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公爵様が、質素な服を着た男性を伴ってこちらへ歩いて来る。新しい執事さんかしら?帽子をかぶっていて公爵様に失礼はないの?そう思っていると私に声をかけてくれた。
「セリーナ、開校おめでとう。こちらは、領内学校制度と農機具設備投資に興味があるということでお連れした方なんだが、先に農機具設備は見て来たそうなので、学校の案内を頼めるか?」
どうやら他の領地を治める貴族のようだ。
「はい、はじめまして。モルトン伯爵令嬢セリーナと申します。」
「セリーナは私の妻の従姉妹の娘で、家族のように思っておりますので、そのおつもりで。」
公爵様の説明に?マークが浮かんだが、ただの案内ではなく伯爵令嬢だと言ってくれただけだろうと案内を始めた。
校舎内の説明をしている間、黙って聞いていたその人は最後に講堂を案内すると手を挙げた。
「質問があるのだが、この学校制度はなんで思いついた?」
帽子をはずしたその人は黒い髪に黒い瞳をして、さよならした時より少し大人っぽくなっている。
私がこの人が誰か気づいたら、アイリス様になっていたことに気づかれてしまう。そう思って必死に平静を装った。
「きっかけは、領内の識字率の低さです。買い物するにも文字や計算は必要ですし、将来的子どもたちに職業を選ぶ自由を与えたいと考えております。」
「なぜ無料で?」
「我が伯爵領は取れる作物も限られ、資源もない貧しい土地ですが領民は皆、優しく努力してくれています。伯爵家がその領民の子どもたちを守り育てるのは当たり前です。ただ我が家がそれほど裕福でないため、親戚である公爵家にノウハウを教える代わりに資金援助をしていただきました。今後の運営については、農機具設備投資してあがった税収で賄います。」
「それでは伯爵家は税収で生活できないだろう。」
「元々、税収は民に還元するだけに使っています。我が家は父が経済や歴史の書籍を執筆したお金で生活をして来ましたので、使用人もほとんどいませんし、家庭菜園以上の畑を作ってます。」
「すごいな。」
「あなた様も学校を領地に作られるのですか?」
「そのつもりだ。昔、君と同じようなことを話してくれた女性がいて、その話をしたら公爵が開校のタイミングで行くから一緒にと勧められたのだ。」
「…その女性は?」
「縁がなくて、他の男性と結婚して子どももいた。不思議なことに久しぶりに会った彼女は全く別人のようで、元々違う人だったんじゃないかと思うほどだった。幸せそうだったから、その男性の力かもしれないが。」
「そうでしたか。それでご結婚されなかったのですか?」
王太子妃候補は、あれから全員白紙に戻されたらしく、その後誰かと結婚したとは聞いていない。こんな田舎でも自国の王太子殿下のご成婚が決まれば話が聞こえてくるはずなので間違いないだろう。
「私が結婚してないと言いましたか?」
「いえ、話の流れでそう言うことかと思っただけです。」
「ところで、うちの領地の学校建設に協力というか指導を頼めるだろうか。」
「公爵様が優先ですが、よろしければ。」
「わかった。よろしく頼む。」
差し出された手を握る。妃にはなれなかったけれど、友人のようにしばらく一緒にいられるのなら、それでも嬉しかった。
「セリーナ、開校おめでとう。こちらは、領内学校制度と農機具設備投資に興味があるということでお連れした方なんだが、先に農機具設備は見て来たそうなので、学校の案内を頼めるか?」
どうやら他の領地を治める貴族のようだ。
「はい、はじめまして。モルトン伯爵令嬢セリーナと申します。」
「セリーナは私の妻の従姉妹の娘で、家族のように思っておりますので、そのおつもりで。」
公爵様の説明に?マークが浮かんだが、ただの案内ではなく伯爵令嬢だと言ってくれただけだろうと案内を始めた。
校舎内の説明をしている間、黙って聞いていたその人は最後に講堂を案内すると手を挙げた。
「質問があるのだが、この学校制度はなんで思いついた?」
帽子をはずしたその人は黒い髪に黒い瞳をして、さよならした時より少し大人っぽくなっている。
私がこの人が誰か気づいたら、アイリス様になっていたことに気づかれてしまう。そう思って必死に平静を装った。
「きっかけは、領内の識字率の低さです。買い物するにも文字や計算は必要ですし、将来的子どもたちに職業を選ぶ自由を与えたいと考えております。」
「なぜ無料で?」
「我が伯爵領は取れる作物も限られ、資源もない貧しい土地ですが領民は皆、優しく努力してくれています。伯爵家がその領民の子どもたちを守り育てるのは当たり前です。ただ我が家がそれほど裕福でないため、親戚である公爵家にノウハウを教える代わりに資金援助をしていただきました。今後の運営については、農機具設備投資してあがった税収で賄います。」
「それでは伯爵家は税収で生活できないだろう。」
「元々、税収は民に還元するだけに使っています。我が家は父が経済や歴史の書籍を執筆したお金で生活をして来ましたので、使用人もほとんどいませんし、家庭菜園以上の畑を作ってます。」
「すごいな。」
「あなた様も学校を領地に作られるのですか?」
「そのつもりだ。昔、君と同じようなことを話してくれた女性がいて、その話をしたら公爵が開校のタイミングで行くから一緒にと勧められたのだ。」
「…その女性は?」
「縁がなくて、他の男性と結婚して子どももいた。不思議なことに久しぶりに会った彼女は全く別人のようで、元々違う人だったんじゃないかと思うほどだった。幸せそうだったから、その男性の力かもしれないが。」
「そうでしたか。それでご結婚されなかったのですか?」
王太子妃候補は、あれから全員白紙に戻されたらしく、その後誰かと結婚したとは聞いていない。こんな田舎でも自国の王太子殿下のご成婚が決まれば話が聞こえてくるはずなので間違いないだろう。
「私が結婚してないと言いましたか?」
「いえ、話の流れでそう言うことかと思っただけです。」
「ところで、うちの領地の学校建設に協力というか指導を頼めるだろうか。」
「公爵様が優先ですが、よろしければ。」
「わかった。よろしく頼む。」
差し出された手を握る。妃にはなれなかったけれど、友人のようにしばらく一緒にいられるのなら、それでも嬉しかった。
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