ルーカスと呪われた遊園地(上)

大森かおり

文字の大きさ
上 下
207 / 256
6 久遠類の恋心

18

しおりを挟む
(今日も学校だ)
 乙葉がいるから毎日楽しくなりはじめていた学校も、乙葉がいなければ、もう楽しくもなんともない。また乙葉がいなかった日常に、戻るだけだ。
 行方不明と、乙葉の妹は言っていたけれど、いまごろ、乙葉はどこで、なにをしているのだろう。連絡をしても、なにも返ってこないのだから、知りようがない。
 でも、とにかく無事であってほしいと、そう願った。
 久遠は行方不明になった乙葉のことを思うたびに、心配でたまらない気持ちになるのだった。
 それから、ふと猫のいる場所を見ると、もうすでに、餌を食べ終えたのか、毛繕いをはじめていた。こっちにくる素振りは、ちらりとも見せない。
 そのあと、また乙葉のことを考えつつ、サンドイッチと飲むヨーグルトを、交互に口に運んで、ぼんやりとテレビを見た。いまは、ニュースのあとの、CMが流れている。
(倉本さん……会いたいな……)
 するとCMが終わると同時に、突然、乙葉の顔が、テレビに大きく映し出された。
「……えっ⁉︎」
 考えていたら、テレビに映った……!
 久遠は目を見開いておどろき、どうして乙葉がテレビに映っているのか、わけがわからないまま、テレビに釘づけになった。
 そして、どうにか落ち着きをとり戻し、テレビから出てくる音に、耳を傾けることにした。
「行方不明になっているのは、東京都に住む、高校二年生の倉本乙葉さんです。倉本さんは二日前の朝、散歩に行くと言って、一人で家を出て行き、行方不明となりました。警察は倉本さんの家族から——」
 そうか、行方不明の報道だったのか。どうりで、テレビに映し出されたわけだ。
 納得しつつも、こうしてはいられないと、焦燥感しょうそうかんにかられ、久遠は飲みかけの飲むヨーグルトと、食べかけのサンドイッチを、猫に食べられないように、急いで冷蔵庫にしまい、学校へ行く準備をしに、部屋にもどった。
 大急ぎで着替えたあと、部屋から出て、洗顔と歯磨きを手短にすませ、鞄を持って玄関まで走った。そして不思議そうに自分を見ている、リビングから玄関までついてきた猫たちに向かって、
「行ってきます」と、一言だけ言って、家を出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

【完結】だるま村へ

長透汐生
児童書・童話
月の光に命を与えられた小さなだるま。 目覚めたのは、町外れのゴミ袋の中だった。 だるまの村が西にあるらしいと知って、だるまは犬のマルタと一緒に村探しの旅に出る。旅が進むにつれ、だるま村の秘密が明らかになっていくが……。

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

転校生はおんみょうじ!

咲間 咲良
児童書・童話
森崎花菜(もりさきはな)は、ちょっぴり人見知りで怖がりな小学五年生。 ある日、親友の友美とともに向かった公園で木の根に食べられそうになってしまう。助けてくれたのは見知らぬ少年、黒住アキト。 花菜のクラスの転校生だったアキトは赤茶色の猫・赤ニャンを従える「おんみょうじ」だという。 なりゆきでアキトとともに「鬼退治」をすることになる花菜だったが──。

黒猫クロとトラ柄のシマ

榊咲
児童書・童話
ハウスの中で生まれたネコの話

大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春
児童書・童話
私には大嫌いな人がいる。 その人から、まさか告白されるなんて…! 「大嫌い・来ないで・触らないで」 どんなにヒドイ事を言っても諦めない、それが私の大嫌いな人。そう思っていたのに… 気づけば私たちは互いを必要とし、支え合っていた。 そして、初めての恋もたくさんの愛も、全部ぜんぶ――キミが教えてくれたんだ。 \初めての恋とたくさんの愛を知るピュアラブ物語/

そうして、女の子は人形へ戻ってしまいました。

桗梛葉 (たなは)
児童書・童話
神様がある日人形を作りました。 それは女の子の人形で、あまりに上手にできていたので神様はその人形に命を与える事にしました。 でも笑わないその子はやっぱりお人形だと言われました。 そこで神様は心に1つの袋をあげたのです。

夏から夏へ ~SumSumMer~

崗本 健太郎
児童書・童話
作者、崗本 健太郎の小学生時代の回顧録であり、 誰しも経験する子供の頃の懐かしい思い出が詰まっている。 短編が150話ほど収録されており、 通勤や就寝前など隙間時間にも読みやすい構成だ。 作者と読者との地域性や遊びの違いや、 平成初期の時代を感じさせる作風も魅力である。 日常の喧騒を忘れて癒されたい人は是非!! ※毎日20時公開 全48話 下記サイトにて電子書籍で好評販売中!! Amazon-Kindle:www.amazon.co.jp/kindle BOOK WALKER:www.bookwalker.jp

処理中です...