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21話 黒い地脈の暴走
しおりを挟む突然の黒い霧の噴出。
ボクの白の領域の中は無害だったけど、王都全体は黒いモヤモヤに包まれて次々に新しい魔物が湧き上がっていた。
白の領域の中が無事ということは、この黒いモヤモヤは魔物の素となる黒い気であり、大量摂取は人間にとって有害であることが分かる。
アビスがあの時気配を感じ取ってくれていなければ、ここにいた全員どうなっていたか分からない。流石竹猫の友、もう感謝しかない。
「アビス、ありがとう。君のお陰でたくさんの命が救われた」
ボクがそう言ってお手手を前に差し出すと、アビスはとびきりのフレーメンでグータッチをしてくれた。
幸い、黒い霧の出現範囲は王都だけであり、王都から離れて国境へ避難していた人たちも全員無事であった。
ボクは白の領域を展開しながら、霧の外へとみんなを誘導する。
そして黒い霧が完全に晴れたところで、白の領域を解除した。
みんなホッと安堵の吐息や言葉を投げ合う。本当にここにいるみんなが無事でよかった。
王都を見上げると、黒いカーテンがかかったように真っ暗で、中を確認することすら出来なくなっていた。
そんな王都を見て、フェリクスが口を開く。
「黒い地脈の暴走か……」
「黒い地脈?」
ボクはその言葉を復唱する。
「世界中のあちこちにある、黒い気の噴出が濃いエリアのことだよ。白い地脈であるアルバウスとは反対の性質だね。それがこの島にもあって、その場所が王都だった……という訳だ」
そうフェリクスが答えた。
「それが暴走すると、今みたいになるんだね。でもなんで暴走なんかしちゃったのかな?」
ボクの問にフェリクスは難しい表情をした。
「どうだろうね……各地で黒い地脈の暴走は起こってるみたいだけど、原因はよく分かっていないんだ。まぁあくまで俺個人の推測になるけど……聞く?」
「聞く聞く、勿論」
ボクはうんうんと頷いた。
「黒い気が具現化して現れた魔物は、人の魔力に反応するんだ」
「そうなんだ、だから人を襲ってくるのか」
「そう。それで王都の人々の不満が爆発して、その怒りの感情により人々から無意識に魔力が溢れ出る。それに黒い地脈が反応して、暴走……とか、どう?」
そうフェリクスは推測する。ボクは考えても分からないから、それで納得することにした。
「それならタイミング的にも今なのは納得できそうだね。じゃぁそういうことにして、これ、どうしようか……」
ボクはそう言って黒い壁を見上げた。みんなうーんと悩む。
⸺⸺
しばらく悩んでいると、アビスがまたもや何かの気配を感じ取る。
「あの霧の向こうから何か漆黒の気配が近付いてくるぞ」
「え、魔物かな?」
ボクが首を傾げると、アビスが答える間もなく霧から何かが顔を出した。
それは、一言で言うとヒュナム族のゾンビだった。
全身に黒いモヤモヤをまとって、目は赤黒く光っており、魔物のようでもある。
「あれは! ネロ王!」
と、フェリクス。他のメンバーも口々にその名を呼んでいた。
「あれが王様!? なんかゾンビみたいになってるけど……」
ボクはドン引きしながら言う。それに対しフェリクスが口を開いた。
「あれは“黒魔症”だ。短時間に許容範囲外の黒い気を体内に取り込むと発症する。自我がなくなり魔物のように人を襲うようになる。治療法はない。あれにかかった者は殺すしかないと聞いているよ」
「ふん、ざまあだな!」
と、アビス。
「ここの人間が襲われる前に殺すか?」
ルナはそう言って爪を出した。
「そうだね……治療法がないなら……」
ボクがそう言いかけると、アビスが口を挟んだ。
「俺様の言ってた漆黒の気配がもうそこまで迫っているぞ」
「え、漆黒の気配って、ネロ王のことじゃなかったの?」
ボクが驚きを顕にすると、みんなも同様に驚いていた。
「あんな小物に俺様が反応する訳がなかろう……来るぞ」
『シャァァァァァッ!』
アビスの合図と同時に巨大な大蛇が霧から顔を出す。
そして……。
その大蛇はよたよたと歩くネロ王を丸呑みした。
「あっ……」
みんなで揃って声を上げる。
これが暴君の末路か……。
ボクはちょっと切ない気持ちになりながらも、みんなと一緒に大蛇を討伐した。
⸺⸺
「じゃ、俺様はあの中を調べてくる」
大蛇討伐後、アビスが当然のようにそう言った。
「ちょ、ちょっと待って!」
フェリクスが慌てて引き止めたので、ボクや他の猫も一緒になって彼を止める。
「何だ?」
「さっきのネロ王見ただろ? 君もああなるぞ」
と、フェリクス。
「いや、俺様はならない」
アビスは何故か自信満々にそう言う。
「何を根拠に……」
そう言うフェリクスに対し、アビスはフレーメン顔でこう答えた。
「俺様は“魔王”だからだ!」
「えっと……魔王のスキルは黒い気に耐性があるの?」
ボクは尋ねる。
「ある、大丈夫だ。今この王都の状況を把握できるのは俺様しかいない。俺様を信じろ!」
アビスはいつになく真剣にそう言った。
何だか彼が逞しく見える。
「分かった。でも心配だから一旦30分で帰ってきて?」
「承知した」
ボクが了承するとフェリクスも止めるのをやめ、アビスが黒い霧の中へ入っていくのをみんなで見送った。
⸺⸺30分後。
「まさに混沌の領域、カオスフィールドの名に相応しい場所であった。この地は今日から俺様が支配するぞ。わーっはっはっは!」
そう、アビスはご機嫌で帰ってきた。
心配していたみんなは安心で腰が抜けて一斉にその場にへたり込むのであった。
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