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第1章:スキル獲得編
第6話:『チクチク山』
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ユリアの家から出るとセネカは居ても立ってもいられなくなった。
「ごめん、キト。私、孤児院にすぐ帰るね」
「分かった。気をつけてね」
「キトこそねー」
言い終わる前にセネカは走り出してしまった。
セネカはぴょんぴょん飛び跳ねながら孤児院に帰ると、真っ先にエミリーのところに向かった。
「エミリー! 布と針を貸して! 私、いくらでも縫い物するから!」
セネカの晴れやかな顔を見て、エミリーも笑顔になった。
◆
それからセネカはとにかく縫いまくった。
孤児院の服は着古しているので、すぐ穴が開いてしまう。
都度修繕していたら手間がかかるので大抵はまとめて行うことになる。
セネカはそこに目をつけて、孤児院のみんなのあらゆる服を修復し続けた。
最初の方は良く失敗した。
縫い方も荒いし、どうして良いのか分からないこともあった。
だが何日も同じことを続けていると頭が冴えてきて、どんどん縫うのがうまくなった。
まつり縫いもかがり縫いも返し縫いもなんでもやった。
孤児院の手伝いだから、多少の粗があっても褒められた。
失敗も気にならなかった。
それが終わると次は同じ布をひたすら縫った。
材料に限りがあるので、布を縫ってほどいてを繰り返すのだ。
しかし、ほどく時間のほうが長かったのですぐに飽きてしまった。
結局、セネカはエミリーに頼んで仕事場を紹介してもらった。
いまは専業としては働けないので、依頼を受けて買い取ってもらう契約になった。
エミリーが仕事場の人にうまくセネカのことを伝えてくれたらしい。仕事場の人のエミリーに対する信頼があってはじめて出来ることだと思うので、セネカはとても感謝した。
そうしているうちに、段々と縫うのが早くなってきた。
まだエミリーにはとても敵わなかったが、始めたばかりの人間にしては驚異的であった。
その間にユリアに薬草を三回納めた。
セネカの目利きに間違いはなかったらしく、良い品質の薬草を良い状態で採ってきていると褒めてくれた。
セネカを紹介したキトもホッとした。
今後はちょっとずつ難しい素材も頼むそうだが、キトの修行のために普通の薬草が必要なようなので率先して採っていくことにした。
森に三回入ったが、フチの方だったので動物に出会うことはなかった。
◆
一ヶ月経つとセネカの縫う腕はかなりのものになった。
他のスキルと比べてスキルを使っていられる時間が長いのは良いことかもしれないとセネカは思い始めていた。
孤児院の庭でノルトも剣の練習を頑張っているが、剣を振っていられる時間には限界がある。
それに比べて裁縫は比較的長い時間続けることができる。
この辺りをうまく利用すれば、道が開けるのではないかとセネカは考え続けた。
縫うことにかなり没頭してしまったので、登録したのに冒険者としての活動をしていないことにセネカは気がついた。
けれども、もう少しで何かを得られそうな気がして、セネカは縫い生活を続けることにした。
◆
一ヶ月以上の間、セネカは自らのスキルと向き合い続けた。
孤児院での簡単な手伝いと薬の素材採集以外の時間は基本的に何かを縫っていた。
あまりに休みなしにやるものだから、シスタークレアをはじめとして、みんなが心配し始めた。
誰かに調子を尋ねられてもセネカは大丈夫だと言っていたが、見た目にはなんとなく覇気がなくなっていた。
ある時からセネカは布を縫う夢まで見るようになった。
チクチク、チクチクという動作を繰り返し過ぎて、無意識のうちに縫い物が終わっていることもあった。
右手でも左手でも同じように縫えるようになっていた。
◆
ある日、キトが孤児院にやってきた。
「セネちゃんがおかしくなり始めてるので一回布と糸と針を取り上げましょう」
そう言われてシスタークレアもエミリーも院長先生も頷いた。
年少の子供達に『チクチク山』という独自の童話を話し始めたあたりからそろそろどうにかした方が良いと思っていたのだが、セネカが何かに没頭するのに慣れてしまって決断ができなかったのだ。
キトの提案により、セネカは一旦キトの家に保護された。
キトの家でセネカはぼーっとして過ごした。
キトはセネカに木剣を渡した。
するとセネカはルキウスがいた頃の勢いで素振りを始めた。
また爛漫な笑顔が戻ってきた。
◆
キトの家に連れてこられて三日が経った。
セネカは街に出た。
冒険者として本格的に活動するために防具を下見しておきたかったのだ。
今はまだ孤児院にあるお古の防具しかないが、お金が貯まってきたら自分のものを買いたいと思っていた。
セネカが向かったのは『ペペックの店』という初心者用の防具が豊富な店だ。
ペペックは人当たりの良いおじさんで、良心的な価格設定であるため、ギルドでもおすすめの店になっていた。
セネカが店に入ると、入り口のすぐ横にワイルドベアの革で作った鎧が飾られていた。
「あー!!」
セネカが突然大きな声を出したので、中にいたペペックは驚いて、入り口の方にやってきた。
「どうかしたか?」
「おじさん、革鎧のここってもしかして糸で縫っているの?」
「そうだが⋯⋯」
「私にやり方を教えて! あと革の端切れとか、道具とかも! 私、縫うのが得意なの!」
ペペックは面食らったが、生来の人の良さを発揮して、セネカに色々と教えてあげた。
◆
セネカはペペックの手解きを受けて、キトの家で魔物の革を縫う練習を始めた。
セネカの目に光が灯っていたのでキトは許可したが、作業をする時間は明確に決められている。
最初の二日間、セネカは菱目打ちという道具を使って、革に縫い穴を開けてから縫っていた。
これが基本のやり方になるとペペックが教えてくれたからだ。
道具を揃えるためにそれなりのお金を使ってしまったが、時間をかければまた貯められるという自信がついてきたので頓着しなかった。
布を縫うのとは違う部分があるものの、基本の動作は変わらなかった。
馴染んでくればすぐに出来るようになるだろう。
思い立って飛びついてみたけれども、狂ったように布を縫っていた時と状況が変わったようにはセネカは思わなかった。
◆
縫うことを止められるとセネカは素振りするしかなかった。
しかしその素振りも度が過ぎているので、キトはそろそろ止めようかと考え始めていた。
素振りをしながら、セネカはこれからどうしていくべきか思案し続けた。
セネカが魔物の革に興味を持ったのは、冒険に役立つような気がしたからだ。
例えば菱目打ちを続けることで革の性質をよく知ることができるようになった。
今後、刀で斬り裂く時に今回の経験が活きるかもしれない。
だが、本来はスキルを直接戦闘に役立てようと思っていたのだ。
しかしいくら考えても答えは見つからない。
いっそのこと革を刃物で切る練習でもしたほうが冒険稼業に役立つ気がする。
けれど、いまセネカはユリアの話に従って自分のスキルと向き合っている。
「革を針で直接縫えれば良いのに⋯⋯」
セネカは刀を袈裟に振った。
コボルトを両断できるほどの威力があっただろう。
会心の出来だった。
素振りに満足したセネカは直前に呟いた言葉を思い出し、ハッとした。
「そうだよ。革を直接縫えるようになれば良いんだ! それなら、戦いに役立つかもしれない」
◆
それからセネカは意気込んで試行錯誤を始めた。
だが、キトはそれを一旦止めた。
キトもセネカの動きを止めるのは本意ではない。けれども、闇雲にやっても仕方がないとセネカを言い聞かせた。
というのも、セネカが針を使って革をキツツキのように乱打し始めたからだ。
キトの親友は天才なのだが、稀に知能が極度に低下する。
そういう時に止めるのもキトとルキウスの役目であった。
疲れている時のセネカは考えるのをやめてしまうことがある。
セネカは縫い過ぎて参っていたのだ。
やっと回復してきたのにまたアレに戻られてはたまらない。
キトの母と父も協力してセネカの説得に成功した。
そしてセネカは考えることに全力を注ぎ始めた。
その結果、恐ろしいほどの早さで答えに辿り着いた。
「ごめん、キト。私、孤児院にすぐ帰るね」
「分かった。気をつけてね」
「キトこそねー」
言い終わる前にセネカは走り出してしまった。
セネカはぴょんぴょん飛び跳ねながら孤児院に帰ると、真っ先にエミリーのところに向かった。
「エミリー! 布と針を貸して! 私、いくらでも縫い物するから!」
セネカの晴れやかな顔を見て、エミリーも笑顔になった。
◆
それからセネカはとにかく縫いまくった。
孤児院の服は着古しているので、すぐ穴が開いてしまう。
都度修繕していたら手間がかかるので大抵はまとめて行うことになる。
セネカはそこに目をつけて、孤児院のみんなのあらゆる服を修復し続けた。
最初の方は良く失敗した。
縫い方も荒いし、どうして良いのか分からないこともあった。
だが何日も同じことを続けていると頭が冴えてきて、どんどん縫うのがうまくなった。
まつり縫いもかがり縫いも返し縫いもなんでもやった。
孤児院の手伝いだから、多少の粗があっても褒められた。
失敗も気にならなかった。
それが終わると次は同じ布をひたすら縫った。
材料に限りがあるので、布を縫ってほどいてを繰り返すのだ。
しかし、ほどく時間のほうが長かったのですぐに飽きてしまった。
結局、セネカはエミリーに頼んで仕事場を紹介してもらった。
いまは専業としては働けないので、依頼を受けて買い取ってもらう契約になった。
エミリーが仕事場の人にうまくセネカのことを伝えてくれたらしい。仕事場の人のエミリーに対する信頼があってはじめて出来ることだと思うので、セネカはとても感謝した。
そうしているうちに、段々と縫うのが早くなってきた。
まだエミリーにはとても敵わなかったが、始めたばかりの人間にしては驚異的であった。
その間にユリアに薬草を三回納めた。
セネカの目利きに間違いはなかったらしく、良い品質の薬草を良い状態で採ってきていると褒めてくれた。
セネカを紹介したキトもホッとした。
今後はちょっとずつ難しい素材も頼むそうだが、キトの修行のために普通の薬草が必要なようなので率先して採っていくことにした。
森に三回入ったが、フチの方だったので動物に出会うことはなかった。
◆
一ヶ月経つとセネカの縫う腕はかなりのものになった。
他のスキルと比べてスキルを使っていられる時間が長いのは良いことかもしれないとセネカは思い始めていた。
孤児院の庭でノルトも剣の練習を頑張っているが、剣を振っていられる時間には限界がある。
それに比べて裁縫は比較的長い時間続けることができる。
この辺りをうまく利用すれば、道が開けるのではないかとセネカは考え続けた。
縫うことにかなり没頭してしまったので、登録したのに冒険者としての活動をしていないことにセネカは気がついた。
けれども、もう少しで何かを得られそうな気がして、セネカは縫い生活を続けることにした。
◆
一ヶ月以上の間、セネカは自らのスキルと向き合い続けた。
孤児院での簡単な手伝いと薬の素材採集以外の時間は基本的に何かを縫っていた。
あまりに休みなしにやるものだから、シスタークレアをはじめとして、みんなが心配し始めた。
誰かに調子を尋ねられてもセネカは大丈夫だと言っていたが、見た目にはなんとなく覇気がなくなっていた。
ある時からセネカは布を縫う夢まで見るようになった。
チクチク、チクチクという動作を繰り返し過ぎて、無意識のうちに縫い物が終わっていることもあった。
右手でも左手でも同じように縫えるようになっていた。
◆
ある日、キトが孤児院にやってきた。
「セネちゃんがおかしくなり始めてるので一回布と糸と針を取り上げましょう」
そう言われてシスタークレアもエミリーも院長先生も頷いた。
年少の子供達に『チクチク山』という独自の童話を話し始めたあたりからそろそろどうにかした方が良いと思っていたのだが、セネカが何かに没頭するのに慣れてしまって決断ができなかったのだ。
キトの提案により、セネカは一旦キトの家に保護された。
キトの家でセネカはぼーっとして過ごした。
キトはセネカに木剣を渡した。
するとセネカはルキウスがいた頃の勢いで素振りを始めた。
また爛漫な笑顔が戻ってきた。
◆
キトの家に連れてこられて三日が経った。
セネカは街に出た。
冒険者として本格的に活動するために防具を下見しておきたかったのだ。
今はまだ孤児院にあるお古の防具しかないが、お金が貯まってきたら自分のものを買いたいと思っていた。
セネカが向かったのは『ペペックの店』という初心者用の防具が豊富な店だ。
ペペックは人当たりの良いおじさんで、良心的な価格設定であるため、ギルドでもおすすめの店になっていた。
セネカが店に入ると、入り口のすぐ横にワイルドベアの革で作った鎧が飾られていた。
「あー!!」
セネカが突然大きな声を出したので、中にいたペペックは驚いて、入り口の方にやってきた。
「どうかしたか?」
「おじさん、革鎧のここってもしかして糸で縫っているの?」
「そうだが⋯⋯」
「私にやり方を教えて! あと革の端切れとか、道具とかも! 私、縫うのが得意なの!」
ペペックは面食らったが、生来の人の良さを発揮して、セネカに色々と教えてあげた。
◆
セネカはペペックの手解きを受けて、キトの家で魔物の革を縫う練習を始めた。
セネカの目に光が灯っていたのでキトは許可したが、作業をする時間は明確に決められている。
最初の二日間、セネカは菱目打ちという道具を使って、革に縫い穴を開けてから縫っていた。
これが基本のやり方になるとペペックが教えてくれたからだ。
道具を揃えるためにそれなりのお金を使ってしまったが、時間をかければまた貯められるという自信がついてきたので頓着しなかった。
布を縫うのとは違う部分があるものの、基本の動作は変わらなかった。
馴染んでくればすぐに出来るようになるだろう。
思い立って飛びついてみたけれども、狂ったように布を縫っていた時と状況が変わったようにはセネカは思わなかった。
◆
縫うことを止められるとセネカは素振りするしかなかった。
しかしその素振りも度が過ぎているので、キトはそろそろ止めようかと考え始めていた。
素振りをしながら、セネカはこれからどうしていくべきか思案し続けた。
セネカが魔物の革に興味を持ったのは、冒険に役立つような気がしたからだ。
例えば菱目打ちを続けることで革の性質をよく知ることができるようになった。
今後、刀で斬り裂く時に今回の経験が活きるかもしれない。
だが、本来はスキルを直接戦闘に役立てようと思っていたのだ。
しかしいくら考えても答えは見つからない。
いっそのこと革を刃物で切る練習でもしたほうが冒険稼業に役立つ気がする。
けれど、いまセネカはユリアの話に従って自分のスキルと向き合っている。
「革を針で直接縫えれば良いのに⋯⋯」
セネカは刀を袈裟に振った。
コボルトを両断できるほどの威力があっただろう。
会心の出来だった。
素振りに満足したセネカは直前に呟いた言葉を思い出し、ハッとした。
「そうだよ。革を直接縫えるようになれば良いんだ! それなら、戦いに役立つかもしれない」
◆
それからセネカは意気込んで試行錯誤を始めた。
だが、キトはそれを一旦止めた。
キトもセネカの動きを止めるのは本意ではない。けれども、闇雲にやっても仕方がないとセネカを言い聞かせた。
というのも、セネカが針を使って革をキツツキのように乱打し始めたからだ。
キトの親友は天才なのだが、稀に知能が極度に低下する。
そういう時に止めるのもキトとルキウスの役目であった。
疲れている時のセネカは考えるのをやめてしまうことがある。
セネカは縫い過ぎて参っていたのだ。
やっと回復してきたのにまたアレに戻られてはたまらない。
キトの母と父も協力してセネカの説得に成功した。
そしてセネカは考えることに全力を注ぎ始めた。
その結果、恐ろしいほどの早さで答えに辿り着いた。
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