勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている

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【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている⑤ ~破滅の三大魔獣神~】

【第三十章】 不在のリーダー

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   ~another point of view~


 グランフェルト王国を離れたレイヴァースは真っ直ぐに根城であるサントゥアリオ共和国最北部にあるグリーナへと戻った。
 商人を襲ってエレマージ・リングを入手したことで帰国に時間を要することもなく、拠点に戻るとすぐに直属の部下に自身の不在の間の報告をさせる。
 スラス襲撃に関する報告がほとんどであったが、そのうちの一つがレイヴァースを激怒させた。

「すぐにあの役立たず共を晩餐室に集めろ!」

 激高のあまり拳で壁を殴りつけながら怒鳴り声を響かせる。
 部下の女戦士は慌てて敬礼の体勢を取り、すぐに駆け出していった。
 その後ろ姿が見えなくなるとレイヴァース自身も早足で晩餐室へと向かう。
 騎士団本部の最深部にある晩餐室は食事に使われるものではなく、主に幹部会や作戦会議、報告事の際に招集場所として利用されている。
 建物全体が石造りの寂れた砦であることもあり大きな長テーブルと左右に並ぶ椅子、そして使われていない暖炉があるだけの殺風景なスペースだった。
 十分な発光石が確保出来ないせいで薄暗い室内がよりその印象を強めているが、個人的なスペースでもない部屋の内装を気にする者など誰一人として居ないこともあって長らくそんな状態のまま放置されている。
 晩餐室に最初に到着したレイヴァースは上座に立ち、他の幹部達の到着を待った。
 本来その席は団長のものだ。
 間違ってもレイヴァースが断りもなくその椅子に座ることはない。
 少しして、まず現れたのは五番隊隊長デバイン・ゲルトラウトだった。
 呼び出された理由を知らされていないゲルトラウトは開口一番それを問うたが、見るからに苛立っているレイヴァースはただ『話は揃った後だ。さっさと座れ』と辛辣に言い放つだけだったこともあり、やれやれと呆れながらも黙って席に着くことを選ぶ。
 無言の空間のまま少し時間を置いて、残る二人がようやく到着した。
 三番隊隊長フレデリック・ユリウス。そして同じく三番隊の副隊長ルイーザ・アリフレートの男女二人組だ。

「緊急の招集だと言ったはずだ。何をのんびりしている、この馬鹿共が」

 レイヴァースはギロリと二人を睨み付ける。
 対して、相変わらず顔の上半分が鉄仮面で覆われているユリウスの表情は他者からは推し量れないものがあったが、毎度の事ながら不必要に突っ掛かってくるレイヴァースの相手ほど鬱陶しいものはないと思う気持ちが無いわけがなかった。
「元よりお前の裁量で呼び出される筋合いなどない。いつ戻ったのかも知らないが、一体何の用だ」
 特に感情的になるでもなく、ユリウスは至極冷静に言葉を返す。
 普段であればレイヴァースの指示や命令に耳を傾けるような男ではない。
 暇だ暇だと纏わり付いて離れないアリフレートの相手から逃れる方法として呼び出しに応じることを口実としただけに過ぎなかった。
 しかし、そんな事情など知らないレイヴァースは当然の如くユリウスの態度に一層苛立ちを覚える。
 それでも逐一反応して罵声を浴びせていては話が進まないとそれを無視し、全体を見渡した。
 この場に居る幹部は四人。
 本来加わって然るべき五番隊副隊長であるハイアント・ブラックの姿は無い。
 僅かにもピオネロ民族の血を引いていないブラックをレイヴァースが団員として認めることは決してないと部下の隊員も知っているからだ。
「ここ数日の報告を聞いた。スラスの奇襲作戦以降団長が疲弊し寝たきりになっているそうだな……一体どういうことだ! 貴様等は一体何のためについて行った、このたわけ共が!」
 静かに語り出したはずのその言葉は、最終的に声を荒げ拳をテーブルに叩き付けるに至っていた。
 スラス攻防から数日が経過しているにも関わらずクリストフが行動不能状態にあることを知らなかったゲルトラウトも、アリフレートから聞いてはいたものの他人の体調になど微塵の興味もないユリウスも黙ったまま反応を示さない。
 結果的に日頃の個人的な感情もあって怒りの矛先はユリウスへと向けられる。
「何を黙っているのだ! 無意味な言い訳の一つも出ないかユリウス!」
「俺の知ったことではないな。そもそも俺は襲撃作戦に参加していない。ゆえに文句を言われる理由もない」
「なんだと?」
 その事実を知らなかったレイヴァースは訝しげな顔をしたが、ならばと視線の先をアリフレートへと変えた。
「役立たずは貴様か……アリフレート」
「ちょ、ちょっと待ってくださいッスよ! 確かにあたしは参加したッスけど、ちゃんと団長の指示通り撤退したんスから。むしろあたしが一番命令に忠実に行動したぐらいッスよ」
 その唸るような低い声にびびりながらもアリフレートは必死に弁明する。
 そこで口を挟んだのはゲルトラウトだった。
「レイヴァース、ちょいと落ち着け。わしにゃあ状況が全然分からんぞ。なんじゃ団長が寝たきりっちゅうのは、一体何があった」
「あたしらは先に撤退した以上直接見ることは出来なかったッスけど……その後の報告ではあの城塞が半分吹き飛んでたらしいッス」
「吹き飛んでたじゃと? 大爆殺カルネージを使ったんか! なんじゃってそんな無茶をした。あれは体に負担が掛かり過ぎるけえ余程の事がない限り使えんちゅう話じゃろう」
「あたしに言われても分からないッスけど、エレナール・キアラが援軍に来たわけッスから……苦戦の末か、そうじゃなけりゃ」
「テンション上がって思わずっちゅうところか。理屈は分からんでもないが、どのみち足止め引き受ける言うたんは団長本人じゃ。わし等にゃどうしようもなかったじゃろう。今までのことを思い返しても体使わずに静養しちょれば数日で戻ってきとった。心配せんでも今日明日には戻ってきよるわい」
「楽観的な愚か者の意見など聞いてはおらん。私が指令を遂行次第魔王軍から対価を受け取る手筈なのだぞ。団長不在でどうするつもりだ」
「代わりを立てる他ないじゃろう。奴等にうて、冥王龍を封印しちょるっちゅう何かしらを受け取るだけのことじゃ。団長にしか出来んちゅうもんでもなかろう」
「ならば私が行く。貴様等になど任せておけぬ」
「そりゃ却下じゃ。レイヴァース、わりゃ適任じゃないわい」
「なんだと!? ならば誰が適任だと言うのだ!」
「ユリウス、お前が行くべきじゃろう」
「ふざけるな。なぜ俺がそんな雑用を押し付けられねばならん」
「わし等隊長の中じゃお前が一番感情的にならんタイプじゃ。取引がある以上は無駄なゴタゴタは不味いじゃろう。アリフレート、念のためお前も同行せい」
「了解ッス! フレッド先輩と一緒なら例え火の中海の中ッスよ」
 一人で乗り気なアリフレートだったが、ユリウスのみならずレイヴァースまでもが納得出来ずに舌打ちを揃える。
 それでも、ゲルトラウトは反対意見は受け付けないと言わんばかりに言葉を続けた。
「襲撃作戦に参加せんかったんじゃ、それぐらいは引き受けるのが筋じゃろう。団長がおらんと何も出来んような集団が戦争に勝てるはずもない。違うか?」
 決して攻撃的な口調ではなかったが、ユリウスは例え拒否したところで引き下がらないだろうことを理解した。
 冥王龍を倒せばその後は好きにする。
 今となってはその約束だけが目指すところであり、そうなって初めて真の復讐劇が始まるのだと信じて疑わないユリウスは渋々それに従い魔王軍との密会の地に向かうことにした。
 受け取って、復活させて、始末する。
 それが誰かに従って行動する最後の行程だと、強く心に言い聞かせながら。
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