手毬哥

猫町氷柱

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2.始動 追われる恐怖 探す勇気 巻き込む怪異

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少し時間が経って落ち着きを強引に装った。どれだけ装っても現実は変わらず亡き恋人の姿は変わらない。そんな悲しみに暮れる傍ら、彼女から貰った髪留めが赤黒く光り出し蝶として羽化をした。
 まるで地獄の煉獄蝶のように深紅の斑模様が広がっている。ヒラヒラと玄関に向かうその蝶は扉をすり抜けると自動で扉が開き、さらに玄関の扉が開いた。その先の光景に驚いた。赤く染まった空、燃え盛るように空が燃え周りの空間が歪んだ。
 マンションの一室から外に出たはずなのに……先ほどの蝶が円形に舞うとそこに突如、井戸が浮上してきた。もう現実感はない。行かなきゃという思いが僕を動かし、井戸の前に進み中を覗き込んだ。中は相変わらず暗く、じめじめとした湿気が漂っていた。中から何か音が聞こえ覗き込む。耳を澄ましじっと聞き入ると例の唄のようで僕は青ざめた。
 何か黒い何かが中で蠢き、徐々に上がってくる。そいつは急に上を見上げ暗がりにも関わらずはっきりと見える眼球にゾクリとした。その異形者は髪を振り乱し、その度に黒く湿り気のある髪の隙間から血走った眼が僕を捉えて離さない。しわがれた不気味な唸り声をあげ、まるでムカデのようにたくさん生えた足で側壁を捉えながら僕に向かってきた。
 どうしようここに飛び込まないといけないのに……僕は必死に考えを巡らせ1つの考えに至った。あの包丁ならもしや、時間はないが部屋に戻るのが得策だと考えた。
 僕は回れ右をして必死に玄関に向かい走る。背後から迫る轟音、振り返れば確実に死を迎える恐怖心に駆られた。僕は死に物狂いで入ってきたドアを開けた。
 こういう時、不思議な力で開かない展開が多いだけに焦ったがすんなり開けることが出来た。僕は急いでリビングのソファに横たわる和沙の元へ向かった。
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