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28話 王妃

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「あなたレクス様が猫のときからって言ってるけど、レクス様の何を知ってるって言うのよ?」
 と、アンナ。

「兄さんが色々教えてくれるもの。何だって知ってるわ!」
 と、シャンディ。


 その会話を聞いてウォルトがフェリクスに詰め寄る。
「てめぇ何余計なこと吹き込んでくれてんだ」

「俺か? 俺のせいなのか!? ……いや、俺のせいか……」
 フェリクスはシュンとうつむいた。


 ここからアンナのシャンディに対する怒涛どとうの質問攻めが始まる。
「レクス様の肉球の色は?」
「全部薄いピンク」

「レクス様の好物は?」
「高級カリカリ御膳」

「その、味は?」
「ナンヨウフィッシュ味」

「撫でられて好きな場所は?」
あごとほっぺのもふってしてるところ」

「最近お気に入りのふみふみは?」
「アンナさんの二の腕」

「おトイレの時、思わずしてしまうことは?」
「目をつぶる」

 ちょ、何それ恥ずかしいんだけど……。

「1回の爪とぎでの平均的なとぎ数は?」
「10回くらい」

「くっ、あなたなかなかやるじゃない……」
 アンナは何故なぜかはぁはぁと息を切らしている。

「ふん、そっちもね……」
 シャンディは余裕のドヤ顔だ。

「あの……ちょっと2人とも……」
「「レクス様は黙ってて」」

「……はい」

 最初はヒヤヒヤしていたはずの部外者の3人も、段々と笑いが混じってくる。
「こりゃレクス、どっちをめとっても尻に敷かれんな」
 と、ウォルト。

「シャンディがあんなに詳しいのはお主からの知識なんじゃろう? お主もクールなフリしてレクスのことよく観察しておったのじゃな」
「べ、別にクールなフリをしていた訳じゃ……」
 ルナの言葉にフェリクスはポッと顔を赤らめる。


 この間にもアンナの質問攻めは続いていて、ウォルトが手をパンッと叩いてみんなを注目させる。

「俺らは今日、このやしろに泊まっていく。レクス、お前はどうするべきなのか一晩よーく考えろ。これも王としての大事な務めだ」

「ええ、そんな勝手に……ほ、ほら急に泊まるなんて言ったら悪いよ……」
わらわは構わんぞ。数人の急な客人のもてなしくらい造作ぞうさもない」
「うっ……」

 ボクは何だかんだ言って保留にしようとしたけど、ルナの用意が良いせいで逃げることはできなくなった。


⸺⸺

 夜。

 結局この日はこの社に泊まっていくことになり、まだどうするべきか答えが見つからず眠れないボクは、縁側えんがわに出てアルバウスの中庭をぼんやり眺めていた。

 月が池に写り、夜の中庭はなんとも幻想的な雰囲気である。

 そんなことを考えていると、ルナがスタスタと歩いてきて、ボクの隣へと座った。

「アンナとシャンディは、未だに2人でお主の話をしておったぞ」
 ルナはそう言ってクスクス笑う。

「え、まだやってるの? 喧嘩になってるよね……?」

「それがのう、どうやらお主の好きなところを言い合っているうちに意気投合したようで、今は仲の良い親友のように笑い合っておる」

「え、そんなことある?」
 ボクはまさかの展開に少し拍子抜けをした。

「それだけお主が魅力的ということじゃ。そのお主も、2人のことを想うておるゆえどうしたらいいのか分からんという顔じゃな」

「うん……ボク、アンナのこと好きって気付いた。でも、そしたらシャンディにもドキってしたし、ボク、どうなっちゃったのかな……」

「ほぅ……お主、恋というものに気付いてから気持ちが敏感になっておるのじゃな。しかしな、幸い、あの2人は仲良くなっておる。お主はただただ自分の気持ちに正直になれば良いのじゃよ」

「自分の気持ちに正直に……?」
 そのルナの言葉は何故なぜかボクの心に強く響いた。

左様さよう。何も難しく考えることなどないのじゃ。では、妾はそろそろ失礼する」

「あ、うん……おやすみルナ」

「あぁ、おやすみレクス」

 ルナはスタスタと廊下の向こうへ消えていった。


 そう言えば前の世界でボランティアさんが、一晩考えて結婚相手を決めなくちゃいけないゲームをしてたって言ってたけど……。
 こんな選択をあえてするって、どれだけドMなんだろうか。

 でもそれはゲームだから直前のポイントでセーブデータを2つ作れば結局2人と結婚できるらしい……。

 ん? 2人と……?

 この時ボクの頭の中に、ルナの「正直になればい良い」という言葉がぐるぐると回っていた。


 そうか、そういうことか。


 確かに、難しく考える必要なんてなかったんだ。

 ボクはスッキリすると、自分の部屋に戻り朝までぐっすり眠った。


⸺⸺⸺

⸺⸺




 翌朝。

 昨日の座敷に、昨日のメンバーがそろっている。

 アンナとシャンディは2人で手を繋いで正座をしていた。
「どっちが選ばれても喜びましょ」
「ええ、そうね」

 そんな様子を見たウォルトとフェリクスは、昨日の昼までは火花が散っていたのに、一体何事かと頭上にハテナをき散らしている。

 ルナを見ると、彼女はボクの決意の表情を見て優しくうなずいてくれた。
 ボクも頷き返すと、口を開いた。

「ボクは……」

 その瞬間、アンナとシャンディはきゅっと目をつぶり、ウォルトとフェリクスはごくんとつばを飲んだ。


 ボクは続ける。
「ボクは……アンナとシャンディの2人と結婚する」

「!?」
 ルナ以外の全員が目を見開いて固まったが、ルナだけはうんうんとうなずいてくれていた。

「王様が2人と結婚しちゃいけないなんて決まり、ないよね。だからボクは、2人と結婚する。2人はどう? それは嫌だ?」
 ボクはアンナとシャンディへ問いかけた。

 すると、2人は声を揃えてこう言った。
「「2人で王妃になります!」」

 その後2人は抱き合って喜んでいた。


⸺⸺

 後日、ボクたちの結婚式が盛大にり行われ、誓いのキスでは両頬に同時にキスをもらい、ボクは正式に2人の王妃をめとった。




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