ルーカスと呪われた遊園地（上）

６ 久遠類の恋心

２３

「あ、ひょっとして、お前も乙葉のこと好きなの？」
　バカにするように笑いながら、男子が言った。
「え、まじで？」
　おどろいた顔をして、友達が言った。
「お前と乙葉じゃ、どう考えても釣り合わねーじゃん。やめとけよ」
　その時、久遠の怒りは、すでに頂点に達していた。
　気づいた時には、久遠は男子につかみかかっていた。
「おい、ちょっと、なんだよ」
　つかみかかられた男子は、うろたえながら久遠を見た。
「ビッチって言ったこと、訂正しろ！」
　久遠が、すごみのある声をはり上げながら言った。
「はあ？　なんで俺がそんなこと！　いいから離せよ」
　そう言うと、男子は久遠の腕をつかみ、自分から引きはがすと、久遠を前に突き飛ばした。するとその衝撃で、いくつかの机がなぎ倒された。
「きゃーっ」
　クラスの女子が悲鳴を上げた。
「なに？　ケンカ？」
「先生呼びにいこうよ」
　通りがかった他のクラスの生徒が、久遠を心配して口々に言った。
　当の久遠はというと、倒れた机に寄りかかりながら、うつむいていた。
「お前が悪いんだからな。先につかみかかってきたりするから」
　久遠を見下ろしながら、男子が言った。
「ったく、次の授業、教室移動だろ？」
　その友達が言った。
「もうこんなやつ放っておいて、はやくいこうぜ」
「だな」
　男子がそう答えると、二人は先生がやってくる前に、さっさと教室から去っていった。
「久遠、大丈夫？」
　さきほどの事件で、すっかり涙を引っこめた結衣が、心配そうな顔で、そう聞いてきた。
　久遠は返事をせずに、無言で立ち上がると、そのまま教室から立ち去った。