ルーカスと呪われた遊園地(上)

大森かおり

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4 妹の決断

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 気づくと、乙葉は全面鏡の部屋に立っていた。
 そして鏡に映し出された自分のすがたを見て、呆然とした。
 いつの間にこんな場所にきていたのだろう。どこを見ても鏡だからか、なんだか気持ちが落ち着かない。
 この場所から離れるために、乙葉はひとまず歩くことにした。
 しばらく当てもなくさまよっていると、一瞬、鏡になにか、黒いものがとおりすぎたような気がした。
「なに、あれ……」
 乙葉はぼそっと呟いた。
 なにかの勘違いだろうか。そう思いつつも、再びを進める。
 すると、またしても、鏡に映った黒いものが横をとおりすぎた。ものすごい速さですぎ去るため、そのものがなにかを特定することはできない。
 不気味に思い、乙葉は思わず身ぶるいした。
 あれは一体なんだったのだろう。黒いものの正体について気になったが、それ以上はこわくて、考えることをやめた。
 鏡の世界は終わることなく、歩いても歩いても続いていく。
 ここに出口はあるのだろうか。乙葉は徐々に、不安になってきた。
 周囲のものにおびえながら歩いていると、突然、鏡に思い切り、自分の体がぶつかった。
 それで乙葉はとっさに、
「いたっ」という声を出して、尻もちをついた。
 どうやら行き止まりにさしかかったようだ。これ以上は先に進めない。
 当惑した自分の顔が、鏡に映る。
 ここから出る方法を考えながら鏡を凝視ぎょうししていると、突如、ピエロの顔が、鏡から浮かび上がってきた。
 乙葉はその顔を見て、だんだんと血の気が引いていき、
「キャーッ」と、大きな声を発し、座った状態で体をのけぞらせながら、二、三歩、後ろにさがった。
 その顔は、どんどん乙葉に向かって、近づいてくる。
「アハハハハハ」
 そのように不気味に笑うピエロは、乙葉をじっと見つめている。
「なによ、こいつ」
 思い切り顔をしかめて、乙葉が言った。
 それでおそろしくなった乙葉は、すぐに逃げようと思い、立ち上がろうとした。しかし、その瞬間、なにかに手や足を押さえつけられて、逃げることはおろか、体を自由に動かすことすら、できなくなってしまった。
「ちょっと、離して!」
 さけんで抵抗している間にも、ピエロは確実に、乙葉に向かって近づいてきた。
「いやだ! こないで!」
 この時、乙葉は完全にパニックになっていた。
「アハハハハハハハ」
 もはやなにを考えているのかわからないそのピエロは、間隔かんかくを空けることなく、笑い続けている。
 そのさまはまさに不気味でしかなく、乙葉の胃の中の物がすべて吐き出されそうなくらい、気分が悪くなった。しかし吐きそうになっても、手を動かすことができないために、口元をおさえられず、ただ頬をふくらませることしかできなかった。
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