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なんとか礼を失しない程度に辞去し、慌てて部屋に駆け込む。

「ま、マリー!リリア!大変よ。」
「あら、もうお帰りですか。」
「あの、公爵様に至急連絡を取りたいの。私、やっちゃったみたいで…」
「落ち着いて最初から話してください。」

ふたりに椅子に座らされ、お茶を飲んでひと息ついてから、さきほどの殿下の申し入れを話す。

「気に入られちゃいましたね。」
「そうよね。なんでかな?」
「それは、アイリス様が公爵令嬢という立場なうえに本を読むことで様々な知識を持っていると言う前情報に、セリーナ様の領地経営の考え方や自分を売り込む気がないのを控えめな女性と評価されちゃったせいでしょうねぇ。」
「とりあえず旦那様には連絡しますが、アイリス様としては、どうされますか?」
「だって私はアイリス様じゃないのよ。お断りしたいけど、こちらから辞退なんて出来ないんでしょう?他の方に目移りしていただかないと。」
「では、もしセリーナ様だったら?」

マリーの質問に自分の顔が赤くなった自覚がある。誰にも言えないが、王太子殿下の顔は私のどストライクなのだ。話をしても楽しいから、こんな出会いでなければうれしい話だったが、自分の仕事がアイリス様のお留守番というもので、殿下が見ているのがセリーナではないことを自覚しているから気持ちに蓋ができているつもりなのだ。

「そんな、もしはないわ。」

落ち着け。私の目的は王太子妃になることじゃない。3ヶ月ここで過ごし、他の方が選ばれたのをお祝いして、公爵から報酬をもらう。それを伯爵領のために還元することなんだから…

マリーが公爵からの手紙を持ってきたのは2日後だった。

『話は聞いた。王宮内ではできない話があるので、殿下に許可を取り公爵邸に戻るように。』
と書かれていた。

基本的に3ヶ月間、王宮に滞在だが、王太子の許可があれば、王都にある屋敷に日帰りで戻ることは可能とのことだったので、王太子殿下に許可申請をすると、なぜか本人が部屋を訪ねて来た。

「アイリス嬢、公爵家に戻ると聞いたが。」
「はい。父から戻るように言われましたので。いけませんか?」
「私は帰って欲しくないが、何か用事があるのか?」
「話があるようですが、今の時期王宮に王太子妃候補がいる関係でこちらに来れないそうなので。」
「そうか。許可する。夕方迎えに公爵家に行くから。」
「殿下自ら、迎えに来られなくても帰って来ますよ。」
「そうか…わかった。待っている。」

こうして私は、ひと月ぶりに公爵邸に日帰りで戻ることになった。
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