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18話 猫はやはり猫
しおりを挟む商人デニーロの所属するエーベル商会はかなり有力な商会のようで、彼らが帰ってから数日後、続々といろんな商会が港を訪れた。
ボクは急遽元商人のヒュナム族のオス、トーマスを商船対応隊長に任命して、迎賓館で対応してもらうことにした。
今日も朝からたくさんの商船が訪れていて、そのせいで城内は騒然としていた。
「俺様も挨拶に行くぞ! 深淵の覇者、魔王アビス様だ、わーっはっはっはー!」
城のバルコニーから外へ飛び出そうとするアビスをボクも含めた他の3匹で全力で引っ張って止める。
「お願いホントやめて。商人の人たちみんな取引どころじゃなくなっちゃうから」
「む、何故だ? ぶはぁ!」
アビスは急に止まってそう言うので、ボクたちは揃ってアビスに突撃した。
「貴様ら何をするのだ!」
「アビスが急に止まるから……」
ボクはパンパンとローブを払いながら言う。
「む、そうか、それはすまん」
あくまでも素直なアビスである。
「あのね、アビス。ボクたちってかなり珍しいんだって。この町の人たちは、ボクたちに感謝してくれてて、暗黙の了解でボクたちの存在を秘密にしててくれてるんだ」
ボクがそう言うと、ナーガが続く。
「ワシらの存在、外国の人たちにバレたら、商船だけじゃなくて国の軍艦とか、悪い海賊とかがいっぱい来ることになる……」
「全て沈めれば良かろう?」
と、アビス。ルナが答える。
「強行手段に出れば、全世界を敵に回すことになり、たとえ我らの敵ではなかったとしても、この町は何でも武力行使をする野蛮な町だと認定を受けることとなる」
ボクが続く。
「そうすると、商船も怖がって来なくなっちゃって、結果的にギルドの人たちの楽しみを奪うことになっちゃうよ。それに、取引以外の船が押し寄せたら、それこそ商船の止まる船着き場がなくなっちゃう」
「む、そうか。すまん、早まった真似をした」
アビスはそう言ってペコリと頭を下げた。良くも悪くも純粋だから、ちゃんと説明をすれば分かってくれるのだ。
「ありがとうアビス。我慢させてごめんね」
「はっはっは、気にするな竹猫の友よ。俺様もこの町はもっともっと発展させたいと思っている。この俺様のくだらない欲でそれが崩れるのは俺様自身も勘弁だ」
アビスはボクの肩をポンポンと叩いた。
「ワシらも、人の姿になれれば良いのだが……」
「!」
ナーガのその何気ない一言に、ボクたちはみんなで顔を見合わせた。
「え、みんな、できそう?」
ボクは心臓をバクバクさせながらみんなを見渡す。
「妾は無理じゃ。どれだけ念じてもそういうふうに変化はしそうにないのう」
「俺様もだ……」
「ワシも……」
「そ、そっか、なれないのがボクだけだったら寂しかったから逆に良かった……」
ボクはホッと胸を撫で下ろす。みんなも同じ気持ちだったようで、うんうんと安堵し合った。
「しかし、俺様の成長に伴い角が生えたりしたから、今後力を使って経験を積めば、ワンチャンあるかもしれんなぁ」
と、アビス。
「確かに。そうなったらいいね!」
ボクはワクワクした。
「ふむ、もしそうなれば妾はちゃんとした着物が来てみたいのう」
「ワシ、酒飲んでみたい」
「そうなれば、一緒に飲むぞ!」
「人間の姿になったからって飲んでいいのかは分からないけど、一緒に飲みたいね! あとお洒落もたくさんしたい!」
ボクがそうまとめると、みんなうんうんと頷いた。
その時、1階からアンナの呼びかける声が聞こえてくる。
「みなさーん! お食事の時間ですよ~! 今日はナンヨウフィッシュ味のカリカリとナンヨウフィッシュのすり身に、鰹節をトッピングしましたよ~!」
「んにゃぁぁぁぁ!」
「お魚祭りじゃーい!」
「妾が1番じゃ!」
「ワシが1番食べる!」
猫4匹は豪華なカリカリ御膳によだれを飛ばしながら、我先にと階段を降りていった。
「いただきまーす!」
最近スプーンの使い方を覚えたからアンナが用意してくれていたんだけど、みんなそんなの使う余裕もなく、ガブガブとお皿にかぶりつく。
このカリカリの硬い食感と、すり身のふわふわな食感のコラボがたまらんのにゃぁぁ。
みんな舌鼓を打ちながら美味いうまいと平らげ、余韻に浸って床に溶けていた。
そんなみんなをいつものように『猫吸い』のメンバーがすくい上げて膝の上に乗せて撫でてくれるのだ。
ボクは勿論アンナの膝の上でゴロゴロ言っている。
そして最近ルナはどうやらフェリクスの膝の上でゴロゴロ言っているようなのである。
みんな猫っぽくない姿や力を手に入れても、猫はやはり猫。何処までいっても猫は猫なのだ。
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