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【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている】
【第十三章】 廃牢ルブフラック
しおりを挟む宴の為の諸々が用意された大広間の人口密度は急激に減り、僕達だけが取り残された形になってしまった。
偽物の王が立っていた場所には春乃さんと高瀬さんの攻撃によって割れたり砕けたりした地面や壁の痕跡が、生物ですらなかった偽物の兵士達がいた場所には纏っていた防具や武器だけが残されている異様な空間で、当然ながらこのままこの場を去るわけにもいかず、僕達はこの場を預けることが出来る人物を探すことに。
とはいえセミリアさん以外はこの城に来るのは初めてなわけで、言うまでもなく顔見知りなどいるはずもなく、一方のセミリアさんも顔見知りといえるのは数名の兵士と使用人ぐらいということだったのだが、安易に兵士を呼びこの状況を伝えるのは事態を収拾しようにも何かと得策ではないというジャックの進言もあって結局僕が先ほど話を聞いた二人の侍女を呼びに行くこととなった。
その時にも役に立ったジャックの変な嗅覚ですぐに目的の人物を見つけることが出来た僕はひとまず事情を伏せて二人をこの部屋に連れてくると、当然の如く部屋の惨状に動揺する二人にセミリアさんが事の顛末を説明し始めて今に至る。
「変だとは思っていたけど……まさかそんなことになっていただなんて。でも最近の王様はどこかおかしいと思ってたのよ。今だって宴会が終わるまでは部屋に近付かないように、なんて」
一通りの説明が終わると僕が呼びに行った侍女の一人であるルルクさんは腕を組み合点がいったように何度も頷いた。
三十にも満たない若い二人の侍女のうち歳が上であろうこのルルクさんは見た目に分かるぐらいに気が強くハッキリとした物言いが特徴的な女性で、僕が王様について質問をしたときにも積極的に色々と教えてくれた良い人だ。
そんな性格ゆえか、偽物だとか魔族だとかといった響きにも特に動揺している様子はない。
「ですが……では本物の国王様はどこに? まさかもう……」
対照的に物静かな雰囲気を纏うもう一方の侍女スレイさんは少し表情を曇らせてセミリアさんをちらりと見遣るが、少しでも安心させようと考えたのか上書きされた言葉が続きを遮った。
「いや、死んではいないし捕らえられている場所も分かっている」
ルルクさんとスレイさんは顔を見合わせ安堵の表情を浮かべる。
が、突然ジャックが割って入った。
『だがそれも罠の可能性が高いぞクルイード』
「む? そうなのか?」
『あの偽物野郎があっさり引いたのも、ご親切に場所を教えやがったのもお前を誘い出そうと考えてのことだろうよ』
「ふむ、確かにジャックの言うことも一理ある。だが、だからといって放っておくわけにもいくまい」
『ま、そりゃそうだ』
「そこで二人に頼みがあるのだが……ルルク殿?」
そんな会話の中、ルルクさんが不意に腰を折って僕の胸元に顔を近づけてきたためセミリアさんは一瞬言葉を詰まらせた。
そのルルクさんはジーッと、何やら訝しげな表情で至近距離からジャックを凝視している。
「ど、どうしたんですか?」
不味いとは思いつつも、逃げると余計に怪しいので取り敢えずすっとぼけてみる僕。
当然ながらそんなので誤魔化せるはずもなく。
「今これが喋ってなかった?」
「そ、そんなわけないじゃないですか。僕ですよ喋っていたのは」
「でも声が全然……」
「腹話術です、得意なので」
掃討に無理矢理であったが、きっぱりと言ってみた。
そのおかげなのかは微妙なところだが予想外にも納得してくれたらしく、ルルクさんはおもむろに顔を離すと感心した様な声を上げる。
「へぇ~、大したものね。お兄さん旅芸人かなにか?」
「いえ……」
このままジャックの話を掘り下げると本題から逸れてしまうと思って咄嗟に言ってはみたけど……正直いい加減耳が痛いな。
「ルルク、勇者様が話しておられるでしょう。ちゃんとお聞きなさい」
それでも横に居るスレイさんによるごもっともな指摘によってどうにかルルクさんも話を聞く体勢に戻る。
恐らく、いやほぼ確実に誤魔化せていないであろうスレイさんが興味を持たなくて本当によかった。
「話の続きだが、二人には城のことを頼みたい。王が囚われたなどと知れ渡れば兵達にも町に住む者達にも動揺が走るだろう。どうにか私達が戻るまでこの件が外に漏れないようにしてほしいのだ」
「それは構いませんけど、勇者様達はどうなさるおつもりで?」
「決まっている。リュドヴィック王を助けに行くのだ」
「ちなみにですが……国王様が捕らえられている場所というのは?」
「廃牢ルブフラックだ」
「ルブフラック……あんな所に」
信じ難いとばかりにスレイさんが顎に手を当てた時。
珍しく静かだった賑やか担当の片割れが戻って来るなりすかさず思うがままに疑問を口にする。
「ねえねえ、そのルブフラックってなんなの? あの紫ジジイも言ってたけど」
背後の声に思わず振り返ると、話の途中からみのりと二人で料理を見て回っていた春乃さんがいつの間にか後ろに立っている。
ちなみに高瀬さんは今なお兵士の抜け殻を物色するのに忙しそうだ。
その姿を見ると、もう別にカンダタでいいのではなかろうかと思わずにはいられない。
「ルブフラックというのは今は使われていない古い監獄の名前だ。かつてこの国の罪人は例外なくそこに収容されていたという」
「へぇ~、今度はそこに行くってわけね。おーい、みのりん! おっさん、集合~!」
セミリアさん説明を聞くなり何故か春乃さんはその表情をワクワクしたものへと変え、遠くにいる残りの二人を呼び戻した。
すぐにみのりがすたすたと小走りで、高瀬さんはいつものように大股でこちらに向かってくる。
「話は終わったのか? これからどうすんだ?」
硬貨やら恐らく兵士の着ていた服に付いていた物であろう記章らしき物やらを手に溜めている高瀬さんが暢気な口調で僕達を見回した。
ドン引きしジト目を向けつつも、みのりを抱き止める春乃さんも面倒臭いやり取りが繰り広げられるだけなのが分かっているためツッコもうともしない。
「決まってるじゃない。王様を助けに行くのよ」
「ほほう、今度こそ王様に恩を売ってローラ姫をゲッツしちゃうぞ作戦ってわけだな?」
「全然違います」
僕が我慢出来なかった。
「何? じゃあどうやってローラ姫をゲッツする作戦なんだ?」
「何もゲッツしない作戦に決まってんでしょ。安物の嫁がいるんだからそれで我慢しなさいよ」
「誰が安物だあぁ! これでもこのルミたんは三万もするんだぞ!」
「高っ! 何その無駄な高価さ! やっぱ次またお金に困ったらそれ売ればいいじゃん」
「売らせるかアホー!」
怒号を響かせる高瀬さんは胸の人形を抱いて春乃さんから遠ざける。
そんな様子にげんなりしながらもセミリアさんに視線をやってみると、相変わらずこの二人が加わると話が進まないことに辟易するのは僕だけではないらしいことが分かった。
それにしても人形一つに三万円……僕の六十時間分の給料とは驚きだ。大事に持ち歩く理由も分からないでもないかといえば全くそんなことはないけど。
そんなことを考えている僕とは違い、同じく呆れ顔をしていたセミリアさんは二人を放置しルルクさんとスレイさんに向き直り話を続けることを選択しちゃった。
「では二人とも、城のことは任せたぞ」
「こちらのことはご心配なさらず。勇者様……どうか国王様をよろしくお願いします」
「……お願い致します」
二人の侍女は揃って頭を下げる。
その様子に一層表情を引き締めるセミリアさんはようやく皆を見渡し力強く告げた。
「ああ、任せておいてくれ。では皆、すぐにルブフラックに向かうとしよう」
「お~!」「よっしゃあ!」「はいっ」
相変わらず返事だけは立派な三人である。
なんて思っていると、
「あ、でもその前にご飯食べていこうよ。もうお腹空いちゃった」
春乃さんがお腹を押さえながら苦笑する。
確かに朝から結構な距離を歩いたし、客室で待っていた時間も長くお腹はペコペコだ。
「それもそうだな。朝から何も食べていないし、町で何か食べていくとしよう」
「それなら用意した料理を食べていってくださいな。これでも勇者様達のために丹精込めて作ったんだから」
セミリアさんの提案に対し、ルルクさんは『ここに料理があるのを忘れちゃいませんか?』とばかりにテーブルを平手で指した。
いち早く反応したのはみのりだ。それはもう嬉しそうな顔で。
「ほえ? いいんですか!?」
「でもこれって毒入りっていう噂が……」
対照的に春乃さんは恐る恐るな目を料理に向ける。
ルルクさんは心外だと言わんばかりのリアクションだ。
「毒入りですって!? 誰がそんなことを、この料理には私達しか触っていないんだから毒なんて入っているわけがないでしょう」
確かに、噂どころか毒云々を最初に言い出した春乃さんにそんなことを言われては堪ったものではないだろう。
とはいえ警戒していたのは僕も似た様なものだが……。
「これだけの料理を用意したのだから食べずに帰ったりしては国民に顔向け出来ませんわよ、まったく」
「しかしルルク、国王様が偽物だったとあれば疑心を抱くのも無理はないでしょう。皆様、私が毒味を致します。それならば安心して食べていただけるかと」
そう言って、止める間もなくスレイさんは近くにあった料理に手を伸ばし、指でつまんで口に入れてしまった。
当然ながら怪しい、危ないという先入観を抱く僕達の側は不用意ではないかと驚き、固まる。
「……え?」
「あ!」
「おい」
「ちょっと!」
「…………」
あまりに急なその行動に唖然とする僕達を他所に、スレイさんは無表情のまま淡々と口に入れた料理を咀嚼し続け、やがて喉に通した。
そしてその細い指先で口元を拭うと平然と顔色一つ変えずに無事を伝える。
「特に問題はないようです」
「お姉さん無茶するわね~。毒味なら別におっさんでよかったのに、おっさんならもし毒が入ってても中和出来るんだから」
「……何で何を中和するんだおい」
「ほら、毒を以て毒を制すって言うじゃない」
「誰が毒持ちだあぁ!」
「まあまあ、結果的に大丈夫だったんだからよかったじゃん。誰よ毒入りとか言ってたの」
「お前だよ!」
「そうだっけ? まあロッカー的概念から言えば気にしたら負けよ。てわけで遠慮なく……いただきまーす!」
「……こんの馬鹿ゴスめ」
高瀬さんの苛立ちもなんのその。
春乃さんは一人で両手を合わせて料理に手を伸ばし始めていた。
「ったく毎度毎度失礼な小娘だ。もぐもぐ……ゴクン、おっうめえなこれ」
「あっ、じゃあわたしもいただきますっ」
文句を言いながらも高瀬さんがそれに続くとみのりまでもが待ってましたとテンションを上げ始め、目を輝かせて遠くの方にあるテーブル目指して走っていってしまった。
……予め目を付けていたなあれは。
変なところでだけは考えなしというか、怖い物知らずなんだから。
思いつつ、セミリアさんにどうしましょうかという意味を込めた目を向けてみる。
「まあよいではないか。料理に問題が無いのなら私達もいただくとしよう」
仕方のない奴等だ、と呆れるやら微笑ましいやらという心情を言外に告げるが如くセミリアさんは微かに肩を竦めてテーブルの方へ移動していった。
とはいえ不安が無いわけでもないので、
「ジャック、大丈夫だよね?」
『ま、大丈夫だろ。ただ殺したいだけなら他にいくらでも方法があったしな』
そんなジャックの言葉を自分を納得させる言い訳に僕も恐る恐る、だがそれをルルクさんやスレイさんに悟られないように料理を口にしてみる。
結果だけを言えば、それはもうどの料理も舌鼓を打つほどに美味しいものだった。
○
食事を済ませ、改めてルルクさんとスレイさんに城を任せて町を後にした僕達はまた暫く草原から荒野へ、荒野から小さな林へと足を進めてほとんど砂漠の様な砂に囲まれた土地に出ると、やっとの思いで例の何とか監獄へと到着した……のだが、
「「うわぁ……」」
地平線まで見通せるほどの広い大地にただ一つ建っているそのおどろおどろしい雰囲気の目的地に僕と春乃さん、そしてその後ろで『ふぇ~……』とか言ってるみのりも合わせて一様に唾を飲んだ。
直方体で、ほとんど石で出来た箱の様ような形をしたその建物は経年による風化でひび割れ、黒っぽく変色し、所々に見られる鉄格子から覗く内部は薄暗くてほとんど見えないというホラーな雰囲気を存分に振り撒く最悪な外見をしている。
テレビで見る心霊スポットの様な、何とも不気味なこの建物に今から入っていくのかと思うとどう前向きに考えてみてもいい予感は微塵もしない。
「思った程でかいものでもないんだな、監獄ってのは」
一人だけ嫌がる様子も躊躇う様子もない高瀬さんは漠然とした感想を漏らしながら建物を見回している。
確かに思ったよりは広い建物でもなければ上に伸びているわけでもないし、エルシーナ町の宿屋とほとんど変わらないぐらいの建物だ。
これならば本物の王様を捜し出すのにそう苦労はしないのではなかろうか。なんて淡い期待を抱いたわけだけど、残念ながらそれはセミリアさんによってあっさりと否定されてしまった。
「この建物は地下へと広がっているのだ。正確な深さや広さは私も知らないが、囚人を収監していたのだからそこそこの規模はあるだろう」
「でも、これってどこから入るんですか?」
いつまでも外から眺めていても仕方がないので乗り気のしないまま頑張って話を進めてみる。
ここに立っている時間が長ければ長い程に中に入りたくなくなる気がした。
「こっちだ、付いてきてくれ」
外壁に沿って歩きだしたかと思うと、セミリアさんはほとんどただの石の壁みたいな外周を角の付近まで辿り、バコォーン! という轟音を立てて入り口を塞ぐために貼り付けられていたベニヤ板らしき物を蹴り倒してしまった。
抜け穴でもあるのかと思っていたのに完全な力業だったことに正直びっくりである。
「よっしゃあ、突撃じゃあー!」
「うるっさいわね、何テンション上げてんのよおっさん」
「ローラ姫は俺のもんじゃあー!」
「……うざっ」
「でもまあ、日が暮れたらますます不気味になりそうなので早く行くに越したことはないですよね」
「そりゃそうだけどさあ……っていうかみのりん大丈夫?」
高瀬さんへの悪態に飽きた春乃さんは一番後方にいたみのりの方へ歩み寄った。
ここに着いてからというもの、終始不安げな顔でおどおどしているみのりは全然大丈夫じゃなさそうだ。
「だ、だ、だ、大丈夫れすっ」
「……みのりは留守番してた方がいいんじゃないの?」
「やだっ、そっちの方が怖いもん」
みのりはやはり僕にだけ声を大きくして抗議する。
雰囲気や空気感に恐怖するという感覚を理解出来ないらしいジャックが呆れた声を漏らした。
『そもそも何に対して怖がってんだ、ちっこい嬢ちゃんは』
「みのりはお化け屋敷とか苦手なんだよ」
『お化け屋敷? なんでいそりゃ?』
「要するに怖い感じのするもの全般が嫌いってことかな。ジャックも含めて」
『失礼な話だなオイ』
「しかしコウヘイの言う通り、あまり精神的な負担が大きいようであればミノリは残ってもよいのだぞ? いい加減危険度も上がってくるのは目に見えているのだ、無理をしてその身に何かあっては元も子もない」
冗談めかして言うジャックとは違い真剣に心配しているセミリアさんだったが、みのりは強がった表情のまま胸の前で拳を握る。
こういう謎の頑固さを発揮する時はたぶん説得とか意味ないんだよなぁ。
「だ、大丈夫ですっ。セミリアさんと一緒に行くって決めた時から危なくても頑張るって決めたんですっ。皆が我慢してるのに一人だけ怖がっていられませんからっ」
「いやあ……やっぱ止めといた方がいいんじゃないの」
そもそも他の人達は別に入ることに対する恐怖を我慢してるってわけでもないし。
「大丈夫ったら大丈夫なのっ、康ちゃんしつこいよっ」
「……だからどうして僕にだけ強気なのさ」
「本人がこう言っているのだ、無理に置いていくこともないだろう。ミノリに限らず今まで通り身の安全を第一に行動していれば大事には至るまい。今回ばかりはあまり悠長にしている時間はない、他に問題がなければ中に入るぞ」
「よっしゃあ! 待ってろよ眠れる財宝の山たちよ!」
「……最初と目的変わってません?」
蹴り倒した板を踏み越えて中へ入っていくセミリアさんとそれに続く三人の後ろで呟いたそんな言葉は誰にも届いていない。
ともあれ、今は王様の救出を第一に考えねば。
「……はぁ」
そう切り替えて、僕は一つ溜め息を吐き毎度のことながらやろうとしていることの大きさや待ち受けているかもしれない危険とは別に色々な不安を抱えながら四つの背中を追うのだった。
○
こうして僕達はまだ会ったこともない王様を救うべく、かつて監獄として使われていたという荒れ果てた建物に進入した。
雑草だらけの敷地内を進み扉も無くなっている入り口から建物の中に入ると、そこは何が置いているわけでもない広めの空間が広がっている。
監獄という施設においてどういった意味合いがあるのかは分からないが、所謂ロビーのようなものだったのだろうか。
そしてそこを抜けると一本の通路があり、先に進む道らしきものが他に無かったこともあって迷うことなくその通路へと進んでいく。
中に入った時点で感じたことだが、その外観と同じく内部も薄気味の悪い雰囲気に変わりはなく、盗賊の洞窟と同じ様に低い天井にはいくつも発光石が並んでいるものの光を放っているのは三つか四つに一つぐらいの割合でこの通路に限らず薄暗く不気味な空間が前にも後ろにも広がっていた。
そして単に建物の構造上のことなのか、その雰囲気がそう感じさせるのかは分からないが、やけに空気が冷たくなったことを確かに感じながら僕は縦一列になって通路を進む最後尾を歩く。
みのりを除く他の三人が特にそんなことを感じてない様子なのを見ると、もしかして僕も心の奥では怖がっているのだろうかとか、ここに来てから何度も春乃さんに言われる様に考えすぎなのだろうかとか、そんなどちらにせよ僕にとってはあまり芳しくない心持ちにさせられている気がしてならない。
何故か先頭を歩いている高瀬さんはどこぞのオレンジ色のガキ大将よろしく無駄に堂々と……というかむしろどこか威張っているかの様に大股でずんずんと進んでいっているし、その後ろにいるセミリアさんは絶えず視線を泳がせ周囲を警戒しているばかりで怖さなど感じているはずもない。
さらにその後ろを歩く春乃さんもキョロキョロと辺りを見回しながら歩いているがこっちはただの興味本位だろう。
そんな春乃さんの後ろ、つまりは僕の前を歩くみのりに至っては前にいる二人とはまた違った意味で右を向いたり左を向いたり上を見上げたり不意に振り返ったりともはや恐怖と不安によって挙動不審状態だ。
頼もしいやら不憫だわな四人の姿にあらゆる意味で一層不安になりながらも一本道の通路を左右に一度ずつ曲がった末にようやく辿り着いたのは突き当たりから左右に分かれる分岐点。
「これはどっちに行くんだ勇者たん」
一度左右を見渡しながら高瀬さんが問い掛けるが、いつかと同じ様にセミリアさんは困った顔を浮かべる。
あれ? またデジャブ?
「ここが使われていたのは私が生まれる前のことだ、済まないが正確な道筋は分からない」
「つまりはまた俺の野生の勘の出番ってわけ……」
「じゃあまた手当たり次第に徘徊するしかないってわけね」
雑音を遮った春乃さんは若干億劫そうに腕を組み、同じく左右を見渡した。
まあ、そうするしかないよな。
なんて思っていた矢先に意外な所から反対意見が上がる。
「いや、ここに入る前にも言ったがリュドヴィック王の身が危険に晒されている以上時間を掛けて探索している余裕はない。お主等にとっては少々リスクが大きいかもしれんがここは二手に分かれようと思う」
僕達を見渡す真剣味と覚悟や決意の宿る眼差しに思わず言葉を失ってしまう。
代わりにというわけではないだろうが、我先にと春乃さんが反応した。
「じゃあおっさんとそれ以外チームに分かれるってことで」
「だからそれ編成おかしいだろ! やっぱ俺捨て駒扱い!?」
「違うわよ、すいもんのカギを盗んで牢屋に入れられる要員よ。監獄だけに」
「誰が脱獄しようとして壁にめり込んでんだ! 第一同じ盗賊なら別にカンダタでいいだろそこは!」
「心配しなくても壁に埋まったら抜き取って石版として再利用してあげるわよ」
「あげるわよ、じゃねえよ! どんな暴挙だよそれ! 腐った死体にザオリクをかけることぐらい理屈的に無茶苦茶だよそれ!」
春乃さんに指を突き付けて声を荒げる高瀬さんの魂の叫びが狭い通路に虚しく響き渡った。
一体何の話をしているんだこの人達は……。
「こら、今は言い争いをしている場合じゃないだろう。編成は私一人とそれ以外でよい」
「「「……え?」」」
二人の口論に割って入ると同時にとんでもないことを言い出したセミリアさんに驚き、目を見開いたのはほぼ同時だった。
すぐに春乃さんが待ったを掛ける。
「ちょっとセミリア、あんたが捨て駒になってどうすんのよ。そんなのおっさんにやらせとけばいいのよ」
「ハルノ、落ち着いてくれ。別に私は捨て駒になろうというわけではない、戦力値のバランスを考えるとこれがベストだと判断したまでだ。私と誰かがペアになれば戦闘経験の少ないもう一方の三人はどうしても危険度が増してしまう」
「でも、それじゃあセミリアさんが危険なのでは?」
「案ずるなコウヘイ。自慢ではないが私は魔王以外に負けたことはない、私の心配は不要だ。だからお主等は自分達の無事と安全を第一に考えてくれ。今まで言ってきた通り、危険だと感じれば逃げてでも安全を確保して欲しい。お主等が無事でいるのは私にとっては国や国王と同じぐらい大切なことだ。コウヘイ、ジャック、皆のことを頼んだぞ」
セミリアさんは皆に向けた言葉の最後に僕の肩に手を置き、微かに笑みを浮かべた。
その表情から僕を信頼してくれているのだということが感じられたし、その表情は不思議と僕を信頼に応えなければという気持ちにさせる。
素人目にみてあれだけ強いセミリアさんがこれだけ口酸っぱく言うのだ。それだけの危険がある、ということなのだろう。
やむを得ない状況とはいえそんな中でセミリアさんは僕に仲間の身を託した。
元より世界や国という規模の大きな事よりも皆が無事でいられるためにはどうするべきかばかりを考えてきた僕だけど、そんな大雑把な考えではなく皆の安全の為に何が出来るか、何をすべきかという段階から死に物狂いにならなければいけない。
今までみたく一歩引いて冷静に分析などしている時ではないのだと、そう強く心に決めセミリアさんの目を見たまま僕はその意志を口にした。
「大丈夫です、絶対に無事に帰ってこられるようにします」
『ま、俺が着いてるから大船に乗った気でいりゃいいぜ』
ジャックが僕に続くとセミリアさんは満足げな表情で肩に置いた手を離し、ゆっくりと背を向ける。
「では私はこちらに進むとしよう。ハルノ、カンタダ、ミノリ、あまり無茶をせんようにな。コウヘイを信頼していればきっと大丈夫だ、後で必ず無事に合流しよう」
そして最後にもう一度全員に微笑みかけ、向かって左側の道を進んで行った。
全員でその後ろ姿を見送ったのち、気を取り直すようにパチンと手を合わせたのは春乃さんだった。
「さ、あたし達も行きましょ。頼りにしてるからね、康平っち」
「何とか頑張ってみます。みのりも、大丈夫?」
「う、うん。頑張るっ」
「じゃあ行きましょうか。取り敢えず出来る限り危ないことは避ける方向で」
あんまり大丈夫じゃなさそうなみのりだったが、そこに言及しても仕方がないのでひとまずセミリアさんとは逆方向へと足を進めることに。
何故か高瀬さんが先頭のままで。
「ちょっと、なんでおっさんが先導するのよ。今は康平っちがリーダーでしょ」
僕は別に順番に拘りもないのでどうでもいいんだけど、案の定そうではないらしい春乃さんがすかさず指摘する。
対する高瀬さんは小馬鹿にした様に鼻で笑った。
「無知な奴め、仲間が増えてくりゃ守備力やHPが高い奴を先頭に置いて主人公が二番目、三番目になることなんざ常識なんだよ」
「あんたが守備力高いとでも言うわけ? どうみても守備力20ぐらいじゃない」
「うるせい、どちらにせよ武器を持っていない康平たんに先頭を歩かせるよりいくらか安全だろ。まったく、そんなことも分からんのか。相変わらずかしこさ3だなお前は」
「どういう意味よそれ!」
「ちょっと二人とも、喧嘩もやめてくださいってば」
『……おめえら状況分かってんのか?』
僕に続いて呆れた声を漏らすジャック。
どちらに反応したのか春乃さんはジト目で僕を見る。
「康平っちはどう思うのよ」
「まあ高瀬さんの言うことも一理ありますし、僕は順番は特に気にしないので何か問題が起きない限りはあまり気にしなくてもいいかと」
「むう……康平っちがそう言うならいいけどさ」
「とにかく今は軽はずみな行動とか喧嘩とかは極力しないのが最優先ということで」
「ほんっと協調性の塊みたいな性格よね、康平っちは。ま、それでいいならさくさく進みましょ。しっかり壁になりなさいよね、おっさん」
セミリアさんの言葉が効いているのか珍しくムキになることもなく春乃さんは高瀬さんの後ろを歩いていく。
ようやくこの場が収まり、探索を再開するべく僕とみのりもそれに続いた。
何があるわけでもない一本の通路をしばらく歩き、僕達が再び立ち止まったのは下へと降る階段を見つけるのと同時だった。
薄暗さのせいというのもあるだろうが、袋小路の隅にある幅の狭い石段が上から覗き込むだけでは下の階が見えない程度には伸びている。
「こりゃ降りていくしかなさそうだな」
「そうですね、他に道もなさそうですし。みのり、一応聞いておくけど今回は何か見つけたりしなかった?」
「うん、多分大丈夫」
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「よし、じゃあ行くとするか」
「だ~から何であんたが仕切んのよ」
「はぁ……」
いつまで経っても噛み合わず、チームワークが生まれる兆しのない一行にどうしても不安が付き纏う。
それでも僕がどうにかしなければと、人知れない決意を胸に先に降りていく高瀬さんや春乃さんの後にみのりを先に行かせ、最後尾で階段を降りていくのだった。
『相棒、こればっかりはおめえのせいじゃねえさ』
「……だから頭を痛めてるんじゃないか」
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仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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