ルーカスと呪われた遊園地(中)

大森かおり

文字の大きさ
上 下
36 / 244
1 絶対絶命ゴーカート

36

しおりを挟む
 京一たちの準備が整うと、乙葉と久遠のペアは、ふたたび前進した。
 進んですこしたつと、京一とルーカスの乗っているカートが、乙葉と久遠のカートを追いこし、前に進み出た。
 乙葉と久遠は呆然とした顔をしながら、目の前で走っている、京一とルーカスのカートを見ていた。
「へへー、僕の勝ちー」
 勝ち誇ったように、ルーカスが、後ろにいる乙葉たちを、いちべつしたのが見えた。
「あのなあ、競争じゃないんだぞ」
 京一の怒った声が聞こえた。
 見ると、京一は困ったように、片手で頭を押さえていた。
「あはは。ルーカスさんって、本当にやんちゃですね」
 となりにいる久遠は、運転しながら笑っている。
「そうみたいね……」
 乙葉はそれ以上なにも言わず、鍵探しを再開しながら、引き続き、京一たちの話に耳を傾けた。
「あと、ちゃんと前見ろよ」
 前方にいる京一は、ぴしゃりとルーカスに注意した。
「見てるよー」
 横に向けていた顔を、とっさに正面に戻しながら、ルーカスが反論した。
「うそつけ。だってお前さっき、のんきに、飛んできた蝶を眺めてたろ」
 京一がずばりと言った。
 ルーカスは図星を突かれたのか、一瞬、間が空いて、
「そんなことないもーん」と、少々焦りながら言った。
「お前なあ」
 顔は見えないが、京一はきっといま、眉間にシワを寄せているにちがいない。乙葉は、自分がルーカスを運転させるようにと言ってしまったことで、京一を、気の毒な状態にさせてしまい、すこし申し訳ない気持ちになっていた。
 その時、ふと柚子の様子が気になった乙葉は、後ろを振りかえって見た。するとなんと、熱心に鍵探しに没頭している、柚子の姿がそこにはあった。カートに乗る前まで、柚子はあれだけ、一人で乗ることをいやがっていたのに、いまではそのことを、すっかり受け入れているように見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。

桐山一茶
児童書・童話
雨が降り注ぐ夜の山に、捨てられてしまった双子の姉妹が居ました。 山の中には恐ろしい魔物が出るので、幼い少女の力では山の中で生きていく事なんか出来ません。 そんな中、双子姉妹の目の前に全身黒ずくめの女の人が現れました。 するとその人は優しい声で言いました。 「私は目が見えません。だから手を繋ぎましょう」 その言葉をきっかけに、3人は仲良く暮らし始めたそうなのですが――。 (この作品はほぼ毎日更新です)

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

鎌倉西小学校ミステリー倶楽部

澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】 https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230 【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】 市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。 学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。 案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。 ……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。 ※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。 ※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)

ゆきじかん

夢ノ命
児童書・童話
雪の日の時間がゆっくり流れていく感覚、マキオはそれを【ゆきじかん】と呼んでいました。そんな雪の日のある朝……

共に生きるため

Emi 松原
児童書・童話
高校生の時に書いた初の長編作品です。 妖精もののファンタジーです。小学生の少女はとある妖精と出会い、妖精の国に行きます。 そこで起こるドタバタな出来事を書いています。

絵本 ふるる(文のみ)

福守りん
絵本
ふるる、ふわわ、ふわりん……。 こどもたちがだいすきな、しゃぼんだまのおはなし。 ※絵本を想定した文です。表紙以外の絵はありません。

すぐケガしちゃう校長先生を止める話

青西瓜(伊藤テル)
児童書・童話
 この小学校の生徒会長には大切な仕事があった。  それは校長先生を守ること。  校長先生は少し特殊な個性や能力を持っていて、さらにそれを使ってすぐケガしちゃうし、大声で泣いてしまうのだ。  だから生徒会長は校長先生のお守りをしないといけないのだ。  それを補助してくれるはずの生徒副会長の桜さんも天然ボケがすごい人で、今日も今日とてハチャメチャだ。  これは僕と校長先生と桜さんの話。

処理中です...