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私はまた王宮に戻り、そのままになっていた部屋に入った。
「おかえりなさいませ。セリーナ様。」
「マーサ、ごめんなさい。ただいま。」
私が戻らないかもしれなかったことは、一部の者しか知らせていなかったらしく、殿下の行方不明で心労がたまり公爵邸で療養していたことになっていたとマーサから教えられた。
妃教育もあらかた終わっていたので、1ヶ月後の結婚式までは当日の段取り確認やウエディングドレスの最終調整くらいでやることもなく、殿下とゆっくり過ごせる時間を楽しんでいる。
「セリーナ。」
「殿下、どうされました?」
「庭園の薔薇が咲いたんだ。一緒に見に行かないか。」
「いいですね、殿下。」
殿下の記憶は戻らないけれど、木こり小屋での日々が私たちの始まりと割り切ってみれば、温かな毎日を積み重ねていけそうな気がする。
そして結婚式当日を迎えた。
ウェディングドレスに着替え、控室で待っているとノック音がした。
「はい。」
「セリーナ、支度はできた?」
「殿下、出来てますけど、どうしたんですか?」
「式の前に話したい事がある。セリーナ、王太子ではなく、ただのフレデリックとして言っておきたい。回り道になってしまったけれど、これからは、あなたと一緒に歩いていきたい。私と添い遂げてくれるか。」
「殿下、もちろんです。私の方こそ、よろしくお願いします。」
「いいかげん、殿下ではなく名前で呼んでくれないか。」
「…フレデリックさま。」
「そろそろ時間なので、続きはあとでゆっくりお願いします。」
いつのまにか部屋に呼びに来たジョシュア様がドアにもたれて呆れている。
私は顔が赤くなるのを隠すようにベールを下げ、殿下…フレデリック様の腕に手を添えた。
聖堂での結婚式、王都パレード、披露パーティーと今日は分刻みのスケジュールだけど、ずっとフレデリック様と一緒だから心強い。
「フレデリック様、私とても幸せなので、お願いがひとつあります。」
「なんだ?」
「お出かけは、一緒がいいです。留守番はもう嫌なので。」
「そうだな。努力しよう。」
フレデリック王の治世、王宮以外ではいつも横に王妃がいて、仲睦まじさを見せていたという。
民たちはあまりの仲の良さに生暖かい目で見ていたとかいないとか…
END
「おかえりなさいませ。セリーナ様。」
「マーサ、ごめんなさい。ただいま。」
私が戻らないかもしれなかったことは、一部の者しか知らせていなかったらしく、殿下の行方不明で心労がたまり公爵邸で療養していたことになっていたとマーサから教えられた。
妃教育もあらかた終わっていたので、1ヶ月後の結婚式までは当日の段取り確認やウエディングドレスの最終調整くらいでやることもなく、殿下とゆっくり過ごせる時間を楽しんでいる。
「セリーナ。」
「殿下、どうされました?」
「庭園の薔薇が咲いたんだ。一緒に見に行かないか。」
「いいですね、殿下。」
殿下の記憶は戻らないけれど、木こり小屋での日々が私たちの始まりと割り切ってみれば、温かな毎日を積み重ねていけそうな気がする。
そして結婚式当日を迎えた。
ウェディングドレスに着替え、控室で待っているとノック音がした。
「はい。」
「セリーナ、支度はできた?」
「殿下、出来てますけど、どうしたんですか?」
「式の前に話したい事がある。セリーナ、王太子ではなく、ただのフレデリックとして言っておきたい。回り道になってしまったけれど、これからは、あなたと一緒に歩いていきたい。私と添い遂げてくれるか。」
「殿下、もちろんです。私の方こそ、よろしくお願いします。」
「いいかげん、殿下ではなく名前で呼んでくれないか。」
「…フレデリックさま。」
「そろそろ時間なので、続きはあとでゆっくりお願いします。」
いつのまにか部屋に呼びに来たジョシュア様がドアにもたれて呆れている。
私は顔が赤くなるのを隠すようにベールを下げ、殿下…フレデリック様の腕に手を添えた。
聖堂での結婚式、王都パレード、披露パーティーと今日は分刻みのスケジュールだけど、ずっとフレデリック様と一緒だから心強い。
「フレデリック様、私とても幸せなので、お願いがひとつあります。」
「なんだ?」
「お出かけは、一緒がいいです。留守番はもう嫌なので。」
「そうだな。努力しよう。」
フレデリック王の治世、王宮以外ではいつも横に王妃がいて、仲睦まじさを見せていたという。
民たちはあまりの仲の良さに生暖かい目で見ていたとかいないとか…
END
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ありがとうございます😊
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感想ありがとうございます。
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