スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜

藤花スイ

文字の大きさ
上 下
10 / 213
第2章:兼業冒険者編

第10話:女子寮にお引越し

しおりを挟む
 時は巡り、セネカがスキルを得てから十ヶ月が過ぎた。

 セネカは鉄級冒険者になった。
 街の近くの森のあらゆる魔物を倒し、あらゆる素材を採取してきた。
 もっと早く昇格することもできたが、例の事件もあったのであまり目立たないようにトゥリアがアドバイスした。

 ノルト、ピケ、ミッツはセネカよりも早く鉄級に昇格した。
 三人は街のホープだ。
 未だセネカには追いつかないが、同期の冒険者の中で上位の実力を身につけている。

 エミリーはしばらく前に孤児院を出てしまった。
 十二歳になったので見習いを終えてトルガのお店で働いている。
 エミリーの仕事が休みの日に二人でお出かけすることもある。

 セネカはもっぱら刺繍担当としてトルガの店の仕事を貰っている。
 セネカの縫う早さについて来れる者はこの街にはいなくなった。
 それぐらい研鑽を積んだ。

 キトは相変わらずユリアの店で勉強をしている。
 ユリアはキトの将来性を見込んで、王立の魔導学校にキトを推薦するつもりらしい。
 キトの話によれば、ユリアの推薦があれば学校への入学はほぼ間違いないので、その待遇に相応しい成績で入学試験を通ることが大事だと言っていた。
 キトも来年王都に行ってしまう。

 ルキウスの話は不思議なほど聞かない。
 新しい聖者が見つかったというのに、そのような噂がバエティカまでまわってきていなかった。
 セネカとキトは何度も手紙を書いたが返事が返ってくることはなかった。
 ルキウスの性格的に返さないということはないので、何処かで止められているのではないかと二人は考えた。
 返事はかけないのだとしても、ルキウスには手紙が渡っていて欲しいとセネカは思っている。

 冒険者の仕事、刺繍の仕事、薬の材料の仕事、全てが順調である。
 お陰でセネカは年齢の割に裕福になった。

 討伐や素材採集の仕事は安定していて、納品する物の品質も格段に良い。
 刺繍はそもそも高額なので割りが良い。
 ユリアにも高級な素材を注文されることが多くなってきたのでセネカの取り分も良い。
 セネカは順調に実績を積み上げている。

 お金が貯まってきたので、セネカは孤児院を出ることにした。
 セネカが出ていくことで一人当たりの資源が増える。
 大抵の子供はスキルを授かって一年か二年で孤児院を出る。孤児の多くはお金の使い方に慣れていないので出戻りする子供もいるが、大抵はうまくやっていた。





 セネカの動き出しは早かった。
 まずキトに相談して、次にトゥリアに相談する。整理した情報を元に決断して、最後にシスタークレアに報告すれば最善に近い答えが導き出せる。
 セネカはそんな確信があった。

 冒険者ギルド付属の施設に子供用の寮がある。
 依頼料から天引きしたり、ギルドの仕事を手伝ったりすることで安く住居を提供してくれるのだ。
 バエティカにはいくつかのギルドの寮があるが、キト母の知り合いが寮母をしている女子寮があったので、セネカはそこに入ることにした。

 セネカは刺繍の仕事をしたかったので割高の二人部屋に住むことにした。普通は四人から六人部屋である。
 セネカと同室になったのはマイオルという女の子だ。

 マイオルはセネカの一個年長で【探知】という非常に有用なスキルを持っていることが知られていた。
 金に近い茶髪で、肩上の髪をいつも短くまとめている。

「あなたがセネカね! 来週から私と同室になるってミントさんから聞いたわよ」

 セネカがギルドで依頼の納品をした後、マイオルが話しかけてきた。
 威勢の良い感じの人だった。黙っておかしなことをするセネカとはタイプが違う。

「あなた戦闘系のスキルじゃないのにもう鉄級になったんだってね! すごいじゃない!」

 マイオルはなんのてらいもなくそう言った。
 セネカは真正面から褒められることに慣れていないので目をぱちくりさせた。

「あたしはマイオル。いまは銅級冒険者になることを目指しているの。よろしくね!」

 そう言ってニコニコと笑う様はとても爛漫だった。





 セネカが孤児院を出ていく日が来た。
 院長やシスタークレアは大袈裟に見送ってくれたが、セネカはいつでも帰れると思っていたのでしっかり抱きつくくらいに留めておいた。

 年少の子供の中にはセネカの与太話を聞くのを楽しみにしている子もいたので、セネカがいなくなると聞くと、すぐにぐずり出した。

 その様子があんまりにも健気なものだから、セネカはまた話に来ると伝えて、なんとか宥めたのだった。

 最後にはノルトがやってきた。
「セネカには負けないからな」
 と、よく分からない対抗心を燃やされたが、餞別に解体用のナイフをくれたのですごく喜んだ。

 セネカはわりと現金だ。





 セネカが荷物を持って寮に行くとマイオルが待ち構えていた。
 どうやら手伝ってくれるらしい。

 作業をしながら話していると、マイオルは商家の娘だということが分かった。
 マイオルはちょうど新しい毛布を買ったばかりだったようで、古い方の毛布をセネカにくれた。
 セネカが非常に喜んだのでマイオルはご満悦だった。

 その後も、寮の生活をする上であった方が良いものをマイオルが教えてくれたので二人で一緒に買い出しをした。

 マイオルはセネカをよく見ていた。
 セネカは無駄な物は決して買わないが、必要と決めたら躊躇わなかった。
 ある程度お金は持っているようだし、マイオルはセネカに改めて好感を持った。

 マイオルはお金の使い方から人の性格を察するのが抜群にうまかった。





 寮に戻ってから二人で夕食を食べた。
 今日は初日だったので何も言わずにセネカの分を用意してくれたが、明日からは夕方までに言う必要があるらしい。
 食事代は有料だが、ギルドからの補助も出ているので外で食べるよりは格段に安い。
 中には調理場を使って自分でご飯を作る子もいるらしい。
 冒険者にとって食事を作ることも大事な技能である。

 部屋に戻るとマイオルとセネカはお互いのことを深く話した。

 マイオルは今年で十二歳になる。
 いまの目標は十五歳までに銅級冒険者になることのようだ。

 王都には十二歳から十五歳までの子供が入学できる学校がいくつかある。
 マイオルはその中の王立の冒険者学校に入りたいらしい。お金を積めばもちろん今でも入れるが、銅級冒険者になれば授業料全免除の上、特別な待遇が受けられるらしい。
 それを目指して日夜奮闘しているのだという。

 セネカは学校に行くことを考えたこともなかったし、そんな世界が広がっているなんて思っていなかった。

 セネカが会ってきた冒険者たちは実戦主義で、学校に行った人などいなかった。
 だが、マイオルの話によれば冒険者学校を出た方が良いことが多いらしい。
 環境が整っていて、上位の冒険者と交流を持って学べる。それに上流階級やお金持ちと繋がりを持てる可能性がある。
 これらの要素があって、近年では冒険者学校の倍率は高くなっているのだという。

 セネカとルキウスの両親は完全に現場で技を磨いてきた人たちだった。
 学校に行くのではなくて、失敗を重ねながら身を危険に晒して実地で学んできた人たちだ。
 だからセネカは学校にいくことを考えたことはなかった。

「セネカ、世界は広いのよ。若いうちに物事の広さを知りなさいとお爺様が言っていたわ」

 セネカは「ほぅ」と言いながら頷いた。






 マイオルはソロでバエット山林に行っているらしい。

 バエット山林は街の門から一刻ほどで行ける場所で、鉄級から銅級の冒険者が集まる地帯のことである。
 セネカも一人でよく行っていたが、マイオルを見たことはなかった。
 バエット山林は広いので探索している場所が違うのだろう。

 セネカはマイオルになぜソロなのか聞いた。
 すると、マイオルの戦い方に合う仲間が見つけられなかったのだと言う。

 マイオルは気の合う相手を見つけると森に誘って一緒に探索を行うようだが、しっくり来る相手はまだいないようだ。だが、その活動のお陰で顔が広く友達も多いと聞いた。

「セネカ、せっかくだからあたしとバエット山林に行かない?」

「いいよ」
 セネカはマイオルのお眼鏡にかなったようだった。

「あたしは明日でも良いけど、セネカはいつが良い?」

「今日と明日は用事があるから明後日にしよう」

「分かったわ。それじゃあ、明後日の朝からね。楽しみにしているわ」

 マイオルは愛用のブロードソードを手に持って、カラッとした笑顔を浮かべた。
しおりを挟む
感想 127

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

刻の短刀クロノダガー ~悪役にされた令嬢の人生を取り戻せ~

玄未マオ
ファンタジー
三名の婚約者候補。 彼らは前の時間軸において、一人は敵、もう一人は彼女のために命を落とした騎士。 そして、最後の一人は前の時間軸では面識すらなかったが、彼女を助けるためにやって来た魂の依り代。 過去の過ちを記憶の隅に押しやり孫の誕生を喜ぶ国王に、かつて地獄へと追いやった公爵令嬢セシルの恨みを語る青年が現れる。 それはかつてセシルを嵌めた自分たち夫婦の息子だった。 非道が明るみになり処刑された王太子妃リジェンナ。 無傷だった自分に『幻の王子』にされた息子が語りかけ、王家の秘術が発動される。 巻き戻りファンタジー。 ヒーローは、ごめん、生きている人間ですらない。 ヒロインは悪役令嬢ポジのセシルお嬢様ではなく、彼女の筆頭侍女のアンジュ。 楽しんでくれたらうれしいです。

処理中です...