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【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている② ~五大王国合同サミット~】

【第六章】 出発前夜

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 玉座の間を出た僕達は二人のメイドさんの案内によって一夜を過ごすことになる部屋へと移動した。
 ようやく一息吐けるのかと思ったのも束の間、例によって全員で一部屋というこの世界の認識を失念していたおかげでもっぱらそれも叶いそうにない感じだ。
 それでも手荷物を降ろし、王様が用意してくれた食事をいただいたのち、大した長旅ではないながらも旅の疲れを癒そうと備え付けの風呂に入ることになったおかげで少しはゆったり出来そうだ。
 女性陣が先にということでサミュエルさんが最初に入り、なぜかセミリアさんと夏目さんが一緒に入り、次に僕の順番が回ってきたのだが、入ってみると部屋が広いだけあって浴場も結構な大きさがあってちょっとした温泉気分である。
 ちなみに、二人の給仕さんは部屋に僕達を案内するなり、
「部屋の外に待機しておりますのでご用の際はお呼び立て下さい」
 と、ほとんど僕にだけ言って部屋を出て行ってしまった。
 部屋の外でお呼びが掛かるまで待機させるというのも結構な良心の呵責があるのだが、それが彼女達の仕事だからと言われてしまっては返す言葉もない。
 っと、今はあれこれ考えずにせっかくの広い浴場を堪能してリフレッシュしなければ。
「は~……生き返る」
 心地の良い湯加減に思わず親父臭い一言が漏れる。
 手足を軽々と伸ばせるゆったりとした空間がなんとも言い難い脱力感を誘った。
『しっかし相棒も出世したもんだな、専属の使用人とは。虫も殺さねえ顔して大したもんだぜ。さすがは俺の相棒ってことろか、俺の人を見る目は確かだったらしい』
「からかわないでよ。僕だって不相応だと思ってるから悩ましい思いをしてるんじゃない。この身なりの僕がどんな顔して用事を言い付ければいいんだって感じだよ」
 僕のそんな言葉にもジャックは『カッカッカ』と笑うだけだ。
 腹いせに身体の位置を低くしてお湯に沈めてやろうと試みてみたものの、元々呼吸をしていないジャックは全然平気そうにしていた。 
『そんなに気になるなら断りゃよかったろうに。そういう押しに弱いところがお前さんらしさなのかね。言い換えればお人好しともいうがな。なにせ魔王を助けてやろうとするぐれえだ、俺ぁ未だかつてそんな人間を見たことがねえよ』
「王様に言われて誰が断れるのさ。大体そう思うならジャックが口添えしてくれりゃよかったじゃない。城に入ってからは一言も喋らなかったくせに、薄情な相棒がいたもんだよ」
『そう言ってくれるな。俺は元々外法から生まれた存在なんだぜ? クロティールなんざ連れてると知れればむしろお前さんの立場が悪くならあな。それに半裸の勇者様は俺が喋ると機嫌が悪くなるしよ。何より、俺はこの国の王家にゃ嫌われてっからな、極力お前さんやクルイードしか居ない時以外は無駄口は叩かねえようにしてるのさ』
「……なんだかすごーく意味深な言葉が付け加えられた気がするけど、今僕の脳内はいっぱいいっぱいだからまたの機会に聞かせてもらうことにするよ」
『ま、気が向いたらそのうち話してやんよ』

          ○

 風呂から上がり高瀬さんと入れ替わるかたちで皆がいるベッドの並ぶ部屋へと戻ると、どういう状況なのか二人で同じベッドに腰掛けている夏目さんがセミリアさんの身体をペタペタ触っていた。
 ちなみにサミュエルさんは一番壁際のベッドで一人黙々と武器の手入れをしている。
 立ち尽くしているわけにもいかず、僕も自分のベッドの方へ近付いていくとセミリアさんが僕に気付いて声を掛けてくる。
 これまたちなみに、もう当たり前のように男女揃って並んだベッドで寝ることになっていたりする。
「コウヘイ、多少疲れは取れたか?」
「ええ、おかげさまでのんびり温もりました」
 替えの下着こそ用意されていたものの、着替えを用意していなかったせいでまたジーンズで布団に入るのかと思うと安眠は難しそうだと今更になって気付く。
 余計な趣味の持ち物ばかり用意して肝心な物を忘れるとは僕もまだまだ未熟なのか。
 元々ホテルで何日か泊まる予定だった夏目さんは持参した可愛らしいピンクのパジャマに着替えているだけに余計に目立つ感じだ。
「というか、お二人は何をしているんです?」
「セミリアはんの身体をチェックしとってん。康平君も一緒にする?」
「いやいや……そもそもチェックってなんのチェックなんですか」
「それがなー、見ての通りあの鎧みたいなん外したらセミリアはんめっちゃスタイルええねん。腕とかもほっそいし、なんでこんな細い身体であんな重いもん身に着けてられるんか不思議やと思わへん? 筋肉質ゆう感じでもないし」
 若干興奮気味に疑問を投げ掛けつつ、夏目さんは改めてセミリアさんの腕をふにふにと揉み始めた。セミリアさんも特に嫌な顔をするわけでもなくされるがままだ。
 確かに鎧を外し、部屋着に着替えたことで露わになっているセミリアさんの色白な腕はとても鉄の塊を振り回せるとは思えないほどにか細く見える。
 とはいえ、あまり男の僕が凝視しているのも失礼なのでそんな感想も心で留めて隣の自分のベッドに腰を下ろすことにした。
「アスカも修行をすればこうなるさ」
「いやぁ、一ミリたりともそうなれる気がせぇへんけど……ん? それなにつけてるん? ネックレス?」
 ふと、夏目さんがセミリアさんの首元を覗き込んだ。
 確かにその首から服の下に収まる様に微かに細いネックレスチェーンが見えている。
「ん? ああ、これか。これはネックレスというほど洒落た物ではないさ」
 ほら、と。服の下から引っ張り出したそれを外し、僕達に見せてくれる。
 それは確かにネックレスという感じではなく、国の偉い人などが衣服に付けている記章だとか勲章バッジっぽい何かチェーンを通して首に掛けられるようにしただけの物だと見た目からも思えた。
「なんかいかにも思い出の品って感じやなー。ひょっとして大事な男からの贈り物とかやったりして」
「何を言うかと思えば、私に恋人など居るはずがなかかろう。ただ、これは昔私を救ってくれた人に貰った物でな、お守り代わりに身に着けているのだ」
「へー、そうなんや」
 と、興味深げに頷きつつも夏目さんがセミリアさんにそれを返した時。
 同じタイミングで風呂から出た高瀬さんが戻って来たことで思いがけず会話が途切れる。
 バンダナを外しているせいで無精なロン毛がいつも以上に不愉快だった。
「あ~、良い湯だったー」
 ドライヤーなんて存在しないのでこれは仕方のないことだけど、湿った長髪を手で払う高瀬さんは一人満足げだ。
 対照的にものっすごい白けた顔を向けるのは夏目さんである。
「お前……えっらい早いな。ちゃんと頭洗ったんか?」
「洗ったわ! かーちゃんみたいなこと言ってんじゃねえよ!」
 相変わらず揃うと賑やかな二人だが、慣れてしまった僕達はともかくサミュエルさんが大層ウザそうに舌打ちをしたせいで二人の言葉がパッと止まり、揃って視線がそちらに移る。
 二人の文句の言い合いの矛先がサミュエルさんに向かうとまた恐ろしいことになりそうなのでやむを得ず僕が話題を反らすことにした。
「そ、そういえばセミリアさん。サミットって具体的にどんなことを話し合うんですか? やっぱり僕達の世界とは違うんでしょうけど」
「ん、ああ、それはだな」
 一瞬不意を突かれた様子だったもののセミリアさんも僕のやろうとしていることを理解してくれたらしく、気を取り直したように話を合わせてくれる。
「主立ったものはやはり魔王軍へ対抗するための連携や情報交換になるだろうな」
「あん? 魔王は前に倒したじゃねえか勇者たん。まさかあの幼女がまた攻めて来たのか?」
「そうではない。が、これは他国を含んだ問題なのだ。我が国が魔王を追い払い平和を取り戻しつつあるからといって無関係というわけにはいかないということだ」
「いまいち話が飲み込めませんけど、それでは他の国は魔王を追い払えていないということですか? あの女の子が他所の国へ行ってしまったと?」
「それも違う。というよりは、そもそも前提としてお主等に対する説明が不足していたな。魔王というのは大魔王の子息子女を指す言葉なのだ。魔族の長に君臨する大魔王という存在がいて、その子が魔王としてそれぞれ各国へと攻め入っているというのが今の大まかな情勢だと言えよう。そして我が国へ侵攻していたのが先の戦いで退けたシェルムであり、他国では今なおシェルム以外の三人の魔王が率いる魔王軍との争いが続いているというわけだ」
「そういうことになってるんですか……」
 大魔王。
 あの化け物みたいな子が他に三人も居て、更にその上にもっと凄いのがいるのか。
 ……よく人類滅ばないなこの世界。
「魔王が他に三体もいてその上に大魔王ってセオリー無視もいいとこだろ……普通一つの世界に魔王が一人と裏ボスが一匹なんじゃねえの? まあネトゲでも結局次々に先が増えていくから似たようなもんと思えば納得も出来るけどよ」
「なんか難しすぎてよー分からんなってきたわウチ。実際に見てないウチからしたら魔王っていうからにはあの小説に出てくるようなバケモンじみた超能力使うんやろうなってことぐらいしか理解出来へんもん」
「お主等にしてみればそう思って当然なのだろうな。だがまあ、近年はそこまで苦戦している国もなかったのだ。街や村が襲われることもほとんどないし、目立った争いもそこまで多くはなかった。だが、最近になって魔族に新たな動きが見られるらしくてな。それを話し合うのも今回のサミットの目的の一つというわけだ」
「改めて、凄い世界に来たんだなーって感じですね。もう想像が追い付かなくなってきましたよ僕は」
 ただでさえ高瀬さんと違ってゲームやアニメの知識が豊富なわけではない僕だ。
 ここが異世界であることや、魔法や化け物の存在を受け入れるだけで正直精一杯である。
「ってことはよ、他の国にも勇者が居るってことか? さすがに兵士だけで魔王を倒すとか無理ゲーだろ。勇者たんですら俺様という救世主が加わらないと勝てないぐらいなんだぜ?」
「うむ、さすがはカンタダだな。鋭い考察だ」
「よせやい」
「ということは高瀬さんの言うように他の国にもセミリアさんやサミュエルさんのような勇者が居るということですか?」
 ここに今二人いて、他の国にもいる。
 それは魔王が複数居るのであれば理屈としては成り立ちそうな話ではあるが、少なくとも僕にとってこの二人は特別な使命感や意志の強さを持ち、その為に我が身を削って人のため平和のために戦っている特別な存在だ。
 だからこそ普段は他人に興味を示すことなんてほとんどない僕が尊敬の念すら抱いているし、頼られればそれに答えたいとも思うわけで、そんな二人の勇者という称号のようなものが他にも複数あるというのはちょっと嫌だなぁなんて思ったりした。
 したのだが、すぐにそれはセミリアさん本人に否定される。
「勇者の称号を与えられた者は私とサミュエル以外に存在しないさ。だが、勇者以外にも強者は世界中にたくさん居るということだ。その最たる例がクロンヴァール王だろう」
「「「クロンヴァール王???」」」
「国土、人口に加え国の豊かさや兵力に至るまで名実ともに世界一であるシルクレア王国の女王の名だ。若くして国を治め、それでいて天武七闘士の一人に数えられるほど屈強な戦士でもある強さも美しさも世界一と名高い方なのだぞ」
「なんやのそれ、美しさも強さも世界一でさらには女王様て……完璧超人すぎるやろ。ていうか、その天武七闘士ってなんなん?」
「そりゃお前、天下〇武道会みてーなもんだろ?」
「そうなん?」
「いや、知らねーけど」
「どないやねん! 語呂が似てたから口にしただけかい」
「あ、分かったぞ。王〇七武海みたいなもんじゃね?」
「数字がかぶってるだけやろどうせ、ナンボほどジャンプ好きやねん。大体それ海賊やし、悪者やし。もうお前黙っとけや、話進まんやん。セミリアはんに聞いた方が早いわ」
 呆れるのを通り越して蔑んだ目を向ける夏目さんだったが、間違いなくジャンプ読者ではないセミリアさんは逆にそれらの言葉の意味を聞きたそうな顔をしていた。
 強さを求める人にとって天〇一武道会という響きは聞き過ごすことは出来ないものなのなのかもしれない。
 それでも夏目さんと高瀬さんが揃って自分を見たことでそんな疑問も飲み込み、天下一武〇会ではなく天武七闘士というものについての説明を始める。確かに語呂は似ているな……。  
「天武七闘士というのは世界でも最強の戦士と言われる七名を総称した言葉だ。一国の王でありながらそこに加わっているというのだから頭が上がらない。私も以前合同演習の時に手合わせをしてもらったが、私など足下にも及ばなかった」
「セミリアさんが足下にも及ばないんですか……」
 もう人間じゃないでしょ、それ。
「ていうか勇者より強い王様ってわけ分かんねえな。そんなRPG嫌過ぎる……」
「あくまでその時は、という話だ。今ならばそう簡単には負けないさ。私も当時より数段強くなったという自負はある。魔王がいなくなってじっくりと鍛えることも出来たからな」
「なあなあ、セミリアはんはその剣使って戦うんやんな?」
「ああ、勿論だ」
「そのナントカ王って人も一緒なん?」
「家柄もあってか元々は戦士長を務め騎士として最前線で戦っていた程に剣技に長けたお方だ。それに加えて、唯一無二の魔法剣の使い手でもある。あの能力の凄さや強大さを初めて見た時には驚かされたものだ」
「魔法剣っておま、竜の騎士じゃあるまいし」
「竜の騎士? カンタダ、それはなんだ?」
「セミリアさん、漫画の話なので気にしないでください」
「マンガ? ああ、例のカンタダの病気のことか」
「病気じゃねえよ!」
 立ち上がってまで全力でツッコむ高瀬さんを即決でスルーするという判断をしたのは僕だけではないらしく、夏目さんも聞こえなかったことにして質問が続く。
 しかし悲しいことに、そうされることに慣れてしまったらしい高瀬さん自身もあっさりと腰を下ろした。
「そんで、その魔法剣ってのは言葉の通り魔法と剣を一緒に使うってこと? そもそも魔法を使うってことからして頭こんがらがりそうやけど」
「少し違うな。正確には魔法陣と剣、つまりは結界術と剣術を合わせた能力だ」
 もはや専門用語ばかりで僕にはさっぱりだった。
 恐らくは夏目さんや高瀬さんも同じだと思うのだが、高瀬さんだけは『なるほどなー、そりゃすげえはずだぜ』とかなんとか知ったかぶってか、また別の知識と混合してか、納得いったかのように頷いている。
「その通り、大したお方だ。側近や兵士、国民の人望も厚い。それでいてあの天武七闘士に数えられているのだから恐れ入る」
 セミリアさんが感慨深げにそう言った時だった。
 言葉の途切れたタイミングに合わせたように背後でもう一度舌打ちが聞こえる。
 出所は問うまでもないのだが、何が気に障ったのかと恐る恐る振り返るとサミュエルさんが手入れを終えた刀を脇に置き、こちらを向いていた。
「ふっ、それって皮肉で言ってるわけ?」
 やや軽蔑混じりの目でセミリアさんを見て、サミュエルさんは鼻で笑う。
 なぜ不機嫌になるのかも分からなければ、言わんとしていることも分からないのはセミリアさんも同じだった。
「何が言いたいのだ、サミュエル」
「アンタも入ってんじゃない、その天武七闘士に」
 その言葉に、サミュエルさんに向いていた視線が一斉にセミリアさんに戻る。
「へ……そうなん?」
「ああ。別に隠そうとしていたわけでも皮肉で言っているわけでもないのだが、一応はそういうことになっている」
「ってことは勇者たんは世界で一番強い七人に入ってるってのか。だが、そうこなくちゃつまらねーってもんだ。さすが俺様の仲間ってもんよ」
「必ずしもそういうわけではない。そもそも明確な基準があるわけでもなければ実際に武を競って順位を付けた結果というわけでもないからな。世間一般の風評による称号のようなものだし、それにしたって善悪を問わず知名度や評判の多寡によるところが大きい。名が知られていない強者など世界にはゴロゴロしているしな」
「でも、だからこそ世間一般でそう言われるだけの知名度や強さを持っているということなのでは?」
 例えばそれは、魔王を倒したということもそうだろうし、勇者であることが所謂正義のヒーロー的な意味での支持を得ているのであれば合点がいく。
 それは有名だからではなく、有名になるだけのことをしていて、それでいて他に勝る強さを持っているからこそなんじゃないだろうか。
 だとすれば、だからサミュエルさんには嫌味に聞こえてしまったのか。あの口振りからして二人の勇者のうちセミリアさんだけがその称号を得ているから。
「でもまあ、康平君の言う通りやで。どんな理由でもそういう扱いを受けるってことは色んな人に認められてるってことや。でもそうなるとセミリアはんとその王女様以外にはどんな人がそこに入ってるんか気にならへん? ウチなんかが聞いたところで意味無いんやろうけど」
「そんなことはないぞアスカ。私を除いても半数はサミットに同行してくるはずだ。名前ぐらいは知っておいて損はないだろう」
 そう言って、セミリアさんはその天武七闘士とやらに数えられているという七人の名前を教えてくれた。二つ名や異名、通り名のようなものも含めて。

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「………………」
 もう何がなにやら。
 序盤はともかく戦争麒麟児、狩人、人類最強って……そんな人達と会いたくないんですけど。
「なんや知らんけど一気にバトルマンガのノリになってきたな……」
「くっくっく。近い将来、八人目として俺の名前もそこに載ることになるぜ。異名はそうだな……【次元マスター】でどうだ?」
「いや、ドヤ顔で同意を求められてもリアクションに困るんやけど……」
 そんな中で一人だけ気後れしないどころか自分も肩を並べようと言い始めるのだからある意味羨ましい性格だ。
 今更分からないこと、理屈的におかしいこと、説明が付かないことについて深く悩むつもりはないが、だからといって高瀬さんほど脳天気な反応も出来ない僕は一つ疑問をぶつけてみることにした。
「ちょっと気になったんですけど、どうして共和国なのに王国護衛団? というものがあるんですか?」
「サントゥアリオのことだな。あの国は少々特殊な歴史があるのだ。元々は王制国家だったのだが、一度サントゥアリオ帝国と名前を変えている。その後再び王国に名を戻し、それから少しして今の共和国となった。王国護衛団の名前もその名残で引き継いでいるだけで特に意味は無い、と聞いたことがある。国を治める人間も国民の投票によって決まるが、選ばれた人間は王を名乗る。かといって王族も王家もすでに存在しないという変わった国だ」
「なるほどそういうことですか。なんだか、どんどん新しい事を知っていくせいで頭がこんがらがってきそうですけど」
 戦うことが出来ない僕がこの二人や王様の役に立つ方法は知識や情報を得て思考思案することぐらいなのだろうが、単語一つ取っても聞いたことがないという状況下でそれをするのは結構な難易度である。
 夏目さんも僕と同じく脳内メモリが限界に達したのか、ギブアップだと言わんばかりに両腕を広げてベッドに倒れ込んだ。
「ほんまやでー、もうウチも頭ごちゃごちゃや。正味な話、出発する前どころかこっちに着いたあたりでもまだちょっと観光気分やったけど、さすがにカルチャーショックが多すぎて追い付かんようなってきたわ。いや、別に文句言ってるわけやないで? 連れてきてもらったことには感謝してるし、今後の良い経験になると思ってるしな。でも質問攻めして答えを聞いても想像するだけじゃ中々理解も追い付かんし、あとは明日自分の目で見て学ぶことにするわ」
「そうした方がよさそうですね。僕も見たこともない人の名前や国のことを聞いても現時点ではさっぱりですし」
「せやろ? てなわけで、悪いけどウチはお先に休ませてもらうとするわ」
 そう言って、夏目さんは自分のベッドに移動し前のめりにダイブした。
 明日も大変そうだし、僕も早めに寝るとしようかと靴を脱ぎ横になると、セミリアさんも布団を整えて就寝に備える。
「王に同行するのが役目であって会場に到着してしまえばほとんどやることはないだろうが、着くまでは結構な旅になる。私達も明日に備えて休むとしよう。サミュエルも構わないか? よければ明かりを落とすぞ」
「好きにしたら?」
 素っ気なく答えたサミュエルさんが横になったのを見て、セミリアさんが部屋の電気を落とした。
 この世界の電気は発光石という光を放つ特殊な石が用いられているのだが、この発光石は寿命となって帯びている光が消えること場合以外に光を消す方法はないらしく、壁に設置された石を同じく壁に垂らしてある布で覆うことで消灯としている。
 覆うのが黒い布とはいえ少なからず光が漏れてきているのだが、それが丁度僕達の世界でいう就寝用の豆電球の明かりのような寝るには程よい具合になっていた。
 各自が自分用のベッドへ横になり、おやすみ、とそれぞれ言い合ったのを最後に会話がなくなる城の客室。
 慣れない環境で心身共に疲労していたのか、目を閉じるとすぐに眠気に見舞われる。
 何はともあれ明日が本番。
 学生の僕がサミットなどという国際的で重要な場に出向いていいのかという疑問は未だ残っているが、王様はともかく仲間だと言って僕達を守ってくれるセミリアさんや、仲間だと言わなくても僕を助けてくれるサミュエルさんの役に立てることがあるならば、僕はしっかりとその役目を果たそう。
 そう決めたのと同時に眠気に身を預け、意識が遠のいていくのを待つのだった。
「あれ? そういや、康平君は風呂入る前に歯磨いてたけど、TKは磨いてたっけか?」
「徹夜ゲーが多い俺は朝磨く派だ」
「不潔やぁぁー!」
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