王女が攫われた報復に魔王の娘を攫ってきたら国外追放を言い渡されたので新世界の神になる

まる

文字の大きさ
上 下
13 / 17

【第十二話】 日々前進

しおりを挟む


「手間を掛けるが、よろしく頼む」
 ネリスを見送ったのち、ロイスは辺境伯の書斎を訪れていた。
 王都に暮らす三人の妹へ宛てた無事を知らせる手紙を届けてもらうためだ。
 国外追放を言い渡されてからほとんど一日が過ぎた。
 妹達の人生を考え、猛反発を跳ね除けててまで日頃の関りを断っている歪な関係がそこにはある。
 定期的に住まいを訪ねて夕食を共にし一晩を過ごすことはあるが、人前で言葉を交わすことは一切と言っていい程にない。
 ロイスは半分兄として、半分は父として残った最後の家族を養ってきた。
 偏に妹達の幸せを願い、そのために若き時分の全てを費やしてきたことを知っているからこそ、妹達にとっても掛け替えのない存在であり確かな絆がそこにはあるのだった。
 ゆえに追放の憂き目に遭ったことを知れば黙ってはいないだろうと先んじて手を打ったつもりではあったが、一日という時間がどう話を拗らせるかという不安がどうにも心を離れなかった。
「そう心配することはない。急ぎで遅らせている、今日のうちには王都に届く」
 執事に受け取った手紙を預けると、憂いの表情を察したクロフォード辺境伯は微笑みを称えてその肩に手を置いた。
 馬で駆ければ王都までは半日も掛からない距離だ。
 国王にとって勇者パーティーの一員を追放したなどという事実を敢えて公表する利点は全くと言っていい程に無く、かといって箝口令を敷くまでのこともない。
 仮にどこかから噂を聞き付けたとしても、それが事実であると確認するには多少の時間を要するであろうことはロイスも分かってはいるが、妙なところで頑固な妹の姿を思い起こすとどうにも安心する気にはなれなかった。
「気を遣わせたか。どうにも有ること無いこと考えちまうのが癖になっているもんでな」
「気にすることはない。その慎重さ、聡明さが君なりの生き延びる方法でありなのだろうさ。ありとあらゆる要素を考慮した計画性や相手を見透かすような心理戦の強さで君を超える者を私は知らないからね」
「お褒めに預かり光栄の至り、だ。仕事の邪魔して悪かったな、これはありがたく借りていく」
「ああ、書庫の本ならば好きにしてくれて構わないよ」
「重ねて感謝する」
 最後に一言言い残し、ロイスは書斎を後にする。
 そして部屋に戻るとすぐにローテーブルに地図と本を広げ、知識の吸収と今後の計画の立案に没頭し始めた。
 のだが、それを妨害せんとばかりにベッドの上で喚いている少女が一人。
「ね~、暇~! 何かやることないの~? ねぇロイス~」
「うるせえ。やることならあるだろ、俺の邪魔をしないように黙ってることだ」
「それ何もしてないのと一緒じゃん!!」
「どうしろってんだ」
「せっかくネリスとロイスが色々やってくれてるのにあたしだけ何もしてないのがヤなの! せめて何かやってる気分になりたいの~」
「んだよ気分って……人んちに上がり込んで何から何まで世話になってる状態でやれることなんてねぇっつーの。ここを出たら嫌でも忙しくなるだろうし、その時が来たら頑張ってもらうさ」
「ならせめて話し相手ぐらいしてよ」
「……お前の言い出したことを実現させるために必死こいて脳みそ働かせてんだぞこっちは」
「それは分かるけど~、だからこそあたしもそのために何かしたいっていうかさぁ」
「はあ……なら事前準備のために俺が知識を得るための協力をさせてやる」
「え~、それって何したらいいの?」
「後々合流するっていうお前の仲間の話を聞かせてくれ。カラ? だっけ?」
「あ~、そゆこと。カラは人狼の女の子で、元々はママの部下だったんだけど……ママがいなくなってからは何故かずっとあたしの傍に居るようになったのよね」
「ネリスみたいに娘のお前に仕えることにしたってことか?」
「たぶん、だけどね。昔からあたしには懐いてたけど、そうなってからはどういうわけか一言も喋らないのよねぇ。いつも部屋の隅っこであたしを見てるだけでさ」
「変わった奴なのか? まあ、ネリスの様子を見てもお前の母ちゃんが好かれてたってことは分かるし、そのせいなのかもしれんが……」
「ママが死んじゃったショックでそうなったってこと?」
「単なる憶測の一つだよ。しかし、今更ながらそいつらは人間の俺を受け入れてくれるのか?」
「ん~、むしろカラには好かれるんじゃない?」
「なんで?」
「魔族領の大半を支配してるパパの国はさ、基本的には実力至上主義なんだけど勢力や派閥がある以上はどうしたって男社会になるのよ。本当は人懐っこい子なのに、誰にも相手にされずにいつも寂しそうにしてた。ただでさえ獣人ってだけで見下されてただけにね」
「ほう、それがなんで俺が好かれることになるんだ?」
「こうしてあたしと同じ部屋で過ごしているみたいに、あんま偏見とかなさそうじゃん?」
「一緒に過ごしているのはお互い他に仲間が居ないからだろうに。魔族の中での序列とかも知らんからどうでもいいし」
「ならその考え方のまま接してやって。きっと仲良くなれるから」
「それは構わんが、この状況で呼んでこられるのが懐いてくれるだけのペットってのが虚しい現実だな」
「言っとくけど、四人居たママの側近の一人だから戦っても普通に強いんだからね?」
「それを先に言え! 戦力として扱えるのとそうでないのとでは活動範囲が変わってくるんだぞ」
「え? 言ってなかったっけ?」
「完全に初耳だよ。こっちはペット一匹増えるぐらいにしか考えてなかったっつーの」
「ごめんごめん。ここを出る前に知っておけてよかったと思って勘弁してよ」
「そりゃその通りではあるけども」
「元々ママの一番の側近に幹部の座を捨てたネリスがいて、その下にえーっと……なんだっけ? あ、そうそうプライム・ナイツっていう四人の精鋭がいたの。ママに兵力を持たせたくないパパが部隊を取り上げちゃったからその五人が唯一の部下だったんだけど、ネリスが言うにはネリスとその四人が残っていれば十分だって」
「ふ~ん、ならいっそ全員呼んでくりゃいいんじゃね?」
「それは難しいと思う」
「なんで?」
「カラ以外の三人がママの代わりにあたしやネリスに従うかっていうと微妙だし、そもそも一人は出て行っちゃって二人はどこにいるかもよく分かってないってさ」
「ならそこまでの話だな。で? 別の三人組については?」
「グルーム・イービル?」
「それだ。そいつらは姉ちゃんの子分なんだろ?」
「そうだけど、そんなに接点も無かったんだよねぇ。勿論何も知らないってことはないけどさ」
「なら知ってることを教えてくれ。そこで喚かれるよりゃマシだ」
「えっとね~、イールは好戦的で格好付けな奴で、デュークはおっとりしてる性格だけど慎重で頭が良くて~、エフィーは無邪気でノリがいいんだけどキレたら暴走する女の子ってぐらいかな。顔は見たことないから分かんない!」
「会ったことねえのかよ! 憶測の情報要らね~」
「違う違う、三人とも悪魔みたいな仮面かぶってるから顔が隠れてるんだって」
「ああ、そういう……どういう連中なんだお前の仲間はどいつもこいつも」
「人と違って色んな種族を総称して魔族なんて呼ばれてるわけだから、その分色んな奴がいるってことじゃない?」
「誰が見た目の話をしてんだよ……中身の話だ中身の」
 溜息を一つ漏らし、ロイスは別の書物へと手を伸ばしパラパラとページをめくっていく。
 ただダラダラと話をしている時間に飽きたのか、クルムはやがて寝息を立て始めた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

呪われ少年魔法師、呪いを解除して無双する〜パーティを追放されたら、貴族の令嬢や王女と仲良くなりました〜

桜 偉村
ファンタジー
 瀬川空也(せがわ くうや)は魔力量が極端に少ない魔法師だった。  それでも一級品である【索敵(さくてき)】スキルで敵の攻撃を予測したり、ルート決めや作戦立案をするなど、冒険者パーティ【流星(メテオロ)】の裏方を担っていたが、あるとき「雑用しかできない雑魚はいらない」と追放されてしまう、  これが、空也の人生の分岐点となった。  ソロ冒険者となった空也は魔物に襲われていた少女を助けるが、その少女は有数の名家である九条家(くじょうけ)の一人娘だった。  娘を助けた見返りとして九条家に保護された空也は、衝撃の事実を知る。空也は魔力量が少ないわけではなく、禁術とされていた呪いをかけられ、魔力を常に吸い取られていたのだ。  呪いを解除すると大量の魔力が戻ってきて、冒険者の頂点であるSランク冒険者も驚愕するほどの力を手に入れた空也は最強魔法師へと変貌を遂げるが、そんな彼の周囲では「禁術の横行」「元パーティメンバーの異変」「生態系の変化」「魔物の凶暴化」など、次々に不可解な現象が起きる。それらはやがて一つの波を作っていって——  これは、最強少年魔法師とその仲間が世界を巻き込む巨大な陰謀に立ち向かう話。

処理中です...