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賢三
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賢三は、優しい男だった。
河川のダムや橋の測量、設計士として、
北は北海道から南は九州まで飛び回った。
調査を何か月もかけておこない
時には山奥の現場に何度も足を運ぶため
たいそうな健脚であった。
驚くほど正確な測量と丁寧な仕事ぶりは有名で、人柄もよい。
現場近くの集落に長く滞在するため、
村民らと懇意になることもしばしばだった。
親しくなると、仕事が終わって国に帰っても
折にふれて土地の名産品を送ってくれる。
賢三の自宅は、食べ物に困るということが
あまりなかった。
あるとき
妻の志乃を連れて、朝鮮に出張に行った。
出張と言っても、何年もかかる河川工事である。
現地の朝鮮人の社員たちと同じ社宅に住み、
一緒に仕事をする。
しばらくすると志乃も、朝鮮人の奥方たちに混じってキムチ作りを手伝ったりするようになり、仲良くなった。
朝鮮にいる間、志乃は男児を二人出産したが、どちらも赤ん坊のころ赤痢にかかり死んでしまった。
そんな辛いときも、まわりの奥方たちが支えてくれ、みんなでちゃんと葬式まであげてくれた。
世界は戦争中だった。
そこだけ関係ないように見えたが、そうではなかった。
戦争が終わり、賢三たち日本人は、シベリアに強制労働に連れていかれることになった。
「シベリアに行ったら死んでしまう。」
朝鮮人たちは、見つかったら重い処罰を受けることは覚悟のうえで
こっそり日本人名簿をいじり、賢三を逃がしてくれた。
必死に逃げた。
ひとり先にぎゅうぎゅう詰めの引き上げ船に乗った志乃は、三人目のこどもを妊娠して大きなお腹をかかえていた。
当時、同じ引き上げ船に乗っていた
こどもを連れていた女性は、
「上のこどもは死んだの?良かったね。子連れで逃げるのは大変よ。」
と志乃に言った。
そういう時代だった。
日本に無事に帰ると、賢三は親戚中に言った。
「俺が生きて帰ってこれたのは朝鮮人のおかげだ。だから、朝鮮人が困ってたら助けてやってくれ。」
その話は、近所中が知っていた。
そのため、戦後におこった在日朝鮮人暴動の際は多数の死者が出たが、
賢三の自宅とその親戚だけは、襲われなかった。
河川のダムや橋の測量、設計士として、
北は北海道から南は九州まで飛び回った。
調査を何か月もかけておこない
時には山奥の現場に何度も足を運ぶため
たいそうな健脚であった。
驚くほど正確な測量と丁寧な仕事ぶりは有名で、人柄もよい。
現場近くの集落に長く滞在するため、
村民らと懇意になることもしばしばだった。
親しくなると、仕事が終わって国に帰っても
折にふれて土地の名産品を送ってくれる。
賢三の自宅は、食べ物に困るということが
あまりなかった。
あるとき
妻の志乃を連れて、朝鮮に出張に行った。
出張と言っても、何年もかかる河川工事である。
現地の朝鮮人の社員たちと同じ社宅に住み、
一緒に仕事をする。
しばらくすると志乃も、朝鮮人の奥方たちに混じってキムチ作りを手伝ったりするようになり、仲良くなった。
朝鮮にいる間、志乃は男児を二人出産したが、どちらも赤ん坊のころ赤痢にかかり死んでしまった。
そんな辛いときも、まわりの奥方たちが支えてくれ、みんなでちゃんと葬式まであげてくれた。
世界は戦争中だった。
そこだけ関係ないように見えたが、そうではなかった。
戦争が終わり、賢三たち日本人は、シベリアに強制労働に連れていかれることになった。
「シベリアに行ったら死んでしまう。」
朝鮮人たちは、見つかったら重い処罰を受けることは覚悟のうえで
こっそり日本人名簿をいじり、賢三を逃がしてくれた。
必死に逃げた。
ひとり先にぎゅうぎゅう詰めの引き上げ船に乗った志乃は、三人目のこどもを妊娠して大きなお腹をかかえていた。
当時、同じ引き上げ船に乗っていた
こどもを連れていた女性は、
「上のこどもは死んだの?良かったね。子連れで逃げるのは大変よ。」
と志乃に言った。
そういう時代だった。
日本に無事に帰ると、賢三は親戚中に言った。
「俺が生きて帰ってこれたのは朝鮮人のおかげだ。だから、朝鮮人が困ってたら助けてやってくれ。」
その話は、近所中が知っていた。
そのため、戦後におこった在日朝鮮人暴動の際は多数の死者が出たが、
賢三の自宅とその親戚だけは、襲われなかった。
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