上 下
72 / 175
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている② ~五大王国合同サミット~】

【第三十三章】 一方その頃

しおりを挟む
 ~another point of view~


 二カ国ずつ二つのグループに分かれて向かった水晶の試練。
 人知れず死闘を繰り広げていたユノ、グランフェルト両王国一行とは対照的にシルクレア王国、サントゥアリオ共和国の面々で構成された一団は滞りなく試練と呼ばれる関門を乗り越え、既にサミットの会場である孤島へと帰還している最中であった。
 中でもサントゥアリオ共和国から派遣されている五名は早々に出国し、波に揺られながら帰路を辿っている。
 その船内の一室では船の操縦を任されている兵士を除く四人が一つの机を囲んでいた。
「皆さん、ご苦労様でした。大事なくこの時を迎えることが出来て何よりです、陛下もお喜びになってくれるでしょう」
 全員が席に着いたのを確認したところで最初に口を開いたのはこの派遣隊を率いる若き女戦士だ。
 その名はエレナール・キアラ。
 通称【雷鳴一閃ボルテガ】と呼ばれる齢二十三にしてサントゥアリオという大国を守る王国護衛団の総隊長を務める若き旗頭である。
 耳が隠れる程度の短めの金髪に、背に負った金色に光る大きな槍が特徴的な風貌はその名と共に国外にも広く知られている。
 そんなキアラの言葉に最初に反応したのは正面に座る大柄な男だった。
「ワンダーがヘマをしなければより良い報告が出来たのでしょうがね」
 男は人間味の無い冷たい目と表情で、ギロリと正面に座る少年を睨み付けた。
 首筋に斬り付けられた様な傷跡が覗くかなりの長身にがっちりとした体格を持つこの男はヘロルド・ノーマンという先代国王の時代から護衛団に属していた護衛団副隊長の肩書きを持つベテラン兵士だ。
 数年前までは総隊長をしていたこともあり国内でその名を知らない者はほとんどいない。
 その冷血漢ぶりと絶えず口を衝く皮肉や嫌味、冷嘲を怖がっている兵士は多く、まさに今そんな言葉を投げ掛けられた少年もその一人だった。
「ご……ごめんなさい」
 泣きそうな表情で縮こまっている少年は俯いたまま小さな声でそう返すのが精一杯だった。
 若干十五歳でありながら魔法部隊の隊長を任せられているコルト・ワンダーは気の強い方ではない。
 加えて元来部隊長になるだけの器や力を持っているわけでもないのだからその肩書きらしく振る舞えと言うのは無理があることだった。
 種族柄魔法使いの少ない国にあってそれなり、、、、の魔法を扱えたというだけの理由で抜擢されただけであることは本人も理解しているのだ。
「ノーマン副隊長、その件は既に終わったことです。いつまでも部下を責めるのは止めなさい。それからコルトも、ミスがあったかどうかは別として、もう少しビシっとしなさいといつも言っているでしょう。オドオドしているばかりでは人はついてこないわ」
 すかさずキアラ隊長が割って入ることで見るに堪えない悪意の眼差しの矛先を変えた。
 叱責も混じってはいたが、それでもワンダーはホッとする。
 持って生まれた能力から連絡係を任せられることが多いワンダーはこの滞在期間中にシルクレア王国勢への連絡でミスをしていた。
 取り立てて大きな問題が生じるようなものではなかったし、国王の代理として隊を率いるキアラ隊長が頭を下げることですぐに解決したものの自分に非があることに違いはない。
 それでも敬愛するキアラ隊長はいつも自分を庇ってくれる。この場に隊長が居なければ間違いなくもっと酷い言葉を吐き捨てられていただろう。
 そんな背景もあってワンダーにとってキアラは近くに居るだけで安心出来る存在であった。
 一方でノーマンは『フン』と嘲笑するように鼻を鳴らしはしたが、それ以上は言わなかった。
 いつだって思いやりの欠片も無い副隊長の言動はキアラ隊長にとって受け入れられるものではなかったが、言って聞き入れる相手ではないことは分かり切っている。
 ゆえに批難したいのを堪え、一睨みするだけに留まり言葉を続けることを選ぶ他なかった。
「ではコルトは陛下へ帰還の連絡を」
「承知しました」
 ワンダーが敬礼を返すと、キアラ隊長は反対側に座る老人へと身体の向きを変える。
「それから御大は報告書の作成をお願いします」
「任されましょう」
 キアラ隊長の言葉に、唯一兵士以外でこの船に乗る老人は人当たりの良い表情で即答した。
 マット・エレッド。
 城に仕える大臣であり、上級大臣という複数いる大臣の中で一番高い地位にいる人物だ。
 齢は六十を超え十年前に一度引退している身であったが、前任の上級大臣が突如辞任したために急遽呼び戻された経緯があり、その経験の長さから他の大臣や兵士からは御大と呼ばれている。
 そのエレッド上級大臣を含めたこの場に居る四人こそが今尚魔王軍や反王国派との争いの続くサントゥアリオ共和国を支え、ジェルタール王を支える国家の中心人物であった。
 一体感が薄い感こそ否めないが、それでも任務を遂行し船は順調に波を越えていく。
 そんな彼等が戦渦の渦に巻き込まれるのは少し先の話である。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

処理中です...