確認と物資の回収、アカルスはセネカたちの護衛だ。
おかげでマイオルの弓矢をはじめ、あばれ猿の牙と尻尾など討伐証明になる物を回収することができた。
ジューリアの回復魔法も間に合ったのでセネカの命は救われたが、一向に目を覚まさないのでみんなに心配をかけたらしい。
セネカは誠心誠意お礼を言った。
そんなこんなで、背負われて運ばれているうちにだんだん調子が戻ってきたように感じたので、セネカは下ろしてもらった。
そしてゆっくりマイオルに近づき、そっと抱きしめる。
「生きて帰って来れたね。マイオル、ありがとう」
抱き合う二人の姿を見て、ナエウスはなぜか涙した。
◆
バエット山林の周辺部に差し掛かった時、セネカはキョロキョロし出した。
そして小さな一角ウサギを探し出して、首を刎ねた。
一行はセネカが突拍子のないことをするのは知っていたが、突然のことだったので驚いた。
「セネカ、どうしたの?」
マイオルが聞いた。
「ここで倒しておかないと森に入るのが怖くなる気がして」
マイオルが疑問符を浮かべているとジューリアが言った。
「死に近づく経験をした後で緊張が解けると恐怖が襲ってくることがあるの。そのおかげでもう二度と魔物と戦えなくなる冒険者もいるわ」
ナエウスがあとを続ける。
「『もっと調子が良くなったら』って言っているうちに魔物の領域に入れなくなることもある。そういう時は多少無理矢理でも早めに魔物と対峙した方が良いのさ。セネカちゃんはそれが感覚的に分かったんだろう。マイオルちゃんも真似してみたらどうだ?」
そう言われてマイオルも辺りを探した。
メーノンがスキルでオオガエルを見つけてくれたので、マイオルは両断した。
◆
『樫の枝』のおかげで何とかバエティカに帰ってきた二人はギルドに簡単な報告をした後、寮に帰った。
積もる話はあったが、お互いに体力の限界だったので、また後でということになり、眠った。
マイオルはそれから二日間起きなかった。
重症だったのはセネカの方だったが、セネカは次の日にひょっこり起きて活動を始めた。
ギルドに行って事細かく報告すると、トゥリアがすごく心配していた。
ジューリアにも会ったので調子の報告をした。そのあとで治療費を払おうとしたが断られた。
それから、キトに薬のお礼を行ったりとさまざまだった。
そんな感じで過ごしているとマイオルが起きた。
時折寝返りを打っていたのでそろそろ起きるかもしれないとセネカは思っていた。
「おはよう! マイオル」
ぼんやりとしているマイオルに向かってセネカは端切れよく言った。
マイオルは辺りをキョロキョロしていて状況が掴めていないようだ。
「バエティカに帰ってきて、私たちの部屋に戻ってきて、マイオルは二日も眠っていたんだよ? 調子はどう?」
セネカの話を聞いてマイオルは目が覚めたようだ。
「えっ、二日?」
そう小声で言った。
セネカが応えようとしたところ、マイオルは急に立ち上がって言った。
「セネカ、あたしレベル2になった⋯⋯」
しかし、突然立ち上がったものだから、言うなり眩んでヘロヘロとベッドに戻って行った。
セネカはとびきりの笑顔で言った。
「やっぱり⋯⋯。マイオル、おめでとう!」
マイオルは起きたてで情緒が不安定だったので、セネカの言葉を聞いて泣き始めた。
「あたし、死んじゃうかと思ったの。
勝てる見込みがない戦いで、頭が真っ白になった。
自分のことを無力に感じた。
だけど、やけっぱちになって意地だけで進んでみたら突然パッと道が拓けたんだ。
これが最期なのだとしたら、全てを賭けないと後悔するって。
それで戦ったらあばれ猿は倒れて、あたしのレベルは上がっていたの」
セネカは「うんうん」と聞いてから、マイオルのことを抱きしめた。
いつもはお姉さんなマイオルもこの時だけはセネカの胸の中でメソメソと泣いた。
◆
数日間休んだ後、マイオルはセネカとバエット山林に行った。
マイオルのレベルが上がった効果を確認するのが目的なので依頼は受けていない。
マイオルはここに来るまでに走ったが、身体能力が明らかに向上しているのが分かった。
身体は軽くてキレが良い。セネカよりも俊敏に動けそうだ。
盾や剣を持つ腕の感触的に筋力もかなり上がっているようだ。
慣れるのに時間が必要だが、近接戦闘能力の向上が見込めるとマイオルは思った。
スキル【探知】を発動した。
範囲、精度ともに大幅に向上している。
加えて、人が探知できるようになっており、魔力反応だけではわからなかった情報を得ることができる。
次に[視野:主観]を発動すると、今まで俯瞰的に浮かんできた情報がマイオルの通常の視野に統合された。
近距離ではこの視野の方が見やすいはずなので重宝するだろう。
最後に[軌跡]を発動して、セネカに動き回って貰った。
俯瞰的な視野で見ると、セネカが通った後が点線になって残っている。弓矢を射るときに有効な場合があるかもしれないとマイオルは思った。[視野:主観]を合わせて発動してみると、その点線がマイオルの目にも入ってきた。
マイオルはスキルの範囲を絞り、魔力を注ぎ込んだ。すると、視界にセネカの残像が見え始め、剣の軌道や腕の振りまで細かく追うことができるようになった。
あのときマイオルは夢中でスキルを使っていたが、これと同様の現象が起きたおかげで命を救われた。
もしかしたらあのとき既にレベル2の領域に足を踏み入れていたのかもしれないとマイオルは何となく感じた。
ここまで試して、マイオルは頭の処理速度が上がっていることに気がついた。
以前と比べると情報量が増えているのに頭が圧倒される感覚がない。
これもレベルアップにより身体能力が上がった影響なのかもしれないとマイオルは思っていた。
セネカと剣で軽く打ち合う。
技量では敵うべくもないが、力では押している。マイオルはレベルアップの強さと残酷さを身をもって味わった。
そして自分を強く戒めていかないと、簡単に強くなった気持ちになって基礎が疎かになり、足元から崩れることになると思って、あらためて息をついた。
一日中、セネカは興味津々で、マイオルのやることなすことをよく見つめていた。
【探知】を使うと敵の反応が消えている。
セネカが倒したのだろう。
しかし、セネカの魔力反応が非常に弱くなっている。危ない状態なのかもしれないと思ってマイオルは走った。
大した距離ではないけれど、身体の重みと焦りから非常に遠くに感じる。
セネカの姿が見えた。
床にぺたんと座り込んでポーションを飲んでいる。
「セネカ!」
セネカはマイオルの方を向き、ひどく柔らかな顔で微笑んだ。
「やったね。マイオル」
そう言った後、セネカは気を失った。
◆
セネカは目覚めた。
誰かの肩に担がれているようだ。
なんとなくゴツゴツしているので男性だろうとセネカは思った。
身じろぎをしてみる。
「ん? 起きたか?」
聞き覚えのある声だ。
目を開けてみるとマイオルの顔があった。
「セネカ! 起きたのね!」
「やっぱり起きたか。一旦下ろすが大丈夫か?」
セネカは小さく「うん」と言った。
すると優しい動きで地面に寝かされた。
セネカはゆっくりと身体を動かして立ち上がった。
痛みはなく、怪我は治っているようだ。
見回すと、マイオルと『樫の枝』の四人がいる。
セネカを担いでいたのはナエウスのようだ。
ジューリアが近づいてくる。
「セネカちゃん、大丈夫? 怪我は私の魔法でほとんど治ったけれど、酷い状態だったから⋯⋯」
ナエウスもジューリアもすごく心配そうな顔をしているのが分かった。
離れたところにいるマイオルは泣きそうに見える。
セネカは手を軽く握りしめたり、足ぶみしたりしてみた。疲労感はあるものの、身体に問題はなさそうだ。
「大丈夫みたいです」
「そうか⋯⋯。良かった」
ナエウスが落ち着いた声で言った。
◆
念のためというジューリアの言葉を聞いて、セネカは再びナエウスにおぶさった。
セネカが気を失ってから、マイオルはセネカに応急処置を行った。
セネカはポーションを飲んでいたのである程度の回復はしていたが、内臓が傷ついていたらしい。
血相を変えたマイオルは矢筒や弓を捨て置いてセネカを背負った。
そして街に向かって泣きながら走っているところをメーノンが発見したらしい。
事情を聞いた『樫の枝』の面々は即座に行動してくれた。
ジューリアはセネカとマイオルの治療、ナエウスとメーノンは現場の確認と物資の回収、アカルスはセネカたちの護衛だ。
おかげでマイオルの弓矢をはじめ、あばれ猿の牙と尻尾など討伐証明になる物を回収することができた。
ジューリアの回復魔法も間に合ったのでセネカの命は救われたが、一向に目を覚まさないのでみんなに心配をかけたらしい。
セネカは誠心誠意お礼を言った。
そんなこんなで、背負われて運ばれているうちにだんだん調子が戻ってきたように感じたので、セネカは下ろしてもらった。
そしてゆっくりマイオルに近づき、そっと抱きしめる。
「生きて帰って来れたね。マイオル、ありがとう」
抱き合う二人の姿を見て、ナエウスはなぜか涙した。
◆
バエット山林の周辺部に差し掛かった時、セネカはキョロキョロし出した。
そして小さな一角ウサギを探し出して、首を刎ねた。
一行はセネカが突拍子のないことをするのは知っていたが、突然のことだったので驚いた。
「セネカ、どうしたの?」
マイオルが聞いた。
「ここで倒しておかないと森に入るのが怖くなる気がして」
マイオルが疑問符を浮かべているとジューリアが言った。
「死に近づく経験をした後で緊張が解けると恐怖が襲ってくることがあるの。そのおかげでもう二度と魔物と戦えなくなる冒険者もいるわ」
ナエウスがあとを続ける。
「『もっと調子が良くなったら』って言っているうちに魔物の領域に入れなくなることもある。そういう時は多少無理矢理でも早めに魔物と対峙した方が良いのさ。セネカちゃんはそれが感覚的に分かったんだろう。マイオルちゃんも真似してみたらどうだ?」
そう言われてマイオルも辺りを探した。
メーノンがスキルでオオガエルを見つけてくれたので、マイオルは両断した。
◆
『樫の枝』のおかげで何とかバエティカに帰ってきた二人はギルドに簡単な報告をした後、寮に帰った。
積もる話はあったが、お互いに体力の限界だったので、また後でということになり、眠った。
マイオルはそれから二日間起きなかった。
重症だったのはセネカの方だったが、セネカは次の日にひょっこり起きて活動を始めた。
ギルドに行って事細かく報告すると、トゥリアがすごく心配していた。
ジューリアにも会ったので調子の報告をした。そのあとで治療費を払おうとしたが断られた。
それから、キトに薬のお礼を行ったりとさまざまだった。
そんな感じで過ごしているとマイオルが起きた。
時折寝返りを打っていたのでそろそろ起きるかもしれないとセネカは思っていた。
「おはよう! マイオル」
ぼんやりとしているマイオルに向かってセネカは端切れよく言った。
マイオルは辺りをキョロキョロしていて状況が掴めていないようだ。
「バエティカに帰ってきて、私たちの部屋に戻ってきて、マイオルは二日も眠っていたんだよ? 調子はどう?」
セネカの話を聞いてマイオルは目が覚めたようだ。
「えっ、二日?」
そう小声で言った。
セネカが応えようとしたところ、マイオルは急に立ち上がって言った。
「セネカ、あたしレベル2になった⋯⋯」
しかし、突然立ち上がったものだから、言うなり眩んでヘロヘロとベッドに戻って行った。
セネカはとびきりの笑顔で言った。
「やっぱり⋯⋯。マイオル、おめでとう!」
マイオルは起きたてで情緒が不安定だったので、セネカの言葉を聞いて泣き始めた。
「あたし、死んじゃうかと思ったの。
勝てる見込みがない戦いで、頭が真っ白になった。
自分のことを無力に感じた。
だけど、やけっぱちになって意地だけで進んでみたら突然パッと道が拓けたんだ。
これが最期なのだとしたら、全てを賭けないと後悔するって。
それで戦ったらあばれ猿は倒れて、あたしのレベルは上がっていたの」
セネカは「うんうん」と聞いてから、マイオルのことを抱きしめた。
いつもはお姉さんなマイオルもこの時だけはセネカの胸の中でメソメソと泣いた。
◆
数日間休んだ後、マイオルはセネカとバエット山林に行った。
マイオルのレベルが上がった効果を確認するのが目的なので依頼は受けていない。
マイオルはここに来るまでに走ったが、身体能力が明らかに向上しているのが分かった。
身体は軽くてキレが良い。セネカよりも俊敏に動けそうだ。
盾や剣を持つ腕の感触的に筋力もかなり上がっているようだ。
慣れるのに時間が必要だが、近接戦闘能力の向上が見込めるとマイオルは思った。
スキル【探知】を発動した。
範囲、精度ともに大幅に向上している。
加えて、人が探知できるようになっており、魔力反応だけではわからなかった情報を得ることができる。
次に[視野:主観]を発動すると、今まで俯瞰的に浮かんできた情報がマイオルの通常の視野に統合された。
近距離ではこの視野の方が見やすいはずなので重宝するだろう。
最後に[軌跡]を発動して、セネカに動き回って貰った。
俯瞰的な視野で見ると、セネカが通った後が点線になって残っている。弓矢を射るときに有効な場合があるかもしれないとマイオルは思った。[視野:主観]を合わせて発動してみると、その点線がマイオルの目にも入ってきた。
マイオルはスキルの範囲を絞り、魔力を注ぎ込んだ。すると、視界にセネカの残像が見え始め、剣の軌道や腕の振りまで細かく追うことができるようになった。
あのときマイオルは夢中でスキルを使っていたが、これと同様の現象が起きたおかげで命を救われた。
もしかしたらあのとき既にレベル2の領域に足を踏み入れていたのかもしれないとマイオルは何となく感じた。
ここまで試して、マイオルは頭の処理速度が上がっていることに気がついた。
以前と比べると情報量が増えているのに頭が圧倒される感覚がない。
これもレベルアップにより身体能力が上がった影響なのかもしれないとマイオルは思っていた。
セネカと剣で軽く打ち合う。
技量では敵うべくもないが、力では押している。マイオルはレベルアップの強さと残酷さを身をもって味わった。
そして自分を強く戒めていかないと、簡単に強くなった気持ちになって基礎が疎かになり、足元から崩れることになると思って、あらためて息をついた。
一日中、セネカは興味津々で、マイオルのやることなすことをよく見つめていた。
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