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1 迷い込んだ少女

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 男はこちらを見ると、とっさに苦い顔をした。乙葉はその男を見て、笑顔になりながら、手を小さく挙げた。
 男の名前は相沢京一あいざわきょういち。高校二年生で乙葉と同い年の幼なじみ。京一はバイトをするだけではなく、剣道部にも入っていて、成績も優秀。帰宅部で、成績もそこまでよくない自分とはちがって、よくできた幼なじみだ。
 でも、たまにこうしてコンビニにくると、いつも苦い顔をされる。
 京一は、働いているところを、知り合いに見られたくはないのかもしれない。ひょっとすると、恥ずかしいのかしら?
 お菓子コーナーに行ってお菓子を選んでいると、京一の視線を感じた。早く帰れとでもいいたそうに眉をしかめている。
(はいはい、わかりましたよーだ)
 乙葉はそれでも、お菓子をしっかりと選んで、いくつかカゴに入れた。レジに行くと、京一はぶっきらぼうに、お菓子がぎっしりと入ったカゴを受け取った。
「お前、こんなに食べたら太るぞ」
「あー! お客さんにそんなこと言っていいの?」
 京一は乙葉の問いに答えようとはせず、無言でカゴの中にある商品を、手際よくスキャンしていく。
「もう、都合悪くなるとすぐこうなんだから」
 不機嫌になった乙葉をよそに、京一は冷静に作業を続けた。
「今日は学校休みだろ」
 京一が言った。
「それさっき、お母さんにも言われたわ」
 その質問には、もううんざりだと思いながら、乙葉が言った。
「私って皆に、学校じゃないと外に出ない、とでも思われているのかしら? 別にそんなことないのにね——まあいいわ。今日はいい天気だし、これから散歩にでも行こうと思っているの」
「ふーん」
 興味がないのか、京一はそれ以上、話を広げようとはしてこなかった。
「あ、そうだわ」
 唐突に乙葉が言った。
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