ラズとリドの大冒険

大森かおり

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「ねえ! 二人がはやく逃げようとしないから、あのセイウチみたいな怪物、とうとう、こっちに向かって、近づき出したじゃないか! どうするんだよ!」
 ネルーピーが、びくびくと怯えながら、そう言った。
「二人とも、今ならまだ間に合うよ。だからはやく、今のうちに逃げようよ。このままじゃ、ジオードサンド号もろとも、すぐにやられちゃうのは、時間の問題! 目に見えているよ!」
 続けてひどく焦りながら、ネルーピーが言った。
 この時、ディンゴネクは、水をかきわけるようにして泳いでいて、その迫力ある巨体を、前へ前へと押し出すように、にぶい動きで動いていた。
 ラズたちはその怪物の姿を見て、あまりの恐怖から萎縮いしゅくして、体がカチコチの石のように、固まってしまった。
 中でもネルーピーは、誰よりもはやく自らの緊張を解き、ラズの服の襟を、パッと離すと、代わりにパニックに陥りながら、
「ああ、もう! あいつ、こっちに近づいてきてるよ! 二人が逃げないから……」と、騒ぎ出した。
「オイラ、死にたくない、死にたくないよお!」
 ネルーピーがそう叫んでいると、まだラズたちから、かなり距離が離れたところにいたはずの、巨体のディンゴネクは、泳ぐ速度は遅くとも、確実にこちらに進んでいて、今では、硬く鋭いうろこの表面が、はっきり見えるほど、ラズたちのいる場所から、近いところまできていた。
 ディンゴネクとの距離が近づくたびに、ラズたちの緊張は高まり、どうすればいいかわからない状態のまま、体をこわばらせて、立ちすくんでいた。
 ラズはそんな状況を前にして、とうとう耐えられなくなり、そばにいるリドを、じとっとした目で見つめた。
(リドが言う、時がくるとは一体、どういうことかしら——時がきたら、どうなるというの? リドったら、いまは命があぶない状況だっていうのに、何も言わなければ、何も行動をしようとしない。最初は奥の手があるなんて言っていたのに、結局なにもないだなんて……。本当に、なんて頼りない船長なのかしら。こんな船長に、自分たちの命をまかせたりなんてしたら、私たちは、ネルーピーの言う通り、死んでしまうわ)
 あまりにも無責任に思える船長、リドの発言に、ラズは怒りに震えながら、心の中で、リドにたいする文句を、散々言った。
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