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「これでしばらくは見つからないはずね。」

使用人部屋には何もなく、2人で身を寄せ合い床にそのまま座る。

「そうですね。ただ助けに来た方も気づかない可能性があります。」
「男たちに気づかないで、連絡する方法か。」
「もしオリバーが来ていれば…ちょっと試していいですか?」

マリーが首から下げていたペンダントのようなものを外して口にあてるとフクロウの鳴き声のような音がする。

「鳥笛?」
「オリバーの手作りです。彼の出身地の名産で上から吹くとフクロウ、下から吹くとひばりだったかしら?の鳴き声がするんですよ。」

静かになってすぐに外から2回フクロウの鳴き声がした。

「迎えが来ました。」

オリバーさんに感謝だ。マリーに渡してくれていたおかげで助かった。

男たちの叫び声と剣の擦れる音がして静かになった頃、廊下側からフクロウの鳴き声がする。マリーが返すと

「マリー!」

オリバーさんの声がして、マリーは部屋のドアを開けた。
マリーを抱きしめるオリバーさんに納得すると同時に危険に巻き込んで申し訳なく思う。

「オリバーさん。マリーを巻き込んで、ごめんなさい。」
「いえ、お嬢様。守りきれなかった我々の責任です。妻はあなたを守るべきところ、助けていただきありがとうございます。」
「つま⁈マリーって結婚してたの?」
「はい。子どももおりますよ。」

3人で話していると公爵様と執事長が現れた。

「無事か?」
「はい。ご心配をおかけしました。」

そう言うとホッとしたような顔で公爵様が抱きしめてくれた。

「セリーナ、無事で良かった。君に何かあったら伯爵や夫人に顔向け出来なかったよ。」

短い間だけど親子のように思ってくれていたのだと嬉しい。

男たちは警護兵に引き渡され、私はこれを理由として王宮には戻らず、公爵邸でしばらくアイリス様として過ごし、その後公爵領に静養に行くと見せかけて実家に戻ることになった。

「アイリス。お客様よ。」

公爵夫人がサンルームで読書している私のところに来たのは、事件から1週間ほど経つ頃だった。

「お客様?」
「アイリス嬢、遅くなってすまない。少しは元気になったか。」

公爵夫人の後ろから現れたのは、薔薇の花束を持った王太子殿下だった。

「王太子殿下、お見舞いくださりありがとうございます。けれど私は、候補を外れましたのでもうお越しにならないでください。私は、これから領地にてしばらく過ごす予定ですし、もう個人的にお会いすることもないと思います。」
「公爵からは無事だったと聞いている。問題ないだろう。」
「私はもう候補ではありません。お帰りくださらないのであれば、私が御前を失礼させていただきます。」

ここまですれば、諦めてくれるだろう。早く伯爵領に帰りたい。流れてくる涙を拭いて私は部屋に戻るのだった。
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