王女が攫われた報復に魔王の娘を攫ってきたら国外追放を言い渡されたので新世界の神になる

まる

文字の大きさ
上 下
1 / 17

【プロローグ】 追放

しおりを挟む


「結論は出たロイス・ウィルクライム。国家に重大な危機をもたらした咎により今日この場を持って貴様を勇者一行から除名し、国外追放処分とする!!」

 アグネリア大陸中央部。
 エヴァーローゼ王国の中心地に聳えるオックスウッド城三階、玉座の間に大きな声が響き渡った。
 国王ガーディン・カートライトは激高するあまり玉座から立ち上がり、目の前に跪く男を指差し興奮で息が乱れている。
 王の両脇には宰相と近衛騎士団長が控えており、眼前には近衛騎士や執政において各部門で最高の地位を与えらえた大臣達、そして神官や勇者パーティーの一行までもがずらりと整列しているがその宣言、或いは決定に異を唱える者はいない。
 そんな空気、雰囲気も相俟って今まさに国外追放を告げられた青年ロイス・ウィルクライムはただ絶望の淵にいた。
 強制的に両膝を突かされ、手首を腰の後ろで縛られているため立ち上がることも許されず、それでいて今日この日まで生死を共にした仲間達が自身を庇ってくれないという事実に、もはや暴れる気力さえ失われ失望以外の感情を抱くことが困難であるためだ。
 十八歳でこの国の最大戦力の一つであり最上級の名誉職である勇者パーティーに加わったロイスは五年間身を粉にして働いて来た自負がある。
 それでいてこの有様に至るのはロイスが盗賊という職業であるがゆえだと言えた。
 偵察や潜入、情報収集などその役割は多岐に渡るが性質上どうにも第三者の視点では貢献度が図り辛く、栄光なる勇者キャスト・ナイトブレイドや国内一の魔法使いダイア・メイラーの名や功績が目立つということも理由の一つであったが、そうでなくとも『盗賊』という文字が抱かせる印象の悪さも大いに原因を担っている。
 しかし、そういった背景を知る由もなければ考察する余裕もないロイスにとってはただただ残酷でみじめな末路だと思う以外に思考の行き着く先はない。
 王に、国に、仲間に見捨てられ、切り捨てられたのだと。
 ありのまま今この場で起こった全てを理解しようと思うのならば、把握出来たのはそれだけだった。
 これはアグネリア大陸より海を挟んで北上した先に存在する一回り小さな大陸である魔族領への遠征から帰った翌日の出来事だ。
 国王の命を受け一行は魔王軍に拉致された王女アルテミス・カートランドの奪還を目的に国を出て八日を掛けて旅をした。
 だが、魔族領に潜入したものの数多の軍勢による厳重な防備と強固な結界や罠により魔王城への潜入を半ばで断念するに至る。
 それでいてパーティーを率いる勇者キャスト・ナイトブレイドの指示によってロイスは単独で城へと潜り込むこととなった。
 盗賊として高レベルに達しているロイスは保持しているスキルによって結界を抜けられる能力を持っているためだ。
 主命を受けた手前、何の成果もなく帰るわけにはいかないと、何でもいいから成果を持ち帰れと指示され半ば潜入を強いられた形である。
 高レベルかつ上位スキルを保持しているとはいえ所詮は盗賊であるロイスには単身上級魔族と戦うだけの戦闘力はない。
 それでも息を潜め、気配を殺し、結界や罠をすり抜けながら場内を探索することしばらく。依然王女の居場所は不明、それでいて偶然立ち入ったとある部屋にて思いがけず魔王の娘と遭遇すると限界を察し撤退を考えていたこともあってその魔族を拉致することを決断する。
 王女の救出は叶わずとも人質交換等、何らかの交渉材料になると踏んだからだ。
 だが結果としてその成果が称えられることはなく、この時のロイスに反対に魔王軍の報復を恐れた国王に全ての罪を被らされ、罪人の如き扱いを受けるなど予想出来るはずもなかった。
 唯一の救いは『処刑』を提言する側近が複数いたものの魔族の娘をどう処分するのかという問題に難儀し、幽閉しようともロイスと共に処刑しようとも先端が開かれること必至という状況がぎりぎり思いとどまらせていた。
その結果として生かしておくにせよこの国に置いていては自ら火種を抱えるも同じという結論の下、揃って追い出し無関係を装うことを決めたのだった。
 ロイスにしてみれば言うまでもなく納得出来る処分などではなかったが、異を唱えようにも誰一人として味方はいない。
 それどころか成果の獲得を指示したキャスト・ナイトブレイドすらもが神妙な表情を浮かべるだけで口を閉ざしている。
 他の仲間達に目を向けてみるも一様に目を逸らすか顔を伏せるばかりでやはり口を開くものは皆無だった。
 無論、この空間で王の許可なく発言することの愚かさは理解しているつもりだ。
 だけどそれでも、冒険者となってから七年、勇者パーティーに加わってからでいえば五年、己の人生全てを捧げて突き進んだこの道がこんなところで終わりを迎えるのかとロイスは嘆かずにはいられなかった。
「議会は終わりだ。あの忌々しい魔族を連れてサッサと出て行くがよい!!」
 背後で槍を持ち両肩を抑えていた兵士に力尽くで立たされると、ロイスは引き摺られるように外へと連れ出される。
 半ば放心状態の彼に、改めて仲間達を一瞥する勇気はなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

処理中です...