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公爵邸に戻ってすぐ、私は疲れからか熱を出し寝込んでしまった。
熱が下がっても、気力がわかず無為に過ごしているが、おとうさまは、全て分かっているから、何も言わず、1ヶ月近く私の好きにさせてくれている。
それでも養女にした娘をいつまでも置いてはいられないはずなので、こちらからおとうさまに面会を申し込んだ。
「セリーナ、体調はどうなんだ。」
「大丈夫です。ところで今後のことですが、いつまでもここでお世話になるわけにもいかないと思うのですが。」
「私にはもう大切な娘だから、気を使わなくていいが、セリーナが辛いなら分家の誰かとの縁談を探そうか。」
「そうですね。お願いしてもよろしいですか。」
数日後、公爵家の分家に妻を亡くした男爵がいるそうで、田舎でも良ければと言われたので、とりあえず会いに行くことになった。
私が気に入らなければ断っていいとおとうさまは言ってくれたが、私はそのまま帰ってこないつもりでいるので、荷物を片付けているとお客様なのか、外が騒がしい。
「セリーナ様、お客様がいらっしゃったので、旦那様の部屋までお願いします。」
執事長が私を呼びに来たので、急いで支度をして向かった。
「おとうさま、お呼びと伺いましたが…殿下⁈」
部屋には王太子殿下が座っていて私の顔を見て驚いている。
「クラビア公爵、彼女は誰なんだ?どちらのアイリスが本物なのだ?」
おとうさまが私にも椅子を勧めてから話し始めた。
「殿下は、公爵領にいるアイリスにお会いになりましたか?」
「怪我が良くなったから、先日公爵領に会いに行ってきた。以前よりふっくらして、もうすぐ子どもが生まれると話してくれた。だが、そうすると私を看病していたのは、公爵領にいるアイリスとは別人になるな。」
「そうです。殿下の看病をしていたのは、アイリスではありません。クラビア公爵家の養女、セリーナです。」
「セリーナ?あなたは、元々セリーナという名前だったのか⁈」
「はい。殿下が私のことを覚えていらっしゃらないようで、アイリス様と思っていたので、そうさせていただいていました。記憶がない殿下に負担を掛けたくありませんでしたので。」
「セリーナを私は知っている?」
「殿下がこの指輪を下さったのもペンダントを渡したのもアイリス様ではなく私です。」
「それでは、私はあなたを大切にしていたというのか。」
「無理に思い出そうとして殿下の身体に負担を掛けたくなかった。そのまま忘れてください。私はここからいなくなりますから。」
立ち去ろうとした私の腕をおとうさまは掴んだ。
「殿下、どうされますか。セリーナともう一度、一から始めますか。忘れて他の方にしますか。私のかわいい娘をあまり泣かさないで欲しいのですが。」
殿下は、私の前に立った。
元気になって嬉しい。
「えっと、セリーナ、私はあなたを忘れてしまった。しかし私の心には献身的に看病してくれたあなたはいるし、多分忘れてもどこかにあなたはいる。頼りない私だがもう一度始めてくれないか。」
「いいのですか…」
「あなたがいい。」
殿下がそっとキスしてくれると咳払いが聞こえた。
「殿下、私がいることを忘れていませんか。」
おとうさまはなんとも言えない顔をしていた。
熱が下がっても、気力がわかず無為に過ごしているが、おとうさまは、全て分かっているから、何も言わず、1ヶ月近く私の好きにさせてくれている。
それでも養女にした娘をいつまでも置いてはいられないはずなので、こちらからおとうさまに面会を申し込んだ。
「セリーナ、体調はどうなんだ。」
「大丈夫です。ところで今後のことですが、いつまでもここでお世話になるわけにもいかないと思うのですが。」
「私にはもう大切な娘だから、気を使わなくていいが、セリーナが辛いなら分家の誰かとの縁談を探そうか。」
「そうですね。お願いしてもよろしいですか。」
数日後、公爵家の分家に妻を亡くした男爵がいるそうで、田舎でも良ければと言われたので、とりあえず会いに行くことになった。
私が気に入らなければ断っていいとおとうさまは言ってくれたが、私はそのまま帰ってこないつもりでいるので、荷物を片付けているとお客様なのか、外が騒がしい。
「セリーナ様、お客様がいらっしゃったので、旦那様の部屋までお願いします。」
執事長が私を呼びに来たので、急いで支度をして向かった。
「おとうさま、お呼びと伺いましたが…殿下⁈」
部屋には王太子殿下が座っていて私の顔を見て驚いている。
「クラビア公爵、彼女は誰なんだ?どちらのアイリスが本物なのだ?」
おとうさまが私にも椅子を勧めてから話し始めた。
「殿下は、公爵領にいるアイリスにお会いになりましたか?」
「怪我が良くなったから、先日公爵領に会いに行ってきた。以前よりふっくらして、もうすぐ子どもが生まれると話してくれた。だが、そうすると私を看病していたのは、公爵領にいるアイリスとは別人になるな。」
「そうです。殿下の看病をしていたのは、アイリスではありません。クラビア公爵家の養女、セリーナです。」
「セリーナ?あなたは、元々セリーナという名前だったのか⁈」
「はい。殿下が私のことを覚えていらっしゃらないようで、アイリス様と思っていたので、そうさせていただいていました。記憶がない殿下に負担を掛けたくありませんでしたので。」
「セリーナを私は知っている?」
「殿下がこの指輪を下さったのもペンダントを渡したのもアイリス様ではなく私です。」
「それでは、私はあなたを大切にしていたというのか。」
「無理に思い出そうとして殿下の身体に負担を掛けたくなかった。そのまま忘れてください。私はここからいなくなりますから。」
立ち去ろうとした私の腕をおとうさまは掴んだ。
「殿下、どうされますか。セリーナともう一度、一から始めますか。忘れて他の方にしますか。私のかわいい娘をあまり泣かさないで欲しいのですが。」
殿下は、私の前に立った。
元気になって嬉しい。
「えっと、セリーナ、私はあなたを忘れてしまった。しかし私の心には献身的に看病してくれたあなたはいるし、多分忘れてもどこかにあなたはいる。頼りない私だがもう一度始めてくれないか。」
「いいのですか…」
「あなたがいい。」
殿下がそっとキスしてくれると咳払いが聞こえた。
「殿下、私がいることを忘れていませんか。」
おとうさまはなんとも言えない顔をしていた。
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