44 / 49
EX
side:佐伯
しおりを挟む
俺は何度目の引っ越しになるのか、もう数えるのをやめていた。
車を降りると、引っ越して来た俺の家を眺めている子供が居た。
振り返った子供は俺に気付くと、俺へじっと視線を合わせる。
すぐにほわっとした笑顔を浮かべた。
「ここのうちの人?」
「ああ、今日引っ越して来た。」
人懐っこそうな笑顔に、警戒が無くなる。
「お隣さん宜しくね。僕柚希。」
「おっ、お前…男なのか!?」
「うん、柚希は男の子だよ。」
不思議そうに首を傾げる柚希。
「あ、俺は佐伯克成。十二歳だ。」
「さえきかつ…克兄ちゃんでいい?」
下の兄弟が欲しかった俺はちょっと嬉しかった。
「じゃあ、ゆずって呼んでいいか?」
「うん。」
頷く笑顔が可愛かった。
ゆずでさえこんなに可愛いんだから、ゆずのお姉さんとか居たら美人なんじゃ?と思った俺は、早速聞いてみる事にした。
「ゆずはお姉さんとか居るのか?」
「うん、居るよ。呼んで来るね。」
俺の邪な心に気付かず、姉を呼びに行ってくれた。
戻ったゆずが連れて居たのは、予想以上に美人だった。
高校生くらいか、胸がでっかい。
視線をついそこにやってしまう。
「何よエロガキ。」
視線に気付かれてしまって、慌てて目を逸らす。
「お姉ちゃん、お隣の人だよ。」
ゆずが紹介してくれて、俺を睨んでたものから表情が和らぐ。
「ああ、引っ越し今日だったのね。あたしは芹澤美月、十六歳。こっちは弟の芹澤柚希、六歳。」
「俺は佐伯克成、十二歳。」
名乗ると美月は俺を繁々見て、何か納得したような顔をする。
「…攻めね。」
何かぼそりと言ったけど、意味はわからなかった。
この家に来て一週間。
俺は毎日のように芹澤家で遊んだ。
ゆずは六歳にしては頭の回転が早く、俺と遊ぶのに全く支障は無かった。
手が掛からない弟って楽だと聞いてたけど、そんな感じだった。
主にゆずと遊んでたけど、傍には学校から帰った美月が大体居た。
この家で大人の姿は一度も見なかったけど、そういう事情がある家を他にも知ってたから、特に聞かなかった。
ゆずと遊んでると、学校から帰って来た美月が俺達にジュースやお菓子を用意してくれる。
こんな日が続くといいな。
でもやっぱりその時間に終わりが訪れてしまった。
父親が再び転勤になってしまった。
いつもなら諦めてたけど、今回は二人から離れたく無かった。
必死に俺は引っ越したくない事を訴えたけど、十二歳の俺にはどうする事も出来なかった。
せめて縁を繋いでおきたい。
そう思った俺は、美月に告白しようと思った。
ゆずに似てる美月の事が、きっと俺は好きなんだと思ったから。
善は急げと翌日、学校から帰って来た俺は、美月の元にすぐ駆け寄る。
俺は学校でかなりモテてたから、美月だってOKしてくれると自信満々だった。
「克成の気持ちは嬉しいけど、あたしの好きなタイプと違うのよね。」
その後攻めだのよくわからない事を言われたけど、振られたショックで意味を理解しようという頭が働かなかった。
すぐに走って、芹澤家の庭の隅でしゃがむと号泣してしまった。
振られた事もそうだけど、二人との接点が持てなくなってしまった事が辛くて。
振られた理由もわからない。
何より、ゆずともう遊べなくなってしまう事が辛い。
その時、ふわりと頭が抱き締められる。
「僕もね、いっぱい泣いてると、お姉ちゃんがこうしてくれるんだよ。『男の子は泣くの恥ずかしくなるだろうから、あたしが隠してあげるよ』って言って。」
ゆずが小さい手で撫でてくれるのが気持ちいい。
自分と半分の歳の子にされてるのに、恥ずかしさを感じるよりも落ち着いていく。
「ゆずが女の子だったら良かったのに。」
今は小さいゆずだけど、女の子だったら将来お嫁さんになって欲しいと思った事もある。
「ごめんね、男の子で。」
自分のせいで泣いてると思ったのか、ゆずが泣きそうな顔になる。
「ううん、ゆずのせいじゃ無い。俺、一週間後に引っ越すんだ。」
驚くゆず。
「遊びに来てくれる?」
「海外だから無理なんだ。」
それを聞いたゆずはぽろぽろと泣き出してしまった。
言った俺も泣いてしまう。
二人で泣き疲れてしまい、ゆずと俺は芝生の上でいつしか熟睡していた。
次の日俺は、原因不明の高熱が出た。
家はもう引き払う事が決まってたから、俺の体調が回復するまでホテルで生活してたらしい。
俺は熱が下がった時に、倒れる前の…厳密には『芹澤家』の事を忘れてしまっていた。
中学に上がり俺は益々モテていた。
だけど…どんな美人だろうと付き合う気になれなかった。
『ごめんね、男の子で。』
誰に言われたんだっけ、男相手で何が悪い?
今ならそう言えた。
自然に、俺はいつしか恋愛対象は男だけになっていた。
あの言葉が忘れられなくて。
『…が女の子だったら良かったのに』
いつ言ったのか、俺はこの言葉に後悔していた。
夢の中の美少女が俺に微笑む。
よく見るとその子は少年だった。
手を伸ばしても触れられない。
俺が可能性を絶ってしまったから…。
『克兄ちゃん』
そう俺を呼んで、俺の頭を撫でてくれた。
目を覚ますと忘れてしまう夢。
悲しくて涙が溢れた。
あんな風に再会する事になったのは、全ては俺が弱かったからだ。
だから今度こそ……。
車を降りると、引っ越して来た俺の家を眺めている子供が居た。
振り返った子供は俺に気付くと、俺へじっと視線を合わせる。
すぐにほわっとした笑顔を浮かべた。
「ここのうちの人?」
「ああ、今日引っ越して来た。」
人懐っこそうな笑顔に、警戒が無くなる。
「お隣さん宜しくね。僕柚希。」
「おっ、お前…男なのか!?」
「うん、柚希は男の子だよ。」
不思議そうに首を傾げる柚希。
「あ、俺は佐伯克成。十二歳だ。」
「さえきかつ…克兄ちゃんでいい?」
下の兄弟が欲しかった俺はちょっと嬉しかった。
「じゃあ、ゆずって呼んでいいか?」
「うん。」
頷く笑顔が可愛かった。
ゆずでさえこんなに可愛いんだから、ゆずのお姉さんとか居たら美人なんじゃ?と思った俺は、早速聞いてみる事にした。
「ゆずはお姉さんとか居るのか?」
「うん、居るよ。呼んで来るね。」
俺の邪な心に気付かず、姉を呼びに行ってくれた。
戻ったゆずが連れて居たのは、予想以上に美人だった。
高校生くらいか、胸がでっかい。
視線をついそこにやってしまう。
「何よエロガキ。」
視線に気付かれてしまって、慌てて目を逸らす。
「お姉ちゃん、お隣の人だよ。」
ゆずが紹介してくれて、俺を睨んでたものから表情が和らぐ。
「ああ、引っ越し今日だったのね。あたしは芹澤美月、十六歳。こっちは弟の芹澤柚希、六歳。」
「俺は佐伯克成、十二歳。」
名乗ると美月は俺を繁々見て、何か納得したような顔をする。
「…攻めね。」
何かぼそりと言ったけど、意味はわからなかった。
この家に来て一週間。
俺は毎日のように芹澤家で遊んだ。
ゆずは六歳にしては頭の回転が早く、俺と遊ぶのに全く支障は無かった。
手が掛からない弟って楽だと聞いてたけど、そんな感じだった。
主にゆずと遊んでたけど、傍には学校から帰った美月が大体居た。
この家で大人の姿は一度も見なかったけど、そういう事情がある家を他にも知ってたから、特に聞かなかった。
ゆずと遊んでると、学校から帰って来た美月が俺達にジュースやお菓子を用意してくれる。
こんな日が続くといいな。
でもやっぱりその時間に終わりが訪れてしまった。
父親が再び転勤になってしまった。
いつもなら諦めてたけど、今回は二人から離れたく無かった。
必死に俺は引っ越したくない事を訴えたけど、十二歳の俺にはどうする事も出来なかった。
せめて縁を繋いでおきたい。
そう思った俺は、美月に告白しようと思った。
ゆずに似てる美月の事が、きっと俺は好きなんだと思ったから。
善は急げと翌日、学校から帰って来た俺は、美月の元にすぐ駆け寄る。
俺は学校でかなりモテてたから、美月だってOKしてくれると自信満々だった。
「克成の気持ちは嬉しいけど、あたしの好きなタイプと違うのよね。」
その後攻めだのよくわからない事を言われたけど、振られたショックで意味を理解しようという頭が働かなかった。
すぐに走って、芹澤家の庭の隅でしゃがむと号泣してしまった。
振られた事もそうだけど、二人との接点が持てなくなってしまった事が辛くて。
振られた理由もわからない。
何より、ゆずともう遊べなくなってしまう事が辛い。
その時、ふわりと頭が抱き締められる。
「僕もね、いっぱい泣いてると、お姉ちゃんがこうしてくれるんだよ。『男の子は泣くの恥ずかしくなるだろうから、あたしが隠してあげるよ』って言って。」
ゆずが小さい手で撫でてくれるのが気持ちいい。
自分と半分の歳の子にされてるのに、恥ずかしさを感じるよりも落ち着いていく。
「ゆずが女の子だったら良かったのに。」
今は小さいゆずだけど、女の子だったら将来お嫁さんになって欲しいと思った事もある。
「ごめんね、男の子で。」
自分のせいで泣いてると思ったのか、ゆずが泣きそうな顔になる。
「ううん、ゆずのせいじゃ無い。俺、一週間後に引っ越すんだ。」
驚くゆず。
「遊びに来てくれる?」
「海外だから無理なんだ。」
それを聞いたゆずはぽろぽろと泣き出してしまった。
言った俺も泣いてしまう。
二人で泣き疲れてしまい、ゆずと俺は芝生の上でいつしか熟睡していた。
次の日俺は、原因不明の高熱が出た。
家はもう引き払う事が決まってたから、俺の体調が回復するまでホテルで生活してたらしい。
俺は熱が下がった時に、倒れる前の…厳密には『芹澤家』の事を忘れてしまっていた。
中学に上がり俺は益々モテていた。
だけど…どんな美人だろうと付き合う気になれなかった。
『ごめんね、男の子で。』
誰に言われたんだっけ、男相手で何が悪い?
今ならそう言えた。
自然に、俺はいつしか恋愛対象は男だけになっていた。
あの言葉が忘れられなくて。
『…が女の子だったら良かったのに』
いつ言ったのか、俺はこの言葉に後悔していた。
夢の中の美少女が俺に微笑む。
よく見るとその子は少年だった。
手を伸ばしても触れられない。
俺が可能性を絶ってしまったから…。
『克兄ちゃん』
そう俺を呼んで、俺の頭を撫でてくれた。
目を覚ますと忘れてしまう夢。
悲しくて涙が溢れた。
あんな風に再会する事になったのは、全ては俺が弱かったからだ。
だから今度こそ……。
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる