コ・ワ・レ・ル

本多 真弥子

文字の大きさ
上 下
3 / 7

#3 関係がコワレル

しおりを挟む
梨梨の別荘は山の中奥深くにあった。
山と山を繋ぐ吊り橋は、歩くと揺れて壊れないか不安だが、男としてそれを面に見せるのは恥ずかしい年頃の晃は、敢えて平気そうな顔をして香織をエスコートしようと手を差し出す。
だが香織は怖がることもなく楽しそうに橋を渡っていた。
思わず香織の顔を見てしまった晃と香織は目が合うと、晃の気など知らず首を傾げた。


館内に入ると、人は出て来ず無人のようだ。
てっきりお手伝いさんなどが居るものだとばかり晃は考えていたので、予想外だったのだ。
梨梨は間違いなく料理などしないだろう。
「普段はお手伝いさんとか連れて来るんだけど、みんなで料理したりとか楽しそうにじゃん?」
梨梨の思い付きだった。
こういう振り回されはよくあることだ。
「俺は料理なんかしねーぞ。」
智也が即答する。
「智也の分は梨梨が作るから平気だよ。」
「梨梨お前…家庭科実習すらやらねーだろうが。」
「ぷーっ!真理子が料理上手いから平気だもーん。」
という流れで料理は真理子が作ることに決まった。
玄関横の窓の外を眺めていた香織に近付くと、晃は香織に『真理子が料理係になった』事を告げがてら、何を見ているか気になって尋ねる事にした。
「香織も料理しないもんな。」
「しないだけで出来る!」
あかんべえをしてくる香織に話題を逸らす。
「で、何か気になるのか?」
「あの橋落ちないかちょっと心配になっただけよ。」
「縄と木材だけだもんな。」
香織に言われて晃も少し気になった。
でも、こちら側に渡った時、どこも割れたりもする事は無かった。
火でも着けられたりしない限りは平気だ。
不意に思ったことが一瞬脳裏を過ったが、晃は自分にそう言い聞かせた。


夕食を終えると、それぞれ割り当てられた部屋に向かう。
全員で一緒に居た方が良いのだろうが、寝る時まで大勢居るのは落ち着かない。
特に智也と梨梨は二人きりになりたそうだった。
晃が部屋の内鍵を閉めようとすると、ほぼ同時にノックの音がした。
「晃、いいかな?」
香織だ。
すぐにドアを開けると香織が枕を胸に抱いて立っていた。
晃は身体をずらして香織を部屋の中に招き入れる。
香織は晃の部屋に入って早々、赤い顔で口を開く。
「やっぱりちょっと怖くて…。」
言いながら香織はベッドに腰を下ろした。
「そう言えば昔はよく一緒に寝たよな。」
「幼稚園の頃の事じゃない!」
晃が香織に言い向けると、恥ずかしそうに香織が突っ込んだ。
香織は疲れているらしくそのままベッドに身を倒してしまった。
この別荘は山奥にあるため、駅から山登りをしているわけで、流石に晃も疲れていた。
女性の香織はもっと疲れているに違いない。
晃もそろそろ寝たいが、まさかこの歳で一緒に寝るわけにはいかない。
既に寝息を立てている香織に溜め息を吐くと、晃はソファーに身を落とした。


翌朝、晃と香織は女性の悲鳴で目を覚ました。
「晃…今の!」
晃は香織に頷くと、香織を連れて部屋から駆け出した。

智也と梨梨がキッチンの扉の前で立ち尽くしている。
悲鳴は梨梨のものだったのだろう。
亮と香織が覗いて見ると、真理子が頭を冷蔵庫に突っ込み、背中に包丁が突き立てられていた。
どう見ても絶命している。
「晃!あれっ!」
香織が悲鳴混じりに叫びながら指を差した方を見ると、配膳用だろうか、小さいエレベーター。
そこから人間の手足のような物がはみ出していた。
晃の視線に気が付いた智也がエレベーターを開けた。
「うっ…!」
智也は見た瞬間に吐いた。
そこには上半身がエレベーターに挟まれた状態の靖彦がいた。
エレベーターで何度も挟まれたのか、手足は折れ、頭が砕けたことが死因になったのか、頭が歪んでいた。
「いや、もう嫌ーっ!どうしてっ!やっぱり梨梨達が狙われてるっ!」
恐怖でパニックになった梨梨は、自分の部屋に閉じ籠ってしまう。
マスターキーを持っているのは梨梨だけだから、梨梨が犯人でない限り、却って安全なのかもしれない。
「くそっ、梨梨開けろっ!俺とお前は夜一緒に居たんだから、俺は犯人じゃないだろうがっ!」
智也は大声を上げながらノックするが、梨梨は一切返答しなかった。
一人になるぐらいならと、智也も晃の部屋に篭る事になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

Dark Night Princess

べるんご
ホラー
古より、闇の隣人は常に在る かつての神話、現代の都市伝説、彼らは時に人々へ牙をむき、時には人々によって滅ぶ 突如現れた怪異、鬼によって瀕死の重傷を負わされた少女は、ふらりと現れた美しい吸血鬼によって救われた末に、治癒不能な傷の苦しみから解放され、同じ吸血鬼として蘇生する ヒトであったころの繋がりを全て失い、怪異の世界で生きることとなった少女は、その未知の世界に何を見るのか 現代を舞台に繰り広げられる、吸血鬼や人狼を始めとする、古今東西様々な怪異と人間の恐ろしく、血生臭くも美しい物語 ホラー大賞エントリー作品です

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

【短編】怖い話のけいじばん【体験談】

松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。 スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

怪異語り 〜世にも奇妙で怖い話〜

ズマ@怪異語り
ホラー
五分で読める、1話完結のホラー短編・怪談集! 信じようと信じまいと、誰かがどこかで体験した怪異。

処理中です...