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会談
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塔から王の間に着いた頃には、ほとんどの人がいなくなり、静かなものだった。
「そういえば、勇敢な兵士さんの名前をまだ聞いていなかったわね。」
「ユーリとお呼びください。」
「ではユーリ、カリアス帝国の将がいたら、ここへ案内してくれるかしら。ちゃんとした話し合いができる相手ならいいのだけれど。」
「かしこまりました。」
「マリナとニーナは、横にいてね。」
「「はい。」」
ユーリが部屋を出て行ってから、1時間経ったくらいで、甲冑の音が廊下の方からいくつか聞こえてきた。アナスタシアは、弱くなりそうな心を落ち着かせるために扉を睨むように見つめた。
幽閉されていたとは言え、私はこの国の王家に生まれたのだから、民を守るために出来るだけのことはしたい。残ってくれた3人のためにも…
ユーリの案内で部屋に入ってきたのは、壮年の体格のいい将軍と思しき男と20代半ばくらいの若い男だった。まずは、ユーリが無事に戻ってきたことにホッとする。
「クレア王が話し合いを希望していると聞いたが、どこにいるのだ。」
勇猛そうな壮年の男は、部屋をぐるりと見回し、アナスタシアに目を止めた。
「ご足労いたみいります。私が現在、クレア王国、国王のアナスタシア・クレアキンです。」
「私は、カリアス帝国第一将軍オーウェンと申す。ひとつ聞きたいが、現王はグレゴリーではないのか。」
オーウェンは、苛立ちげにこちらを見た。
「弟は退位し、私に譲ったのです。」
「王位を姉に丸投げして逃げ出すとは、情けないな。」
「私は、抵抗する気も出来るだけの兵力も持ち合わせておりません。降伏いたします。ですから、ここに残っている者たちや武庫の民を傷つけないと約束していただけないでしょうか。」
「それは、自分も含めてと言うことか?」
「いえ、私は王家の者として責任は果たす所存にございます。カリアス帝国の判断にこの身を委ねます。」
「姫様!」
アナスタシアの言葉に横にいたマリナとニーナが渡さないとばかりに縋り付いた。
「さて、エド、どうするか。」
オーウェンが隣のエドに声をかけるとしばらく考え込んでいたが、顔を上げて言った。
「民の代わりに何でもすると言うならカリアス帝国の後宮に入れるというのは、どうだろう。従属の印に王家の女が入れば民も納得して従うだろうし、後を押し付けられたらしい女王を殺さずに済むだろう。」
エドの提案にオーウェンはうなづき、アナスタシアに向き直る。
「では、こちらはアナスタシア女王を従属の印に我がカリアス帝国後宮に身ひとつで迎え入れるということで、民には手を出さないと約束しよう。ただし、抵抗する者は容赦しないが。」
「かしこまりました。出立はいつにいたしますか。」
「明日にでも。私は残務処理があるので、こちらのエドが同行します。明日の朝、こちらに来ればよろしいかな。」
「では、東塔の入口にお願いします。そちらが私の部屋になりますので。」
「東塔の月光の乙女?実在したのか?」
エドの呟きが聞こえたアナスタシアは、恥ずかしそうにエドを見た。
「そう呼んでくださる兵もおりますが名前負けしてますでしょう。」
エドは肯定も否定もしないので、アナスタシアは、そのまま席を立った。
「そういえば、勇敢な兵士さんの名前をまだ聞いていなかったわね。」
「ユーリとお呼びください。」
「ではユーリ、カリアス帝国の将がいたら、ここへ案内してくれるかしら。ちゃんとした話し合いができる相手ならいいのだけれど。」
「かしこまりました。」
「マリナとニーナは、横にいてね。」
「「はい。」」
ユーリが部屋を出て行ってから、1時間経ったくらいで、甲冑の音が廊下の方からいくつか聞こえてきた。アナスタシアは、弱くなりそうな心を落ち着かせるために扉を睨むように見つめた。
幽閉されていたとは言え、私はこの国の王家に生まれたのだから、民を守るために出来るだけのことはしたい。残ってくれた3人のためにも…
ユーリの案内で部屋に入ってきたのは、壮年の体格のいい将軍と思しき男と20代半ばくらいの若い男だった。まずは、ユーリが無事に戻ってきたことにホッとする。
「クレア王が話し合いを希望していると聞いたが、どこにいるのだ。」
勇猛そうな壮年の男は、部屋をぐるりと見回し、アナスタシアに目を止めた。
「ご足労いたみいります。私が現在、クレア王国、国王のアナスタシア・クレアキンです。」
「私は、カリアス帝国第一将軍オーウェンと申す。ひとつ聞きたいが、現王はグレゴリーではないのか。」
オーウェンは、苛立ちげにこちらを見た。
「弟は退位し、私に譲ったのです。」
「王位を姉に丸投げして逃げ出すとは、情けないな。」
「私は、抵抗する気も出来るだけの兵力も持ち合わせておりません。降伏いたします。ですから、ここに残っている者たちや武庫の民を傷つけないと約束していただけないでしょうか。」
「それは、自分も含めてと言うことか?」
「いえ、私は王家の者として責任は果たす所存にございます。カリアス帝国の判断にこの身を委ねます。」
「姫様!」
アナスタシアの言葉に横にいたマリナとニーナが渡さないとばかりに縋り付いた。
「さて、エド、どうするか。」
オーウェンが隣のエドに声をかけるとしばらく考え込んでいたが、顔を上げて言った。
「民の代わりに何でもすると言うならカリアス帝国の後宮に入れるというのは、どうだろう。従属の印に王家の女が入れば民も納得して従うだろうし、後を押し付けられたらしい女王を殺さずに済むだろう。」
エドの提案にオーウェンはうなづき、アナスタシアに向き直る。
「では、こちらはアナスタシア女王を従属の印に我がカリアス帝国後宮に身ひとつで迎え入れるということで、民には手を出さないと約束しよう。ただし、抵抗する者は容赦しないが。」
「かしこまりました。出立はいつにいたしますか。」
「明日にでも。私は残務処理があるので、こちらのエドが同行します。明日の朝、こちらに来ればよろしいかな。」
「では、東塔の入口にお願いします。そちらが私の部屋になりますので。」
「東塔の月光の乙女?実在したのか?」
エドの呟きが聞こえたアナスタシアは、恥ずかしそうにエドを見た。
「そう呼んでくださる兵もおりますが名前負けしてますでしょう。」
エドは肯定も否定もしないので、アナスタシアは、そのまま席を立った。
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