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【第十話】 勇者パーティー
しおりを挟む「なんで!? なんでこんなことになるわけ!? 皆は納得してんの!?」
すっかり日が落ち、ロイスとクルムにネリスを加えた三人がクロフォード辺境伯と共に食卓に着いている頃。
オックスウッド城を離れた勇者一行はとある酒場の一角に集っていた。
追放されたロイスを除く四人が腰を下ろすと同時に一人の女性がテーブルに拳を叩き付ける。
声の主はモニカ・スウィーニー。
二十歳にして世に勇者パーティーと呼ばれるチームの一員に抜擢された若き賢者だ。
それは剣聖のスキルを持ち、伝統ある四ヶ国合同武術大会での二連覇やオークロード、グリフォンの討伐という目覚ましい功績を上げたことによって国王より正式に英雄の称号である【勇者】の肩書を与えられたキャスト・ナイトブレイドを中心としたチームであり、こと国内においては何にも勝る栄誉だとされている。
構成メンバーは結成時から変わらず勇者キャスト・ナイトブレイド、剣士ルーク・フォレスター、賢者モニカ・スウィーニー、魔法使いダイア・メイラー、そして盗賊ロイス・ウィルクライムの五人であったが、今日この日に一人が欠けて四人となっているのが現状だ。
参加要請を拒否した大賢者マリオンによって代理として派遣されたメイラーを除く三人は揃って高レベルの冒険者として活動していた過去があり、とりわけチームの結成前から交友があったスウィーニーは今朝城で起きた出来事や国王の決定、通告に微塵も納得していない。
それどころか事前に何も知らされておらず、またその不服を申し立てる場すら与えられていないことに激怒してさえいた。
「落ち着けモニカ。驚いているのも受け入れられないのもお前一人ではない」
騒がしい酒場にあって、ある意味では指定席となっている角のテーブルに陣取っているため周囲に会話が漏れている様子はないが、注目を集める存在であることも事実。
ここで口論などしては要らぬ噂を立てられかねないと、一つ息を吐くとナイトブレイドはスウィーニーを諫めた。
このまま喧嘩でも始まってしまっては収拾が付かなくなるのではと危惧し、割って入ったのは城内で既に憤りを露わにしていたスウィーニーを落ち着かせるためにも話し合いの場を設けるべきだと提案した張本人であるフォレスターだ。
「スウィーニー、気持ちは分かるがそう興奮していちゃ話も出来ねえ。ひとまず座れって」
「ラッキー……あんたは納得してるわけ?」
「んなわけねえだろ。俺だってそりゃねえだろって思ってるよ、ロイス一人に押し付けるのはあんまりだぜ」
「リーダーは知ってたんでしょ?」
「事前に知らされていたことを否定はしない。だがそれも昨夜の話であって前もって把握していたというレベルの話ではないんだ。それに相談や提案を受けたというわけではなく俺も通告を受けたに過ぎない。分かるだろう? 納得していないのは俺も同じだ、だからといって陛下や宰相殿があれだけ激怒している中で異議申し立てをする権利など誰にもない」
「だからって……このままロイスが国外追放で終わりだなんて」
腰を下ろしたスウィーニーは、それでも収まらずに拳を震わせている。
普段通りに関心が無さそうに無言で座っているだけのメイラーは例外であれど、誰もがロイスが今この時にも救いのない哀れな末路を辿っていると思っているのだ。
よもや当人が貴族の屋敷で豪勢な夕食に有り付いていようとは知る由もなかった。
「俺とてこのままでいいとは思っていないさ。あいつは長らく貢献してくれた、それを否定するつもりはない」
「そうだなぁ。そりゃ職業柄どうしたって俺達と比べたら周りの連中の目は懐疑的だったけどよ、そんでも今まで仕事したことのある盗賊とは違って専門外だとか言って戦闘に参加しないなんてことは一度もなかったし、スキルのレベルが高いってのもあんだろうけど率先して危険な仕事も引き受けてたしな。自己犠牲も厭わず、だからって別に金に汚いってわけでもなし。俺も冒険者出身だから多少なり仕事をしたことはあったが、働きぶりを除いても普通に良い奴だと俺も思うぜ? 俺はロイスも含め全員仲間だと思ってっからさ、仕方のないことだと割り切るのはちょいと後味がわりぃよ」
日頃は陽気で深く物事を考えない質のフォレスターであったが、未だ興奮が収まらないスウィーニーを見て柄にもなく空気を読んでいた。
とはいえスウィーニーほどの強い想いがあるわけではないものの一歳違いで最も歳が近く、飲み友達でもあるフォレスターにとってはロイスを友人であると認識していることも事実である。
そこでただ一人これまでに一言も発していないもう一人の仲間へと自然に全員の目が向けられた。
「メイ、あんたはどう思っているの?」
「別に……興味、ない」
「あんたねえ……その性格は嫌というほど分かってるつもりだけど、だからって何年も一緒に戦ってきた仲間なのよ!? 何も思わないわけ!? そもそもロイスは何も悪いことなんてしてないのに、一人で責任押し付けられて国を追い出されたって分かってる!?」
ダイア・メイラーは大賢者の弟子である。
その名に違わぬ高い魔法の技術を持っているが十六歳という年齢のせいか、はたまた人の寄り付かない森の奥で人と接することなく過ごしてきた環境のせいか、パーティーに加わってから今に至るまで感情の一つすら見せたことがなかった。
話し掛けられない限り口を開くことはなく、指示されない限り自発的に行動することもない。
そしてパーティーのメンバーであろうとも他者に関心を示すこともなく、数年を経た今でもなお一人で本を読んでいる以外の時間の過ごし方を知る者はここにはいないのだった。
「落ち着けって、ちょっと興奮し過ぎだ」
またしても怒声を上げて立ち上がるスウィーニーの肩をフォレスターが抑える
このままでは今後の活動もままならぬと、ナイトブレイドは大きな溜息を漏らした。
「座れモニカ。ここで感情的になったからといって事態が好転するわけではない」
「……だからロイスのことは諦めろっての?」
「そうは言っていないだろう。今はまだ陛下も宰相殿もこの件について冷静に話が出来る状態ではあるまい。時間が経てば……無論あの魔族の小娘を連れ去った影響が国に及んでいなければだが、いずれはお二人の頭も冷えるだろう。その時に俺が直接話をしに行く。それで納得してくれ」
「……約束だからね」
「念を押してくれるな。ルークが言ったように、何もロイスを必要としているのはお前一人ではない」
「個人的な感情で言ってるみたいに思われるのは心外だけど、今ははそれで納得しておくわ」
スウィーニーは結局腰を下ろすことなく、鋭い眼差しで数秒二人を見下ろすとその場を立ち去っていく。
ある者は呆れたような顔で、ある者はホッとし表情で、そしてある者は別段興味が無さそうに、遠ざかっていくその背中を見送った。
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