王女が攫われた報復に魔王の娘を攫ってきたら国外追放を言い渡されたので新世界の神になる

まる

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【第三話】 作戦会議

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「話は纏まったわね。これからよろしく、頼りにしてるわよっ」
「ああ……」
 クルムは晴れやかな表情でロイスの背中をパチンと叩いた。
 同意や賛同を得られたことでより気持ちは前向きになり、加えてこの先待ち構えているであろう未知なる世界での体験や自らの意思で進む険しく困難な道のりへの挑戦を思うと期待感は高まるばかりだ。
 対して、ロイスの返答は今一つ気乗りのしない感がありありと漂っている。
 半ば、否八割九割はやけくそのもうどうにでもなれという心持ちに後押しされた決断ながらもやると決めたことに後悔はない。
 それは間違いなかったものの、今後の展望を薄っすらと考えてみるとやはり前向きには慣れなかった。
「それで、まず何する?」
 そんな心情を知ってか知らずか、クルムのきらきらとした目がロイスを見上げる。
 こうなればグダグダと嘆いていても仕方がないと無理矢理に気持ちを切り替え、ロイスも今度は真剣に思考を巡らせた。
「話をするにもまずはここから離れよう。どこに人目があるか分からん、最悪の想定をするならまだ王国の奴等が監視しているってこともある」
 可能性は薄いけどな、とロイスは付け加える。
 明日か、早ければ今日のうちにも各関所や都市、国境警備隊に御達しが下ることは間違いないだろうが国王ガーディン・カートライトという男は元より切り捨てた物に執着する質ではない。
 ロイスを追放することで問題を解決させた気になっているのなら、のちに何らかの不都合が起きた場合に無関係だと言い張る口実を確保しておく意味も含めてとっくに興味を失い、捨て置くつもりでいるだろう。
 それは経験を踏まえた上での推察であったが、言わずもがなこの国の王がどのような性格、性質であるかなど知らないクルムは、それ以前に既に顔も忘れた人間に何の関心もないためお気楽な返事を返すだけだ。
「この先に人通りの少ない森がある。取り敢えずそこを目指すとしよう」
「おっけー」
 無知というのは幸せなもんだ。
 無邪気な笑顔に呆れ混じりにそんな感想を抱きながらも、ロイスは荷馬車を進めるのだった。

          ☆

 しばらくして、二人は件の森へと辿り着いた。
 土地柄としてはまだ王領の内であったが、先には農村や小さな山が立ち並ぶ連山があるだけで人口が少ないこともあり道は整備されておらず比例して人通りも極端に少ない地域であり、同様にその半ばにある広大な森林にも静けさが蔓延するばかりで人の気配は一切ない。
 そんな森を進むこと幾許か。
 無意識に癖である周辺への警戒を済ませるロイスの『この辺りでいいか』という言葉を合図に二人はようやく御者席から降りると草の上へ腰を下ろした。
 内緒話をするにはうってつけの環境でこそあったが、話し合いというよりも単に自身の言葉を待っている風のクルムに呆れる気持ちが再燃しつつもロイスは道中に考えていた真っ先に立ちはだかる問題を挙げていく。
「えー、まずだな。今何よりも必要なのは拠点と食い扶持、そんでそれを維持する金とか作戦や計画にそれを実行するだけの人員だ。まずぶち当たる問題としてはどれを確保するにしても二人じゃ無理だってことだな。お前の仲間に味方になってくれるような奴はいないのか? もちろん確実に信頼できる奴限定でな」
「確実に信頼、かぁ」
「真っ先に必要なのは頭数だけど、ただ数を集めればいいってわけじゃない。無駄に増えれば裏切る奴が出る、派閥や諍いが生まれる。使い捨ての駒ならいくらいてもいいが、仲間に加えるならやり過ぎだってぐらいに人を選ぶ必要がある」
「二人だけいる。特に小さい頃からあたしの世話をしてくれてたお姉ちゃんみたいな存在でネリスっていう名前のママの元部下がいるんだけど、ネリスなら問答無用であたしの味方をしてくれると思う」
「なるへそ、だが問題はどうやってここに呼ぶかだなぁ」
「それなら大丈夫。魔法を使えるなら今すぐにここに呼べるもん」
「え? マジで?」
 キョトンとするロイスとどこか得意げなクルム。
 対照的な表情が交差する謎の時間を経て、クルムは胸元に手を突っ込み首から掛かっているネックレスを取りだした。
 見ようによっては宝石かとも思える綺麗な赤い水晶がぶら下がっている。
「これはあたしが作った魔法石なんだけど、さっき言ったあたしの特技って覚えてる?」
「確か、魔法陣とか結界とかって……」
「そ、あたしは魔法陣を出入口にした転移門を作れるの。単なる転移門じゃなくて複数箇所を繋ぐことも出来るし、この魔法石を鍵の代わりにしてあたし以外にも使えるようにだって出来るわ」
「ほう」
「で、これはネリスとあたしの二人だけが持ってる石で、これに魔法を込めればあたしの居場所を伝えることが出来るし、この石自体が魔法陣の代わりになっているから向こうが気付けばすぐにあたしの元に飛んでくることが出来るの」
「え、それ最初にやってりゃこんな所に連れて来られる前に助け呼べたんじゃね?」
「押し入られるなり魔法を封じる錠を付けられたら無理じゃない?」
「そうですね、ごめんなさい」
「いや別に謝ってくれなくてもいいんだけど。とにかく、そうと決まればさっそく呼んじゃっていいわよね?」
「もう一回だけ確認するけど、本当に信頼できるんだな? そいつは絶対に裏切らないって言い切れるんだな?」
「ネリスとカラは絶対に大丈夫だってば。何ならあんたも気に入られるかもね」
「……カラ? え? ていうか気に入られるって、なんで?」
 初めて出た名前に疑問を抱きながらも、付け加えられた理解不能な情報にロイスは質問が追い付かない。
 それでいてクルムは『それは後でのお楽しみ♪』と悪戯っぽく笑い、ネックレスに付属する水晶を軽く握りしめた。
 すると水晶を覆う右手から溢れるぐらいの強い輝きがほんの一瞬目の前を迸り、それでいて次の瞬間には薄暗い森の風景を取り戻している。
 何らかの魔法を駆使したことはロイスにも理解出来たが、特に辺りに異変はない。
 そう思ったのもまた一瞬のこと。
 更に次の瞬間には再び刹那の閃光が二人を包み、その薄白い光が消えると同時に二人の真横に見知らぬ人影が姿を現していた。

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