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【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている② ~五大王国合同サミット~】

【第二十三章】 今の自分に出来ること

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「また見てんの? ちょっと気にしすぎちゃうか康平君。もしかしてあっちの王女様に惚れてもーたんちゃうやろな」
 夜が明けて翌日。
 出発前にみんなで早めの昼食を取っている店の中で、隣に座る夏目さんがからかう様な顔でそんなことを言った。
 卓に並ぶのは根菜類を塩胡椒っぽい何かで炒めたものと小魚(名称は耳に馴染みがなさ過ぎて聞いてもすぐに忘れてしまった)をちょっと酸っぱい何かに漬けた、僕達の世界で言う南蛮漬けのようなメニューだ。
 昨日とはまた違った昼食ではあるが、これはこれで十分に美味しい食事だと言える。
 炭水化物がなくおかずだけの食事というのも不思議な感じがするけど、元々食が細い方なので特に物足りない感もなく……とまあいつまでも異世界食レポ第二弾をしている場合ではないので話を元に戻すとしよう。
 夏目さんが言っているのは勿論のこと発信機の受信モニターのことである。僕が朝から頻繁に確認しているのを見ていたのだろう。
 とはいえ、言うまでもなくそれなりの理由があるのだ。
「惚れたから現在地をこまなくチェックするってどんなストーカー思想ですか。ちゃんと理由があってのことです」
「ほんまかぁ? 真面目そうな顔して意外とそういうタイプやったりして」
「さ、話も終わったことだし食事の続きといきますか」
「ちょ、そりゃないでー。冗談やん冗談、大阪ジョークやん」
「大阪ジョークってなんですか……まあいいですけど、これ見てください」
 呆れつつもモニターを夏目さんに見えるように机の上に置いた。
 しかし夏目さんは言わんとしていることの意味が分からず首を傾げている。それも当然といえば当然か。
「これがどないしたん?」
「合流地点を僕達のルートから近い方にしてもらった分、あっちは早めに出発していることが分かります。しばらく一カ所に留まったままなので向こうも何かトラブルがあったりしていなければ昼食でも取っているんでしょう。位置はここから二十五キロ程度、地図と照らし合わせるとリブという村のようです」
「そらあちらさんも飯ぐらい食うやろうけど、それで?」
「何が言いたいかというとですね、あの人達は真っ直ぐに今から僕達が向かう合流地点に向かって進んで来ている、ということです」
「いやだから、そら当たり前なんちゃうの? なんかおかしいとこあった? 言っとくけどウチは康平君みたいに頭良ーないから遠回しに言われても分からんで」
「いや、これは僕の頭がどうとかではないんですけど」
 夏目さんが理解出来ないのも無理はない。この事実に強烈な違和感を感じるのは僕とセミリアさんと、精々ジャックぐらいのものだ。
 というわけで、ここから再び回想。
 僕が船の上でシャダムさんと話をする少し前。
 僕達は地図の印にあるAとBの二つの合流地点候補から僕達のルートから近い方のBを選択することに決め、デッキでセミリアさんにマリアー二女王への報告を代わってもらうように頼み、それを承諾してもらった直後のことだ。
「それで、その報告に関してなんですけど、一つお願いがあります」
「なんなりと言ってくれ」
「ルートは僕達が西周りにしてもらう、それはそのまま伝えてもらっていいんですけど、合流場所をA地点に決めたと報告して欲しいんです」
「ど、どういうことだ? まるで虚偽の報告をしろと言っているように聞こえるのだが……そんなことをしては後で色々と大変なことになるのではないか? うまく合流も出来ないだろう、それだけでなくその責任はこちらに問われることになる。それが分からないコウヘイではないと思うが、しかし一体なんの意味があってそんなことを言うのだ」
「勿論意味も無くこんなことをお願いはしません。僕が王様に与えられた役目を全うするために知っておくべきことがある、そういう理由です。それから後に責任を問われた時はハッキリと言って下さい。僕の指示でそうした、と」
「了解した……お主がそう言うのであればその必要があるのだろう。言う通りにしよう」
「ありがとうございます。決して途中で訂正しないようにしてください、毅然とした態度でいれば問題はないはずなので」
「う、うむ……私に演技が出来るかどうかは分からないが、極力そういう態度を心掛けよう。他に何かするべきことはあるだろうか? なければすぐに行ってくるが」
「特にはないですね、あとは終わった後にその時の様子を聞かせてもらえれば」
「分かった、ではマリアー二王のところへ行ってくる」
 まだ戸惑いが拭いきれていない風ではあったが、それでもセミリアさんは階段を降りて船内に入って行った。
 ちょっと汚れ役をやらせてしまったみたいで申し訳ない気持ちもあるけど、こればかりは仕方ない。僕が行っては意味がないのだ。
 僕の推測が正しいのであれば僕が嘘の報告をしてもその真意を見抜かれてしまう。であれば向こうは乗ってこない可能性がある。偽りの報告をするのは偽りであることを自覚していつつ偽る意味が分かっていない状態の誰かでなければならないのだから。
「ふう……」
 さて、どうなることか。
 と、セミリアさんの帰りを待つこと数分。
 再びデッキに現れたセミリアさんの顔はやはり浮かない。
 真面目で誠実な人だ、しかも相手は一国の王ともなれば意図的に騙す様な真似をして心中穏やかではいられないであろうことはよく分かる。
「お帰りなさい。どうでした?」
「ちゃんとコウヘイの指示通りの報告をしてきたが……やはりというべきか、どうにも怪しまれているようだった。何度も確認されたことからもそれは間違いないと思う。本当ですか、間違いはないですかとな」
「ふむ、やっぱりそうなりますか。その何度も確認をしてきた人ってもしかしてウェハスールさんだったりします?」
「あ、ああ。よく分かったな、その通りだ。随分と訝しげな顔をしていたが、私の態度がおかしかったのだろうか」
「いえ、そんなことはないでしょう」
「だといいのだが……どちらにしても怪しまれてしまってはコウヘイの目論見を台無しにしてしまうのではないのか?」
「大丈夫です。予想通りというか予定通りというか、むしろ都合が良いぐらいですよ。結果どうあれ嫌な役目をさせてすいませんでした」
「あまり申し訳なさそうにしないでくれ。コウヘイに必要なことであるならば何ら文句はない」
「その時が来れば全部説明しますので、今は事情は聞かないでくれるとなお助かります」
「うむ、ではその時を待つとしよう。何度も言うが、私に対して気兼ねなどしないでくれ。人を上手く使うのもお主の役目でありコウヘイにはそれが出来る能力があると私は思っている。私達は仲間だ、例え王に何かを託されてなかったとしても私が指示を仰ぐ相手はお主なのだということを分かっていて欲しいと私は思うぞ」
「王様やセミリアさんに頼られるだけの器があるのかどうかはいつまで経っても分からないですけど、その信頼に応えるために出来ることを追求してくつもりです。こっちが頼ることの方が圧倒的に多いでしょうけどね」
「ふっ、やはりお主は謙遜、謙遜、なのだな」
「いや、別にそういうわけでは……」
「いいかコウヘイ、私達が魔王を倒せたことも、それによって王国に平和が戻ったことも少なからず、いや、大いにお主の存在があってのことだということを忘れないでくれ。王がお主の才気を認めて重要な役割を担わせようとすることも、今サミュエルが生きていることも同じくだ。あの戦いによってお主の顔も名前も知らない人間がどれだけ救われたことか、コウヘイの言うどこにでも居る平凡な人間にそんなことは出来ないさ」
 だからもう少し自分に自信を持て。
 そう付け足して、セミリアさんは僕の肩に手を乗せた。
 思い返せばミランダさんも言っていたっけ。セミリアさんから僕は必要以上に謙遜する人間だと聞いた、なんて話を。
 僕は決して自分を特別な人間だとは思わないし、日頃日本で暮らしている時ですらそうなのだからこの世界で言えばよりその傾向が強いぐらいだ。
 サミット会場で会った連中と自分が並んで立つ姿を想像すると残念な程に平々凡々な存在である事実など疑うまでもない。
 しかし、だからといって別に自分を卑下しているわけでもない。
 その器以上に持ち上げられるから謙遜で返すのであって、例えばこの世界で何か自信のあることをしようとしても僕は自信が無いように振る舞うことの方が多いだろう。自己分析するならば僕はそういう人間だ。
 逆もまた然り、あの完璧超人ことクロンヴァールという女王に話をした時の様に自信がなくても毅然と振る舞うこともある。そういう駆け引きや心理戦こそが唯一、多少なりとも人と比べてその自信があることなのだ。
 残る王様の代理や参謀なんていうのはどう転んだって身に余る役目であり、何が出来るのかも何をすべきなのかもその都度考えてやっていくしかない。大雑把に言えばそんな感じだ。
 とはいえ、余り頼りないと思われてしまうとそれはそれで寂しいので僕はこう答える。
「こっちの世界じゃ出会う人の誰もが凄い人ばかりですからね。そういう中に入っていこうとするならひ弱な少年とでも思われていた方が都合が良いこともありますし、口で言っているほど僕は人より劣っているとは思っていないのかもしれませんよ?」
「それは頼もしい言葉だな。では私はそんなコウヘイの仲間として今後の活躍を楽しみにさせてもらうとしよう」
「おっと、いささか口が滑ってしまいましたかね。どうぞお手柔らかにお願いしますよ」
「ははは、さてどうするかな」
 そんな船上での、また一つセミリアさんとの信頼が芽生えたやり取りを経て僕はシャダムさんの居る操舵室へ向かったのだった。
 ここで回想は終わって昼食の席へ戻ることにしよう。
 そんなわけで、夏目さんにとっては当然の事でも彼らが真っ直ぐに僕達の向かう合流地点に向かってくるのはあり得ない話なのだ。
 しかし、そうは言ってもまだその説明をすべき時ではない。
「それは後々嫌でも分かると思います。みんな食べ終わったようですし、僕達も向かいましょうか」
 僕達は食事処を後にする。
 今度こそ真の目的である封印の洞窟へ向かって。
 おそらく……いや、ほぼ確実にその前に一悶着ありそうだけどね。
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