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アーノルドと帰るために仕事を片付けると決めて、まず会長に話しに行く事にした。
色々、心を砕いてくれている会長には、ちゃんと話さなければならないだろう。

アマリアが持って来てくれたランチを食べて、カゴを返しがてら商会に向かう。

商会に着いて、まずは会長に面会を申し込む。ちょうど部屋で遅めのランチをしていたようで、すぐに案内してもらえた。

「すみません。会長、お話があるんですが、よろしいでしょうか。」
「エミ、いいけど体調は大丈夫なの?」

そう言いながら、私の横を見た会長は、にこりと微笑んだ。

「エミ、そちらはベビーのパパかしら?」

会長の一言に一瞬、言葉に詰まったが、アーノルドはすぐに挨拶をした。

「トゥエンテ商会会長、サリーア・トゥエンテさんですね。私は家名は名乗ることはご容赦いただきたいが、ギルフォード公爵家に連なるもので、アーノルドと申します。エイミーが世話になったそうで感謝します。」
「エミを捨てておきながら、子どもができたと知って、追いかけて来たのかしら?」
「いえ、エイミーが周りに迷惑かけるからと勝手に家出して、やっと見つけたと言ったところです。」
「公爵家に連なるもので、あなたの身のこなしは貴族のようだけど、エミは子どもを産んだら側室にでもするのかしら。」
「冗談じゃない。エイミーは正妻、しかも側室なんて1人も置く気はありません。」

会長が今度は私に尋ねた。

「エミは、彼のところに戻る気があるのかしら?」
「彼が、アーノルドが戻らないと困るって言うんです。だから、ごめんなさい。ここのお仕事始めたばかりだったのに、ご迷惑をかけてばかりでこんな事を言い出して。」
「そう。エミが幸せならいいのよ。来た時はほっとけない顔していたけれど、今はいい顔しているわ。それでいつまでここにいる予定?」
「翻訳の仕事を片付けたら戻ろうと考えているので、あと5日ほどで。」
「わかりました。最終日に商会でお別れ会をしましょう。」
「会長、ありがとうございます。」

アーノルドが会長に頭を下げてくれた。隣国とは言え一国の王子が庶民に…

「エイミーが本当にお世話になりました。お礼はギルフォード公爵家を通して改めてさせていただきます。」
「あらあら、それはステキなお話ね。」

会長室を出て、自分の席へ向かった。隣のアマリアにカゴを返して、会長に挨拶をして来たことを話す。

「えー。エミ、辞めちゃうの?」
「うん、彼と帰って子どもを産むことにしたわ。」
「まぁ、あれだけかっこよくて、優しそうな男の人が迎えに来たんだもんね。」
「そういえば、身分違いとか言ってなかったっけ?やっぱり本妻さんとか婚約者はいるけど、本当に愛しているのはエミだけとか?」
「うん、まぁ…私が正妻だけど…」

こちらの話を聞かずにひとりで盛り上がるアマリアに

「引っ越す前にまた来るね。」

挨拶してアーノルドと部屋に戻った。

部屋に帰って、アーノルドが帰るのかと思っているとジャケットを脱ぎ、椅子に座る。

「アーノルド、帰るんじゃ?」
「エイミーが帰るまで一緒にいるよ。」
「でもベッドは1つしかないけど。」
「大丈夫、床で寝るから。」
「アーノルド、あなた王子なんだから、そんなところで寝なくても。」
「軍の訓練じゃ床にごろ寝は、当たり前だから平気だよ。ここのところ、エイミー探しで、まともなところで寝てないし。」
「じゃあ、私が床で。」
「ダメ。エイミー1人の身体じゃないんだからね。」
「はい…」

仕事を全て片付けて、戻る前日。
商会でお別れ会を開催してもらった。

「短い間でしたが、お世話になりました。」
「エミちゃん、幸せにね。」
「うちの息子の嫁に狙ってたのに…」
「俺も狙ってたのに。」

みんなから様々な言葉をもらい、少ししか居られなかったけれど、認めてもらえる所はあったんだと嬉しくなる。

「まぁエミのお相手は、すごくかっこよくて、優しくて貴族みたいだから、あんた達じゃ敵わないわよ。」
「アマリアったら、自分の彼氏じゃないのに。」
「アマリアこそ、相手まだ見つかんないのか?」

まるで、自分の事のように自慢するアマリアにみんなが突っ込んで、笑う。そんな楽しいお別れ会が終盤に近づいたころ、アーノルドが迎えに来た。

「エイミー。まだ早かったか?」
「ううん。もう帰れるよ。」
「エイミーがお世話になりました。」

アーノルドの登場に女性陣から、『アマリアの話は本当だった』と悲鳴があがり、男性陣から『負けた!』と残念そうな声が上がった。


部屋に戻ったら、アーノルドが上着を脱いで椅子に座る。今日も床で寝るらしい。

「アーノルド。今まで待たせてごめんなさい。私、家じゃなくてそのままキャンベルに行くの?」
「いや。一度、ギルフォード邸に行くよ。公爵も伯母上もアルヴィンも心配してるから。ちゃんと怒られろ。一緒に謝ってやるから。」
「アーノルドは、別の理由で怒られるでしょうねぇ。」
「それについては、謝るつもりはないけど?」
「昔なら、アルヴィン兄上が怖いとか言ってなかった?」
「覚悟決めたから。王子として、1人の男として、エイミーを守るためなら何でもする。」
「ありがとう。じゃあ私はアーノルドをしっかり支えないとね。」
「明日は領邸に朝イチで移動して、部屋に入るから早く休もう。」
「はい。おやすみなさい。」

翌朝、ギルフォード公爵領邸の部屋にこっそりと入り、替玉役の侍女と入れ替わった。

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