スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜

藤花スイ

文字の大きさ
上 下
16 / 213
第2章:兼業冒険者編

第16話:援護していい?

しおりを挟む
 ついに依頼の日が来た。
 早朝から準備をして、すぐに発つことになる。

 西門に集まると、『新緑の祈り』の面々がいて、大型の馬車の準備をしていた。
 セネカとマイオルはしっかり挨拶をして、馬車の整備方法や出発前の確認事項などを教えてもらった。

 遅れて続々と『樫の枝』の人たちがきた。
 みんな体を動かしてからここに来ているので、すでに臨戦体制である。
 こういう合同依頼では、瑣末さまつな用意は下っ端が行って、依頼の達成責任が重い上級者が体の調子を整えるということがよくある。

 ナエウスは気力に満ちていて、今すぐにでも全力で戦えそうだった。その準備の周到さや気力の管理などについて、自分達はまだまだ未熟だとセネカは思った。

 ちなみに今回の依頼ではここまでの準備を整える必要がないのだが、『樫の枝』と『新緑の祈り』の両方がセネカとマイオルのために練習の機会を設けてくれたのだ。

 加えて、この依頼は野営を行う。野営のある依頼を二人に回したのはトゥリアである。
 二人はとても恵まれていた。

 ナエウスからいくつかの注意点と依頼の内容についての確認があったのち、一行は出発することとなった。

 門を出る時、いつもの門番さんがいたのでセネカは笑って手を振った。
 門番もセネカファンであるので、いつもより楽しい気分で仕事が出来そうだと彼は微笑んでいた。

 門から一歩外に出れば、弱肉強食の世界である。
 ナエウスは毅然とした態度で言った。

「メーノン、【探知】を使ってくれ!」

 その声はマイオルにしっかり届いた。
 ハッとした顔でマイオルはメーノンを見た。

 メーノンはナエウスのファインプレーに感動して、心の中で讃えた。

 メーノンが探知をして近くに脅威がないことを確認すると、マイオルが駆け寄ってきた。

「メーノンさんのスキルって【探知】だったんですね! そうと知っていたら聞きたいことがたくさんあったのに⋯⋯」

 メーノンはそんなマイオルを見て拳を強く握った。
 得意気に答えそうになったが、それではいけないと自分を戒め、ちょっとだけ格好つけた顔で丁寧に返した。

「道中は長いから、俺のやり方を見る機会はたくさんあるさ。君が【探知】で分かるのは魔物だけ? それとも、もしかして人まで分かるようになった?」

 本人がいないところでは『マイオルちゃん』なんて呼んでいるのに、目の前にすると途端にこれである。

「魔物のことははっきりと探知できます。あと、大きい魔力も探知できるようになりました」

「なんだって!? それは珍しいな!」

 【探知】を持つ人間のほとんどは魔物の次に人を探知できるようになる。しかし、一部例外が存在することが知られており、そういう人は非常に珍しかった。
 スキルは熟練度の上昇とともに個々人の特徴が現れてくる。【探知】はスキルの中でも初期に分化すると言われていて、レベルアップ前に兆候が現れる数少ないスキルだ。

「やはりそうですよね?」

「あぁ。それに、第二の対象が魔力というのは聞いたことがない。普通はレベル2になってからか、人によってはレベル3になってから魔力を探知できるようになるんだ」

 マイオルとメーノンは並んで馬車の前を歩きながら話している。

 メーノンが続ける。
「こりゃあレベル2になった時のサブスキルも特殊なものになるかもな。そういう場合は大抵常ならぬサブスキルになる」

「メーノンさんのサブスキルが何か聞いても良いですか?」

「あぁ、俺は公にも言っているからな。[痕跡探知]だ」

「わー! レアですね」
 マイオルの反応が良くてメーノンは気分が良い。

「おかげで『樫の枝』の懐は潤っているのだよ」

 メーノンのサブスキル[痕跡探知]は魔物の痕跡を発見しやすくなる能力で、痕跡から魔物の種類と時間の情報も得られるため、追跡能力が非常に高くなる。
 この力を利用することで『樫の枝』は効率的に狩りを行うことができるし、追跡系の依頼で指名を受けることが多い。

「あたしは何になるのかなぁ」

 悩みこむマイオルを見てメーノンはほっこりしていたが、途中で大事なことに気づいてギョッとした。

「スキルを得て二年でもう二個目か。こりゃあレベル2もそう遠くないな」

 メーノンは目の前の少女が前に進むためにできることをしてあげようと改めて心に決めた。





 途中、魔物に襲われることもなく、一行は野営地に着いた。
 付近に魔物がいないことはメーノンとマイオルにより確認済みである。

 セネカもマイオルも野営を手伝って、料理も教わった。二人の働きを過剰にありがたがる男たちを不思議に思いながら一日を終えた。

 夜、セネカとマイオルは、『樫の枝』のジューリアと一緒に見張りを行った。
 マイオルの【探知】を適度に使いながらであるが、気を抜かないように見張りのコツを聞き続けた。

 細切れの睡眠から醒めると朝になっていた。
 二人が起きると、ナエウスをはじめとして見張りが早番だった人から身体を動かしていた。
 二人もその様子を見て、身体の感覚がはっきりするまでゆっくりと体を動かした。

 野営の朝の仕事について教わってから、朝食を食べ、出発の時間となった。
 マイオルはメーノンと最前で探知をしている。
 セネカは、昨日は後方にいたが、今日は中腹でジューリアと話をしながら歩いている。

 しばらく歩いてから屈指の探知範囲を誇るメーノンが異変に気づいた。

「すまん、アンニア。馬車を止めてくれ」

 メーノンは御者台に座っていたアンニアに声をかけ、すぐにナエウスのところへ向かった。

「ナエウス、敵だ。リーダー率いるダークコボルトが百頭くらいいる。かなり大規模な群れだ」

「何だって? この先の村は大丈夫なのか?」

「分からん。まだ探知の端にかかったばかりだから、かなり距離がある」

「村のことを考えるとここで引き留めて対処しておいた方が良いな」

 ナエウスは瞬時に集中モードに入って考えを巡らせ始めた。

「メーノン、『新緑の祈り』を集めてくれるか? 俺はジューリアに話を伝える」

「分かった」

 しばらくするとみんなが集められた。
 セネカはマイオルから話を聞いて事態を認識している。

 ナエウスがジューリアと話した結果をみんなに伝える。

「みんな! 話は聞いただろうが、ダークコボルトの群れをメーノンが見つけた。百匹ほどの群れで、ダークコボルトリーダーがいるようだ。近くに村もあるようだし、これだけのメンバーがいれば殲滅可能だと判断する」

 ナエウスは毅然とした態度で言った。

「メーノンは群れに接近して、他の群れがないか確認した後、すぐさま近くの村に向かってくれ。村に着いてからの行動は判断を任せるが、村にも大量のコボルトがいる場合は撤退する」

「分かった」

「『樫の枝』の残りのメンバーと『新緑の祈り』は群れに攻撃を仕掛けて敵を殲滅する。アンニアの魔法を活用すれば取りこぼしは最小限で済むと思う」

「分かりました」

「最後に、セネカとマイオルは馬車を護衛しながら逃したダークコボルトを狙ってくれ。けれど、深追いする必要はない。大事なのは二人の命で、次が馬車、最後にダークコボルトだ。順番を間違わないでくれ」

 上級の冒険者からの指示はほぼ『命令』なので、あえて呼び捨てで呼ぶことがある。
 おかげでセネカとマイオルはピシッとした態度で話を聞いた。

「メーノンが一旦帰ってきた後、ダークコボルトがマイオルの探索範囲に入ったら戦闘を開始しよう。ちなみに二人はダークコボルトとの戦闘経験はあるか?」

「はい。多数の敵に囲まれなければ問題なく倒せます」

「分かった。十分だ」

 マイオルとセネカは、実は三十頭の群れを二人で殲滅したことがある。

「何か質問はあるか?」

 ナエウスがそう問うとセネカが手を挙げた。

「遠距離からの援護をしてもいいですか?」

 そう言ったセネカはマイオルを見た。
 ナエウスがマイオルに目を向けると弓を背負っている。
 この弓を使って援護しようということかもしれないとナエウスは思った。

「許可する。だが、先ほど伝えた優先順位を守り、誤射には十分気をつけることだ」

「ありがとうございます!」

 マイオルの弓のことなのにセネカがお礼を言うのには多少の違和感があったが、コンビ間での申し合わせがあるのかもしれないと思ってナエウスは気に留めないことにした。

「質問が他に無いようなら作戦に移る。メーノン、頼む」

「ほいほーい」

 そう言って、メーノンはスッと消えていった。





 細かい打ち合わせをしながら待っているとメーノンが帰ってきた。

「ナエウス、どうやら他の群れはいないようだ。だが、離れた場所にオークがいる。片付けるなら早めが良いだろう」

「分かった。ありがとう、メーノン。村のことは頼んだ」

「ほいほーい」

 メーノンはまた同じ流れでスッと村の方向へと消えていった。

 メーノンからの情報を得たので作戦は次の段階に進む。
 マイオルの【探知】の力で取りこぼしを減らす予定なので、敵をその範囲に入れなくてはならない。

 範囲に入れると言っても端では状況がわからないので、ある程度までは近づく必要がある。

 一行は馬車の音も控えながら群れの方向に近づいていった。

 ゆっくりと進むとマイオルが言った。

「この辺りなら敵の群れのことがよく分かります。もっと近づけたらもちろん良いですが、これ以上近づいたら気取られそうに思いました」

 ナエウスは頷いて、歩みを止めた。
 そしてマイオルの探索範囲の広さに驚いた。メーノンと長年付き合っているので、範囲から熟練度を測ることができる。
 ナエウスは自分たちの予想以上にマイオルの熟練度は貯まっており、レベル2が近づいているのでは無いかと思った。

「それじゃあ、作戦を次の段階に移そう。できるだけ近づいた後、俺が合図をするからアカルスとアンニアは魔法を撃ってくれ。アンニアが使う魔法の属性については二人に任せる」

 そう言ってナエウスは鞘から剣を抜いた。
しおりを挟む
感想 127

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。

円城寺正市
ファンタジー
勇者が行方不明になって数年。 魔物が勢力圏を拡大し、滅亡の危機に瀕する国、ソルブルグ王国。 洞窟の中で目覚めた主人公は、自分が亡霊になっていることに気が付いた。 身動きもとれず、記憶も無い。 ある日、身動きできない彼の前に、ゴブリンの群れに追いかけられてエルフの少女が転がり込んできた。 亡霊を見つけたエルフの少女ミーシャは、死体に乗り移る方法を教え、身体を得た彼は、圧倒的な剣技を披露して、ゴブリンの群れを撃退した。 そして、「旅の目的は言えない」というミーシャに同行することになった亡霊は、次々に倒した敵の身体に乗り換えながら、復讐すべき相手へと辿り着く。 ※この作品は「小説家になろう」からの転載です。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

処理中です...