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31話 憧れの大魔王
しおりを挟む俺様は一瞬で憧れになったその大魔王様に、俺様の今までの経緯を全て話した。
大魔王サタン様は終始面白そうに聞いてくれて、俺様にとって夢のような時間であった。
「ふむ、実に愉快な話であった。それに、お前のその地上界でも動け、猫とやらとの姿を自由に変えられるその身体も実に興味深い」
「ありがとう!」
俺様は嬉しくなって猫と人の姿を行ったり来たり。
「ふむ、その力、余にも写させてもらう」
「え?」
俺様は一瞬ヒヤっとする。まさか、この能力奪われる?
「そう案ずるな。何も奪う訳ではない。ただ余にも同じように写すだけである。じっとしていろ」
「わ、分かった……」
俺様が緊張して猫の姿で突っ立っていると、サタン様は右手を俺様の方へと向け、何かの力を発動した。
すると驚くことに……。
サタン様の姿が真っ黒な黒猫の姿へと変化した。
「おぉ、サタン様も猫に! 良かった、俺様も猫のままだ」
俺様は自分の姿を見て安堵する。
「これが猫とやらか。おぉ……手に何かぷにぷにしたものがついているぞ……!」
サタン様は嬉しそうだ。
俺様はサタン様に猫とは何かを延々と語った。サタン様はこの話も面白そうに聞いてくれていた。
⸺⸺
「ふむ、お前の話は実に愉快だ。早速余の下僕に猫の生活グッズを用意させることとしよう。時にアビスよ、貴様を正式に魔界の魔王と認めよう。貴様が望むのであれば、余の下僕としてやっても良い」
「おぉ! それはありがたき幸せだ! でも、俺様は下僕にはならない。魔王の称号だけいただくこととしよう」
俺様はサタン様から魔王の称号を受け取った瞬間、自身の中の魔力がより一層高まるのを感じた。
「そうか、承知した。ならば何か褒美を与えよう。何が望みか申してみよ」
ほ、褒美……!? それは嬉しい。
「ならば、地上にはない何か珍しいものがほしいぞ!」
「ふむ、余は地上には行けぬ故何が珍しいのかが分からぬが、この城にあるものを自由に見て持っていくが良い」
「え、そんなことしていいのか!?」
「うむ。この猫という姿にはそれだけの価値がある」
サタン様! なんて話の分かるお人なんだ……!
「ありがとう! 早速城を見回ってくる! 行くぞ我が下僕よ」
「はい、アビス様!」
「シリウスよ、貴様も付き添い説明をしてやるがよい」
「はっ、サタン様」
俺様は我が下僕のコモリィとセラとスラぴょん、そしてサタン様の下僕のシリウスを連れて広い城の中を自由に散策することとなった。
「アビス様、正式に魔王になれて良かったですね!」
と、サラ。
「うむ。しかし正式に魔王になったら何か特権があるのだろうか……」
俺様のその問に対し、シリウスが答える。
「魔王になると、魔界の一部を統治することが出来るようになります。その際は、わたくしめと空いている領土を相談する形となります」
「統治か……。また途方もない話だな。というかシリウス貴様、何故そんな急に改まるのだ? 俺様たちを迎えに来たときは普通であっただろう」
「アビス様は今、魔王になられましたので」
シリウスはそう言って軽く頭を下げた。
「む、そんなもの気にすることはない。貴様は俺様の下僕でも何でもないのだから、今まで通り普通に話せ」
「はっ、ありがたき幸せ。ではお言葉に甘えて……で、領地いんの?」
シリウスは急にだらんとし始める。
「前より崩れとらんか!? ま、まぁいい。いや、領地はいらん。また欲しくなったらその時言う」
「りょーかい。でも早めに予約しないと望みのところ埋まっちゃうかもだから、なるべく早く予約してな」
「領地って予約制なのか!?」
な、なんか魔界って……俺様の想像していたものよりも……案外普通そうだ。
⸺⸺
気を取り直して俺様とその下僕らは本格的にサタン城の物色を始めた。
「これは何ですかね」
コモリィは赤く光る石ころを拾い上げる。
「それは“爆弾石”、触ったら爆発するよ」
と、シリウス。
「……え?」
⸺⸺ボンッ⸺⸺
コモリィの顔はチリチリになった。
まさかこんな形でセラの回復魔法が役に立つとは。いやでも連れてきてよかった。
「これは何ですかね?」
セラはコモリィを回復し終えると別の石を手に取った。
セラ貴様、コモリィがあんなことになっていたのに何のためらいもなく拾うんだな……。
「それは深淵の魂。握ると深淵の魂が宿る」
と、シリウス。
いや、どゆこと!?
「はっ、私の右手が疼く。この手に深淵の魂が宿ったというのか。くっ、力の制御が……」
急にサラがそういい始めたが、特に何も起こらない。
あぁ、深淵の魂が宿るって……俺様みたいに中二病になるってことね!?
なんだ、なんかもっとマシなものはないのか。不思議なものばかりだが、正直ガラクタばかり……。
俺様のテンションが下がりかけたその時、スラぴょんが何か石を頭に乗っけて嬉しそうに跳ねてきた。
「アビス様! いいもの見つけました!」
「……本当に?」
俺様は半信半疑である。
「おっ、それは浮遊石だ。その石一つでどんなものでも浮かせられる代物だ」
と、シリウス。
「どんなものでも?」
俺様は復唱する。
「うん、どんなものでも。どんな大きなものでも」
「おぉ……なんかようやく役に立ちそうなものが……じゃ、それをいただいていこう」
俺様はスラぴょんからそれを受け取り、腰のポーチにしまった。
「他にはいいん?」
と、シリウス。
「え、そんな何個もいいのか?」
「うん、サタン様自由にって言ってたし」
「おぉ、なら……これは何だ?」
俺様は色んな色のスイッチの様なものを手に取った。
「ん、それは転送装置。同じ色同士で対になってて、取り付けた場所同士を自由に行き来できるんよ。魔界にもあちこちついてるよ」
「おぉ! それはまさに俺様の探し求めていたものだ!」
俺様はそう言って、2か月前にルナが話していたことを思い出した。
確かあいつ、転送装置を使って海外進出したいとかなんとか……。
「ん、そうなん? それなら下僕ちゃんにクラフトしてもらえばいいよ。ほら、これレシピ。現物じゃなくてこのレシピ持ってく?」
シリウスはそう言って1枚の魔法紙を手渡してきた。
「ほう、コモリィ、これ作れそうか?」
俺様がコモリィにそのレシピを見せると、コモリィは「朝飯前ですよ!」と自信満々に言った。
こうして俺様は、浮遊石と転送装置のレシピをもらって、地上へと戻っていったのであった。
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