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 王太子殿下に絡まれることもなくなり、平穏な学園生活を送れるようになって、2年はあっという間に過ぎ去った。

 卒業と同時に王太子殿下はアグネス様と結婚し、友情以上の感情がお互い見え隠れしているのを私たちは微笑ましく見守っている。

 最近、ラゼット侯爵がキャサリンに縁談話をいくつか持ち込んでいるらしく今日もランチはキャサリンの愚痴を聞く会と化しているのだ。

「それでね。私はお父様に言ったの。たしかに縁続きになれば、我が家にメリットはあるかも知れないけれど、私が自分の商品価値を上げる努力をして来たのに、ここで妥協していいのですかって。」
「リーモット伯爵のご長男って私たちの4つ上だったかしら。」
「そうね。」
「キャサリンが前に言っていた気になる方はお話ないの?」
「そこは無理だから。あの方以外なら、お父様が『よくやった。』と言う相手でないとね。それなのに、年が近いからとか性格がいいとかそんなこと言うのよ。」
「貴族の父親で、娘の相手に自分の利益より幸せを考えてくれているのを優しいって言わない?それじゃ、どんな人ならキャサリンは納得するの。好みのタイプとか?」
「他国の王とか高位貴族で、そことの縁組で国や家に利益がもたらせたらいいわね。好みと言われると年上で、見た目だと…落ち着いた感じかな。」
「うーん。ディランみたいな?」
「最初、家に来た時はちょっと惹かれたわね。心配しなくてもいいわよ。私の気になる人本人じやなくて似ているような気がしたからだから。でもシャーロットへの甘々見たら、もう応援しかないわよ。」

 ディランじやなくて、ちょっとホッとしている自分が少し嫌だった。キャサリンにはとても助けられているから、協力したいのにそんな時でも自分優先なんだって自覚して…

「ねぇ。キャサリンの好きな人にこっちから言うのは?」

 途端にキャサリンが真っ赤になった。

「無理無理無理、ぜーったい無理。私なんか子どもに思われるに決まっているし、何より亡くなった奥様をいまだに想って再婚されない方なんだから。」
「キャサリン、もしかしておじさま好き?」
「あの方が年上だから好きなんじゃなくて、好きになったのが彼だったのよ。」
「ふーん。じゃあ、その人について詳しく教えてもらいましょうか。」

 なかなか口を割らないキャサリンだったが、最後には根負けしてポツポツと話し始めた。

「最初に見かけたのは、4年前の王宮での夜会だったわ。あまり領地から出てこられない方らしいのだけど、たまたま夜会にいらしてたようで、まだ夜会に不慣れな私がお兄様と逸れて、どこかの不良貴族に絡まれていたところを助けてくださったの。その後、お兄様が来るまで、私と話をして守ってくださったのよ。とても紳士で、頼り甲斐のある素敵な方だったわ。」
「お名前は聞いたのね。」
「ええ。ご本人からお話をしている時に、『名乗らないのは失礼になりますね』って言って教えてくださったから。いまは45歳くらいのはずだから、私より27歳上だわ。」
「え?そんな上なの。」
「政略結婚では、あり得る年齢差だから気にしないわ。ただ、私を対象として見てくださる可能性がとても低いことだけが問題なの。」
「お父上様はご存知なの。」
「知らないはずよ。でなきゃこんな同年代ばかりの縁談を持ってこないでしょう。私の好きな方がそんな年上なら年上もいいだろうと幅を持たせて来そうですもの。」
「それでなんて方なの。」
「シャーロットにだけは、言いたくなかったんだけど…」
「ここまで話して、それはないでしょう。」
「言うわよ。シャーロット、聞いて後悔しないでよ。」
「しないわよ。」
「言ったわね。私が好きなのは、ディック様、ディック・エバンス辺境伯よ。」
「えー⁈お、お父様?」

 私は頭が真っ白になった。
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