上 下
23 / 46

22

しおりを挟む
「最近、アーノルドとゆっくり話ができるのって授業の時だけのような気がするのだけど…」
「そうだね。マリナ殿もアランもタフだよな。」
「私、最近疲れが取れないわ。」




たぶん私は判断能力が落ちるほど、疲れが溜まっていたんだと思う。

朝、女子寮内で知らない子から声をかけられた。

「あ、あの…エミルフェシア様、王子殿下から手紙を預かっているのですが。」
「ありがとうございます。」

わざわざ手紙なんて珍しいと思いながら開くとタイプ打ちされた文字が目に入る。

『私たち2人の事について、話がある。2人きりで話したいので、授業前に図書館奥の書庫に来て欲しい。    愛しいEへ 』

アーノルドから何の話だろう?

「メラニー、アーノルドに呼ばれたから図書館に行ってくるわね。」
「お嬢様、私も同行します。」
「2人きりで話したいって言うから、いいわ。図書館の入口までは、誰か私に付いてるんでしょ?」
「それは、もちろん。」
「たいした時間かからないと思うから、登校時間に図書館まで荷物持って来てくれればいいわ。」
「かしこまりました。」

図書館は、校舎奥にあるので戻るより届けてもらって、そのまま授業に行こうと制服に着替えて向かう。
まだ早い時間のため、図書館は職員が数人出勤したばかりのようだった。とりあえず近くの職員に声を掛ける。

「おはようございます。書庫に行っても良いかしら。」
「はい、伺っております。どうぞ。」

奥の書庫には、貸出禁止本の棚とそこで調べ物ができるように机や椅子、ソファーが置かれている。
私は、とりあえずソファーに座って待つ事にした。

物の数分で、ドアが開く音がして、閉まると同時にカギを掛ける音がした。

「待たせたな。エイミー。」

そこに立っていたのは、アラン王子だった。
私は自分のミスに気づいた。王子って、この国じゃアラン王子の方を普通指すのに、なぜアーノルドと思い込んでしまったんだろう。

「来てくれて嬉しいよ。」
「あ、あの…」

いきなり座ったまま、抱き竦められて、身動きが取れない。

「エイミー。好きだ。いつも照れてはっきり返事してくれないし、公爵家もなかなか返事をくれないから、実力行使に出ることにしたよ。君が手付きだと分かれば、みんな認めてくれるよ。」
「やだっ。」

私は抵抗するが、そのままソファーに押し倒されてしまった。
額に頬に口に次々とキスをされ、首筋を舐められる。
嫌悪感とぞくっとする感覚にどうしていいのか分からず涙が溢れた。

「やめ、て、やだっ。」

アーノルドの顔が浮かぶ。
助けて…

制服のリボンが解かれ、ボタンが外される。
胸を舐められて、スカートの中に手が入って来た事に絶望を感じた時、急に上にのしかかっていた重みが、なくなった。

「エイミー!」

アーノルドの声がしたような気がして、目を開けると部屋の隅にアラン王子が転がっていて、私を優しく抱きしめてくれているのは、アーノルドだった。

「遅くなってごめん。エイミー。」

アーノルドは辛そうな顔で、私を自分のジャケットで包み、横抱きに抱き上げる。

「アルヴィン!このバカの事は任せた。」
「かしこまりました。殿下。」

いつもならお兄様を兄上と呼んでいるアーノルドが、命令していたのにもお兄様が臣下の礼を取っていることにも気付かない私は震えが止まらず、涙が止まらない。
そんな私を寮ではなく、ギルフォード公爵邸にアーノルドは運んでくれた。

侍女たちにお湯で清められたが、身体の震えが止まらない。ベッドに横になると光景を思い出してしまう。
仕方なくソファーに座ってぼうっとする私の肩を横に座ったアーノルドが抱こうとした瞬間、ビクッとしてしまいアーノルドの手が宙に浮く。

「エイミー、ごめん。」
「アーノルド、ごめんなさい。婚約解消して。私、汚されちゃったもの。あなたの妃になれない…」
「エイミーは、きれいだよ。」
「でも…」
「エイミー、私が触れても大丈夫?」

自信なさげにうなづくと優しく頭を撫でてくれる。

「大丈夫…」
「今日は、ずっとそばにいるから少し眠るかい?」
「いやっ。」
「でもずっと起きているわけにもいかないだろう。」
「横になると思い出しちゃうの。助けて…」
「エイミー。私が上書きしてもいいか?あんな奴を二度と思い出さないように。優しくするから。嫌なら途中で止める。」
「うん…」

アーノルドに優しく抱き上げられ、ベッドに下ろされた。一瞬、恐怖が過ったが、アーノルドに優しくキスをされると安心感が増す。

ひとつずつ上書きされ、自分がきれいにしてもらい、幸せな気持ちになっていくのが嬉しかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ざまぁ系ヒロインに転生したけど、悪役令嬢と仲良くなったので、隣国に亡命して健全生活目指します!

彩世幻夜
恋愛
あれ、もしかしてここ、乙女ゲーの世界? 私ヒロイン? いや、むしろここ二次小説の世界じゃない? 私、ざまぁされる悪役ヒロインじゃ……! いやいや、冗談じゃないよ! 攻略対象はクズ男ばかりだし、悪役令嬢達とは親友になっちゃったし……、 ここは仲良くエスケープしちゃいましょう!

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?

もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。 王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト 悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜

ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。 沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。 だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。 モブなのに魔法チート。 転生者なのにモブのド素人。 ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。 異世界転生書いてみたくて書いてみました。 投稿はゆっくりになると思います。 本当のタイトルは 乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜 文字数オーバーで少しだけ変えています。 なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

【完結】目覚めたらギロチンで処刑された悪役令嬢の中にいました

桃月とと
恋愛
 娼婦のミケーラは流行り病で死んでしまう。 (あーあ。贅沢な生活してみたかったな……)  そんな最期の想いが何をどうして伝わったのか、暗闇の中に現れたのは、王都で話題になっていた悪女レティシア。  そこで提案されたのは、レティシアとして贅沢な生活が送れる代わりに、彼女を陥れた王太子ライルと聖女パミラへの復讐することだった。 「復讐って、どうやって?」 「やり方は任せるわ」 「丸投げ!?」 「代わりにもう一度生き返って贅沢な暮らしが出来るわよ?」   と言うわけで、ミケーラは死んだはずのレティシアとして生き直すことになった。  しかし復讐と言われても、ミケーラに作戦など何もない。  流されるままレティシアとして生活を送るが、周りが勝手に大騒ぎをしてどんどん復讐は進んでいく。 「そりゃあ落ちた首がくっついたら皆ビックリするわよね」  これはミケーラがただレティシアとして生きただけで勝手に復讐が完了した話。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

処理中です...