手毬哥

猫町氷柱

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1. 存在しない部屋

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「こんな事聞くのは正直恐縮なんですがなんで死んでしまったんですか?まだ、お若いようにお見受けしますが……」

「その事に関しては話したくはございません。無理やり巻き込んでしまい申し訳ありませんがどうかご容赦を……」
 彼女は俯き、目から生気が消えた。その途端、お堂の前から何かをつく音が聞こえてきた。その音は時間と共にはっきりと耳に入るようになってきた。お堂の扉の破れた障子の隙間から垣間見えた血走った眼、ガタガタとお堂の扉が揺らされた。その悪魂は中に侵入しようと試みていた。喉を不気味に鳴らしながら揺らめくシルエットに驚愕した。

 少女はガタっと床に伏し、寝転ぶような形になった。僕は大急ぎで彼女の元に歩み寄り体を揺さぶったが完全に瞼を閉じ、動く気配は見られなかった。なにがなにやら分からないがこれだけは言える。前に進むしかない。お堂の裏手側の扉が僕を誘うように開き、進路が確保された。恐る恐る入口の扉を振り返る。そこから悪魂の姿は忽然と消え、何事もなかったかのように静寂が空間を包み込んだ。
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