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【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている】
【第十一章】 拭えぬ違和感
しおりを挟むそれから僕達は侍女さんに案内されるままに場所を移し、客室へと通された。
先程まで居た玉座の間の半分にもなろうかという大きな部屋には高価そうな椅子やテーブル、ソファーに加えて壺やら絵やらが至るところに飾られている。
そんな、いつもならまた二人がはしゃぎ回りそうな身に余る待遇だったが、侍女さんが部屋を後にしてからもしばらく室内には沈黙だけが続いていた。
広い部屋であるにも関わらず全員がその中心でテーブルを囲む長いソファーに腰を下ろし、何をするでもなく視線を泳がせたり、ただ天井を見上げたりしている。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
どうにも声を上げづらい空気の中で、セミリアさんを始め春乃さんや高瀬さんも何やら納得がいかない様な、腑に落ちないといった様な顔で何かを考え込んでいる時間がどれぐらい過ぎただろうか。
特にセミリアさんは何度も『私達はこんなことをしている場合なのだろうか……』と口にしていたし、春乃さんと高瀬さんも何を考えているのかは不明なれど『うーん』とか『なんだかなあ……』と、何度も首を傾げている。
みのりはみんなに釣られて黙っているだけなのだろうが、考え事があるのは僕とて同じ。
先の出来事に酷く違和感を覚えたのだ。
そのいくつかの違和感を振り返ってみるとここに居ることはあまりよろしくない気がするのだが、はっきりとした確証もない状態で、この世界のことなど何も知らない僕が違和感などという曖昧な理屈で皆に不安を植え付けるようなことをしていいものだろうかと考えてしまうのも事実。
「ふう……いつまでも考えていても仕方がないな。せっかくのリュドヴィック王の御厚意だ、ありがたく受け入れるとしよう。お主等もこの国の文化に触れるいい機会ではないか」
どうしたものかと悩みや疑問を連鎖させていると、セミリアさんがパンと手を合わせて沈黙を破る。
僕達を元気づけようと無理をしているのか微妙に相好を崩し、やや強引な明るい口調で言うをセミリアさんを見るに、どうやら僕達が自分と同じ理由でだんまりしていると思っているらしい。
やはり言うだけ言ってみたほうがいいのだろうか。などと考えていると、意外にもその話題に持ち込んだのは春乃さんだった。
「それなんだけどさあ……なんか怪しくない?」
春乃さんは短いスカートで露わになっている足を組み、正面に座る僕としてはなんとも際どいアングルを残しながら訝しげに唇を尖らせる。
「俺もそう思うぜ。なんかキナ臭せえよあの王様」
高瀬さんがそれに同調すると、セミリアさんは言葉の意味が分かっていないのか二人の顔を交互に見た。
「怪しいとはどういう意味だ二人とも。リュドヴィック王が何か良からぬ企みをしているとでも?」
「うーん、説明しろって言われると難しいんだけど……なんていうか、とにかく胡散臭いのよ」
「説明出来ねえのかよ。やっぱりアホ女は当てにならんな」
「誰がアホ女よ! じゃあおっさんは説明できんの?」
「そりゃあれだろ。とにかくキナ臭いと俺の本能が告げているんだからそういうことなんだよ」
「何それ、全然説明になってないじゃない。これだからオタクは」
「オタクは関係ねえだろ!」
「じゃあなに? 引き籠もり? ニート? それとも……」
「春乃さん、話が逸れていくので落ち着いて下さい。高瀬さんも」
「じゃあ康平っちが説明してよ」
「そうだそうだ。康平たんが悪い」
「いやいや……絶対僕は悪くないでしょう」
どんな会話からでも喧嘩に持ち込める二人がおかしいのであって。
「コウヘイ、お主も何か気に掛かることがあるのか?」
「そうですね、今回ばかりは僕も二人に同感です」
『その気になることってのは一体なんなんだ?』
「コウヘイ、私も説明して欲しいと思う」
ジャックに続いたセミリアさんが表情を曇らせるのと同時にみのりを含めた全員が一斉に僕を見た。
といっても、言葉にして説明するのが難しいと思うのは僕も同じなのだけど。
「お二人が何に対して引っ掛かりを覚えたのかは分からないですけど、僕にもいくつかおかしいと思う点がありました。ほんとに違和感という程度のことなんですけど」
「違和感?」
「まず一つめにあの国王の態度です。関所で聞いた話と随分違っているように感じました。傷心の中無理をして明るく振る舞っている、という感じでもありませんでしたし、そんな人が笑顔で宴を開こうだなんて言いますかね?」
「それは……リュドヴィック王なりに気を遣って我らに悟られまいとしている、と考える方が自然ではないか? それを理由に不信感を抱くのは理屈に合っていないぞ、いくら見知らぬ地だからといって誰これ構わず勘繰るのはお主等の悪い癖だ」
僕達には王制の在り方なんて分からないけど、あの時の姿や態度を見れば国王というのがどういう存在なのかは薄々ながら理解している。
相手は一国の主で、玉座の間でのやり取りからしても双方が共に相手を敬い、少なからず尊敬の念を抱いて接していることも察した。
そんな国王の陰口を言っているみたいになってしまっているのだからテーブルに両手を付いて立ち上がり語気を強めてしまうのも無理はない。
『落ち着けクルイード。たしかにお前さんの言うことももっともだが、見知らぬ地から来たこいつ等だからこそ気付くこともあるだろう。こいつ等は何もお前さんを疑ってるわけじゃねえんだ、仲間の意見に耳を貸せないようじゃパーティーを率いる資格はねえぜ?』
「む……しかしだなジャック」
「僕もセミリアさんの言うことは勿論理解しています。そもそも僕達は王様の人となりを知っているわけでもないですしね。だからあくまで違和感という言い方しか出来ないんですよ」
「だがよ、その違和感の真偽はさておいてもこのタイミングで宴ってのが意味不明すぎるぞ勇者たん」
珍しく腕を組み、難しい表情を維持している高瀬さんが横から助け舟をだしてくれた。
すぐに春乃さんも思い出した様に続く。
「それも結構強引な感じだったしねー。なんか断られたら困る、みたいなさ」
「言いたいことは分からぬでもないが、それは身を賭している私達を思ってだな……」
やはり受け入れがたいものがあるのか、到底納得が出来ていない感じのセミリアさんの言葉を僕は敢えて遮った。
実際問題、今上げた違和感など微々たるものなのだ。
「それから二つ目なんですが、僕達に協力を申し出てましたよね? 城の兵士を連れて行けって。これも春乃さんの言うように強引に勧めてきました、何十人でもと。これも相当不自然です、自衛が精一杯と言っていたはずの状態でそんなことを言いますかね、普通」
「そ、それは……」
セミリアさんは立ち上がった格好のまま言葉に詰まってしまった。
こればかりは例え憶測であっても聞こえのいい理屈など出てこないのだろう。
『それに関しちゃ立場上の都合ってもんが関係してるのかも知れねえな』
「立場上の都合? それはどういう意味だジャック」
『考えてもみろ。仮にお前達が魔王を倒せたとして、その後のことをな。『何もしない国王の代わりに勇者が魔王を倒しました』ってのと『勇者と国の兵士が力を合わせて魔王を倒しました』ってんじゃ国民の捉え方に天と地ぐれえの差があらぁな』
「でもそれって結局保身のためってことでしょ? そんな都合どっちにしたって褒められる様なもんでもあたし達のことを思ってのことでもないじゃない」
『ま、そりゃ違えねえ』
どこか冗談めかしたジャックの言葉に毒気を抜かれたのか、セミリアさんは一つ息を吐いてようやく腰を下ろした。
それでも納得は得られていないみたいだけど。
「よいか皆、確かにお主等の言う様におかしな部分もあったかもしれん。だが私にはあのリュドヴィック王が良からぬことを企んでいるとは思えない。いつもこの国に生きる人々のことを第一に考えてきたお方なのを私は知っている」
「そりゃさ、セミリアの気持ちも分かるけど可能性はゼロじゃないんじゃない? 今の話を総合するとさ。あたし毒入り料理なんて食べたくないわよ」
「馬鹿な、そんなことあるわけがないだろう。リュドヴィック王に限って……」
「その王様自体が偽物だったってパターンもあるんじゃね? RPGとしちゃベタ中のベタだけどな」
高瀬さんのなるほどなご指摘にもセミリアさんは呆れた様子で溜め息と吐くと同時に首を振る。
こうなってくると大勢で一人を責めているみたいで罪悪感が沸いてくるな……。
「確かにお主等の懸念も可能性がないわけではないし、不自然な点があったことも理解した。だがあくまで可能性としてだ。何か明確な根拠があるわけではなかろう」
「ま、その辺は勘よね」
「勘だな」
「話にならん。コウヘイはどうなのだ、あのリュドヴィック王が偽物だとか企みをしてると言い切れるのか」
「言い切れはしないですけど、このまま宴に参加するのはあまり良い考えだとはやっぱり思えませんね。よくよく考えてみるとあのサミュエルさんが宴を楽しんでいたっていうのが一番違和感がありますし」
「それは確かにそうだが……結局は堂々巡りではないか。どちらにせよ確証もなしに下手な行動はとれまい」
「それはまあ、仰る通りですけど」
確かにその通り、はっきりとした確証がなければ対処のしようがないのも事実だ。
ただ怪しいからという理由ですっぽかして逃げるわけにもいかない。
そんなことをして推測が外れていた時にはきっと大問題になるだろう。
だからといって宴に参加し、念のために十分に気を付けましょうと結論付けたところで何をどう気を付ければいいのかが不透明過ぎる。
「あの~、だったら確かめてみたらいいんじゃないですか?」
不意に、終始ぼーっと話を聞いていたみのりが初めて言葉を発した。
何か革命的なアイディアでも思い付いたのかと皆が視線を集めるが、侮ってはいけない。きっと何も考えずに発言したに決まっている。
「みのりん、確かめるってどうやって?」
「聞いてみたらいいんですよ、あなたは本物ですか? って」
案の定、みのりは真顔でとんでもないことを言い始めた。
すかさずジャックが正論をぶつける。
『んなことしたら仮にあれが偽物であったとしてもただじゃすまねえぞ』
「ほえ? なんでですか?」
『まず第一に奴がニセモンだったとして、そんな間抜けな質問でそれを認めるわけがねえ。そうすると残るのは一国の王に暴言を吐いたてめえ等ってわけだ。下手すりゃ獄門、打ち首までいっても文句は言えねえだろうよ。ホンモノの王ならクルイードがいる手前大したことにはならねえだろうが、珍獣の言うようにニセモンだったらそうなるのを止めることはねえだろう、自分の存在に気付いた輩を放置する理由がねえからな』
「おー、なるほどです」
「ガイコツ、あんた中々頭いいじゃん」
「というか誰が珍獣だコラ。お前にだけは言われる筋合いがないぞおい」
『……ちっと考えりゃあ分かるだろうよ、このぐれえ』
褒められたり貶されたりのジャックは呆れ顔ならぬ呆れ声だ。
「でも、だったらどうするかが問題ですね。偽物と決めつけるのはよくないですけど、これだけ不安要素があって偽物じゃないと決めるのはもっとよくないでしょう」
「もうさぁ、いっそ先に仕掛けたらいいんじゃない?」
「仕掛ける、とは?」
「手っ取り早く一回やっつけちゃえばいいのよ。その後じっくり調べたらいいじゃん」
「小娘、お前……頭いいな」
「ふふん、現役大学生舐めんじゃないわよ」
こっちはこっちでまさに革命的なアイデアだ、と言わんばかりに目を見開いた高瀬さんと得意気に答える春乃さんだった。
そんな本気なのかふざけているのかわからない二人にセミリアさんは呆れた様な、憤慨するの抑えているかの様な、何とも言えない表情だ。
「ふふん、ではないぞハルノ。そんなことが許されると思っているのか、これではどちらが悪か分からんではないか」
それはごもっともである。
「じゃあどうすんのよ、ここまできて何もしないわけにもいかないっしょ?」
「せめて遠回しに問答で探るだとか、決定的な確証を得るまで様子を見るだとか、もう少しどちらに転んでも事を荒立てない方法があるだろう」
「じゃあその二つの中で多数決で決めようよ。あたし探るに一票」
「俺も探りを入れるに二票だな」
「なんであんた二票持ってんのよ」
「ルミたんも俺と同じ意見だってんだから仕方ないだろう」
「……何がどう仕方ないわけ? だったらあたしも三票入れるから! ギターはあたしの魂だからギターの分で」
「待ておい。よしんばその楽器に投票権があったとして残り一票どっから湧いたんだよ」
「それはあれよ、ステージに立った時のあたしは人が変わるってよく言われるからなんかそんな感じよ」
「そんな感じよ、じゃねえよ。なんで若干投げやりに押し通そうとしてんだ」
「すいません、キリがないので一人一票でお願いします」
放っておくとまた喧嘩が始まりそうなのでもう先んじて割って入るが吉である。
そもそも同じ方に投票しているのに票の数で揉める意味が全く分からないし……。
「じゃ、あたしとおっさんはそれでいいとして、三人はどうなの?」
そもそも多数決というのもどうかと思うが、春乃さん的には決定事項らしく僕達を順に見ていく。
するとみのりが顎に指を当て、少し考えた素振りを見せたかと思うと、
「わたしには王様が悪い人そうには思えませんでした。だけど皆さんの仰ることも分かるので両方に一票ずつにしておきます」
「話聞いてた!? 一人一票だってば」
「まあいいじゃないか康平たん。どちらでも無いってことなんだろう、無理にどちらかを選ばせても意味がない」
「そーね、みのりんはそれでいいとしてあとは?」
「僕も様子を見るのはさすがに悠長な選択な気がするのでどうにかするべきだとは思います」
「コウヘイがそうであれば私の意見は意味を成さぬだろう。それが皆の意見だというなら私も従うが、一つ条件がある。その探りを入れる問答は全てコウヘイに任せたい」
「僕……ですか?」
「さすがに先程までの言動を見るとハルノやカンタダに任せるのは一抹の不安が残る。私とてこの国に生きる民なのだ、王の反感を買っておいそれと勇者など名乗れはしないだろう。その点コウヘイならば冷静で頭も働く、独断で悪いがそれが最大限の譲歩だ」
セミリアさんが言うと、面食らっている僕を他所に皆があっさりと同意した。
いや本当に、何故僕なのか。
「ま、いいんじゃないの。元々康平っちはそういうポジションだったんだし」
「たまには康平たんもいいとこ見せないとな」
「頑張ってね康ちゃんっ」
一人の余計なお世話も含めて他人事のような三人だった。
だけどまあ、誰かがやらなければならないのだろうし、セミリアさんの言う通りこの人達に任せるのは不安過ぎる。
何より余計なお世話と言いつつも僕はこの世界に来てからというもの特に役に立った記憶は確かに無い。
「わかりました、やれるだけはやってみます。本当に出来る範囲で、ですけど。ジャックもそれでいい?」
『くぅ~……おめえだけだぜ、俺を人として扱ってくれるのはよ。さすがは相棒だぜまったく。俺も知恵を貸してやるからなんとかやってみせろ相棒』
何気なく聞いたつもりがなぜかジャックは感動しているらしい。
別に人として扱った覚えはないんだけどね。
ただ高瀬さんのアレと違って意志も感情もあるから一応確認しただけで。
「よし、ではそういうことで決まりだな。もう一度言うがこれだけは約束してくれ、あくまで問答で、それも失礼の無いようにだ。くれぐれも手荒な真似はしないようにな」
「わーかってるって。心配性なんだからセミリアは」
「俺だってものの分別ぐらい出来るってんだ。あ! ていうかあいつが偽物だったらローラ姫の約束が無かったことになるじゃねえか!」
「元から無いでしょう、そんな約束は」
僕が冷静にツッコむとセミリアさんはまた大きく溜め息を吐き、やれやれといった感じで首を振った。
まあ心中お察しするというか……気苦労が多くて大変に思う気持ちはよく分かる。
ともあれそんなことを言っている場合でもないので。
「はあ、何だかおかしなことになっちゃったなあ……」
王様の正体を暴くべく探りを入れる。
なんてよくよく考えてみれば無茶な役目を引き受けてしまった僕は少しゆっくりと考え、色々と頭を整理しなければとお手洗いを借りるついでに一人で客室を出た。
その帰りの長く広い廊下の途中、皆の前では控えていた溜め息が思わず漏れる。
『だが相棒以外に適任者もいねえだろう。クルイードは純粋過ぎる、ちっこい嬢ちゃんは色々と抜けてる、金色と珍獣は脳ミソがねえ』
今この場所には僕とその首に掛かっているジャックしかいない。
当然僕の愚痴に反応するのもジャックしかいない。
「脳みそがないって……そんなこと聞かれたらまた喧嘩になるよ? でも、探りを入れるっていってもなにを聞けばいいんだろう」
『簡単な話だ。ホンモノにしか分かり得ないことを答えさせるか、ニセモンにしか導き出せない答えに誘導するか、そのどっちかでいい』
「いやいや、口で言うのは簡単だけど実行するのは全然簡単じゃないよそれ」
『そりゃそうだ、簡単に出来りゃ俺達以外の誰かがとっくに気付いてんだろうよ。もっとも、既に気付いた奴がいたが消されてるだけって可能性も十分考えられるがな』
「怖いこと言わないでよ……余計不安になるよ」
『元々しくじったら先はねえんだ、色んな可能性を頭に入れとくこったな。頭で仲間を護るのが相棒の役目だろう』
「そりゃ役割的にはそうかもしれないけどさ、そもそも参謀なんて役割があること自体初めて知ったよ僕は」
高瀬さんじゃないがロールプレイングゲームにおいてそんな役職なんて聞いたこともない。
所詮戦闘能力のない人間の仲間なんてのは早々に外されるのが常だ。
『参謀と定義するかは人によるだろうが、パーティーってもんは人一倍頭が働く奴がいねえと生き残れねえのは間違いねえ。悪い言い方をすりゃ敵の汚ねえ罠や策を上回るぐらいズル賢い奴がな』
「ずる賢い……ねえ」
性格がひねくれてるとは友達に言われたことはあるけど、それはまた別なのだろうか。
『ま、感情的にならず常に物事を客観的に見る癖をつけるんだな。お、丁度いいところに人がいるぞ相棒』
「人?」
『そこの角を左に曲がったところにある小部屋に二人……声からしてこりゃ女だな、この城の侍女だろう。せっかくだから情報収集でもしていこうじゃねえか』
「……なんでそんなことが分かるの?」
『なげえことこんな超魔力物質に入ってるせいで色んな特技が身に付いちまったみてえでな。魂も肉体も封じ込められるなんて最初は不安もあったが、悪いことばかりじゃなかったってことだな。はっはっは』
「……本気で言ってるの、それ」
なんとも豪放磊落なジャックに僕は若干引き気味に呆れてしまう。
そしてジャックの言った廊下の突き当たりを左に曲がるとすぐに話し声が聞こえてきた。
今言った通り、女性が話しているようだ。
『静かに近付いていけよ』
声を潜めるジャックに従い、盗み聞きなんていい気のしない行為に罪悪感を感じながら静かにその部屋へと忍び寄っていく。
壁に貼り付く様にして扉が開いたままのその部屋の手前まで来ると、女性達の会話ははっきりと聞き取れるぐらいにはなっていた。
「まったく、国王様は何を考えておられるのかしら。二日も続けて宴を開くだなんて」
「仕方がないでしょう、ルルク。まさか続け様に勇者様が訪問なさるなんて思わないもの」
「でもスレイ、今までは勇者様が来たからといって宴を開いたことはなかったわ。この町の深刻な食糧難を理解しておられないはずがないのに」
「それだけ切羽詰まっているということなのでしょう。元々食糧難の原因は魔物が跋扈するせいで町の外から食料を届けさせることが出来ないのが原因ですし、少しでも早く勇者様に魔を滅ぼして頂きたいのよ」
「それにしたって国王様らしくないと思うわ。少し前まではご自分の食事を減らしてでもという態度であられたのに」
……何やら出くわしてはいけないところに来てしまったのでは?
と、あまりに生々しい話の内容に少したじろいでいると、また胸元で小さな声が悪魔の囁きを届けてくる。
『どうやらいいタイミングだったみてぇだな』
「……いいタイミングかなあ」
『この女達も王の変化に気付いてるって感じじゃねえか。丁度良い、こいつ等に色々聞き出していけ。ああそれからな、一ついいことを教えてやるぜ相棒』
「……え?」
応援ありがとうございます!
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