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【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている④ ~連合軍vs連合軍~】

【第六章】 サントゥアリオ王国の歴史

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 サントゥアリオ王国二百年の歴史は民族、そして種族間の争いによる大きな影響を受け続けてきたといえる。
 先住民であるガナドルという民族によって建国されたサントゥアリオ王国は急速な発展を遂げ、元来の生活の糧である漁業の他、刀剣や鉄製の武具を生産し供給することで他国と肩を並べる力関係を得た。
 魔法力を持つ人間が極端に少ない民族でありながら、戦闘力に長け大国の仲間入りを果たすまでに要した時間は僅か十余年程度であった。
 そんなサントゥアリオ王国で一度目の戦争が起きたのは建国から百年以上も経ってからのことである。
 全ての始まりは近隣国であるバルカザール帝国がこの世から消滅した事件だ。
 少なくとも私の知る世界史において、国そのものが消えて無くなったのはこのバルカザール帝国以外ではただの一例しかない。
 戦闘部族として知られるバルカザール帝国の大多数を占めるピオネロ民族は無謀な戦いを挑み、そして敗れ、国土を失うに至った。
 小さな島に暮らす少数民族と言われる一方で万を超えるとも言われていた帝国の民は九割が命を失い、生き残った一割がサントゥアリオ王国へと逃げ延びた。
 多くの時間を費やした議論の末に王国は生き残りのピオネロ民族を受け入れることを決めたものの許されたのは限られた地域での生活のみであり、結果として過酷な生活を強いることとなる。
 現代においてそのピオネロ民族はサントゥアリオ王国を占拠した野蛮民だと言い伝えられているが、その背景には長きに渡る差別と迫害の歴史があったことを知る者は当事者を除いてはほとんどいないのだろう。
 私の見聞きしたものだけをとっても、少なくとも人としてまともな扱いを受けていたとは到底言い難いものがあった。
 彼等の生活は自給自足が原則であり、集落を出ての商売は許されず富を得る方法はない。
 それでいて農業や漁業のみで生活するのが困難な土地で暮らすことしか許されず、彼等はやむを得ずその身を金銭に換えることで生活を維持していた。
 男は使い捨ての労働力として、女は娼婦として、奴隷同然に扱われ売り買いされていた光景は今なお鮮明に脳裏に浮かぶ。
 一度買われた奴隷は死ぬまで解放されることはなく、人攫いによって無理矢理連れ去られ、そのまま売られた女の数は百を超えるという話も聞いた。
 そうして何一つ真っ当な権利を与えられないピオネロ民族がサントゥアリオ王国に移り住んでから十数年が経った時、第一の戦争が勃発するに至る。
 尊厳を踏みにじられ続けたピオネロ民族が武器を取り、立ち上がったのだ。
 何もせずに死に絶えるぐらいなら。
 そんな覚悟と、かつて帝国屈指の兵士として他国に恐れられていた先祖達の誇りを胸にピオネロ民族は王国へと刃を向けた。
 元来戦闘部族と言われていた彼等は団結して猛威を振るい、瞬く間に主要な都市を落とし、本城へと攻め入った。
 王国の長の首が飛ぶまでに要した時間は百日に満たなかったそうだ。
 そしてピオネロ民族は城を占拠し、王権の奪取を宣言した。
 同時に国の名をサントゥアリオ帝国へと変え、一族を率いていた戦士が初代皇帝として即位することとなる。
 戦に敗れた王国の民、兵士に立ち向かう気力は無く、徐々に国は帝国色に染まっていく。
 独裁的な政治や民族間の立ち位置の反転もあり、国民に受け入れられることはなく国に仕えていた兵士達も城を離れていったものの、意志にそぐわぬ者を次々と処刑するという半恐怖政治によって覇権はその力を増していった。
 そして時は流れ、国が帝国と名を変えて数年。
 二度目の戦争が起きた。今から七十年ほど前のことだ。
 反帝国思想が広まり国民、元兵士による武装蜂起によって起きたその戦は奇襲に始まり、当時は他国からは内乱と認識されていた小規模な争いであった。
 しかし密かに準備を進めていた元王国側の勢力は同盟国へと援軍を求め、次第に規模を増していき、互角と言われていた戦況を徐々に優勢へと変えていく。
 そして遂には悲願である帝国派の打倒、追放に成功し、多くの犠牲を出した二年にも及ぶこの戦争を人々は聖戦と呼んだ。
 王国派のガナドル民族のみで王制を統治し、ピオネロ民族は再び差別や迫害の歴史を歩むこととなる。
 自由をも奪われた旧帝国派の血は徐々に、しかし確実に凋落の一途を辿り、近代では歴史を振り返る者も少なくなっていると聞いた。
 かつて国を乗っ取ろうとした者達の末裔だと、そういう認識を持たれている程度で当時の戦争を知るものも少なくなった。
 ある者がそんな風に言っていたことを思い出す。
 今なお自由と尊厳を剥奪されたままのピオネロ民族が果たしてこのまま時間とともに滅びてしまうのだろうか。
 私にはそうは思えない。
 歴史は繰り返す。
 そんな格言の通り、近い将来また戦争や反乱が始まってしまうのではないかと人知れず危惧する気持ちが薄れゆくことはないだろう。
 ついぞ二十年前にサントゥアリオ王国は共和国へと名を変えた。
 権力や発言力を持つ人間を限定してしまうことよりも、国民が長く安心して生きてゆける国家を実現するという意志の下、先々代の国王が決定したことだそうだ。
 それからの国王三代、ピオネロ民族について公に触れることもなく、彼等に関しての法が新たに制定されたという話も聞いたことがない。
 数年前、一人の男が世を賑わせた。
 サントゥアリオ共和国先代国王を暗殺し、お尋ね者となったのだ。
 男は旧サントゥアリオ帝国皇帝の血を引く男なのだと、風の噂で耳にした。
 同時に様々な国で名の知れた賞金稼ぎや戦士を立て続けに斬ったことで名を知らしめ、天武七闘士の一人に数えられることになったそうだ。
 これが予兆でなければなんだというのか。
 少なくとも私が生きているうちに三度目の戦争が起きるのではないかと、そんな言い表せぬ時代の流れを感じる。
 世界が形を変える時、歴史が動く時、そこには必ず争いが生まれるのだ。

【ノスルクの書 第二集より  サントゥアリオ王国の歴史について】

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