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6話 もっと人口を増やそう
しおりを挟むボクは遂に、魔力を使って空に浮けるようになった。
これは特別な能力ではなくて、たくさん魔法を使ったり、魔法以外にも魔力を送って植物を育てたり、結界を整備したりしたから魔道士として成長したんだね。
フェリクスは元々偉大な魔道士で、彼曰くこれは“魔道浮遊”という技らしい。エルフの中ではフェリクスだけが習得しているそう。
⸺⸺
「じゃぁ今日は、プラム族の生き残りがいないか探してくるよ。ここの守りは頼んだよ」
ボクがエルフの人たちへそう言うと、みんな「はい、聖王レクス様!」と気持ち良く返事をしてくれた。
フェリクスだけは飛べるし、プラム族に知り合いがいるそうなので、ボクたち猫組についてきてもらうことにした。
ボクたちは早速飛び上がり、森よりも更に北にある広大な岩場の高原へと来ていた。
あちこちに川の流れる峡谷があり、飛ぶことのできるプラム族にとっては住みやすい土地なのではないかというフェリクスの助言だ。
広い岩場の上空を飛んでいると、ボクはあることに気付いた。
「なんか、あんまり魔物がいないね」
森にはたくさんの魔物がいて、草原もそれなりにいる。でもここは本当にポツポツ程度しか見当たらなかった。
「レクスよ、分からんか? 漆黒の気配がここは微小だ」
と、アビス。
「漆黒の気配って?」
「草原でも森でも、地の底から魔物のような漆黒の気配が這い出てきている。それが、ある程度融合することで魔物へと造形されるのであろう?」
「えっと、つまりどういうこと?」
アビスのよく分からない表現に頭上にハテナがたくさん飛んでしまったボクに、フェリクスが補足をしてくれる。
「彼が言いたい漆黒の気配というのは恐らく“黒い気”のことだと思う」
「あぁ、魔物の素になるっていう?」
ボクがそう言うとフェリクスは軽く頷き、説明を続けた。
「地面から常にちょっとだけ湧き出ていてね、それがある程度集まると、魔物の姿になるんだ。彼はその黒い気がよく感じ取れるようだね」
「へぇ~そうだったんだ。じゃぁ、ここはその黒い気っていうのがあんまり出てないから、魔物が少ないんだね」
「そうだと思うよ」
フェリクスは頭も良くて物知りで、すごく頼りになる。連れてきて良かった。
「はーっはっはっは! 漆黒の力は全て我が手中成り!」
アビスはそう言って口をフレーメンにする。
もうまたそんなことして……と、思っていると、アビスの額から2本の悪魔の角がにょきにょきと生えてきた。
「ぬおおおおっ! 魔王の角が生えてきたではないか! 良い、良いぞ……また一歩深淵の覇者に近付いてしまったということか……全く自分が恐ろしい」
アビスはそう言って嬉しそうにはしゃいでいた。
そっか、アビスは魔物の気配を探ったり、魔王のスキルを使うことで、スキルがレベルアップしたんだね。
⸺⸺
ボクたちはしばらく岩場の上空をキョロキョロと探す。
ナーガは低い位置を飛びながら、ポツポツいる魔物に“竜の波動”というビームを浴びせて片っ端から殲滅していた。
これなら万が一プラム族の人たちが見つからなかったとしても、少しは安全に貢献できたかな?
すると、ナーガの額からも竜の角が生えてくる。彼は自分でそれに気付くと、ボクに見てと言わんばかりに空を見上げてボクをガン見してきた。
上下の距離があるため、声ではなく拍手の動作でおめでとうの意を伝えると、嬉しそうにはにかんでいた。
その時、ルナがすっと僕の隣へと並んだ。
「レクスよ。前方に翼を持った人間を確認。飛んでこちらに近付いてくるぞ」
「えっ、本当? フェリクス見える?」
ボクは目を凝らしてみるけど、全く分からなかった。
「いや、俺にも見えないな……」
だけどルナの言葉を信じてその方角へボクたちも飛んでいくと、数分後に本当にプラム族の姿が見えてきた。
「あっ、ホントにいる! ルナってすごく目がいいんだね。猫って……視力悪いはずだよね……」
「そういうお主もこの世界に来てから少しは見えるようになっているのではにゃいか?」
「あ、そう言われてみれば、あんまりぼやけてないかも……」
どうやらボクたちは、視覚の補正も受けてるみたいで、ルナはそれが格段にすごかった。
「あっあれは! ウォルトだ! おーい、ウォルトー!」
いつもはクールなフェリクスが満面の笑みで大きく手を振る。
すると、それに気付いたプラム族も大きく手を振り、あっという間にボクたちの前まで飛んできた。速い!
「フェリクスじゃねーか! 生きててくれたんだなお前! はは、会えて嬉しいぜ相棒っ」
「あぁ、俺もだよ。君も生きててくれて良かった」
そう言って2人は抱き合う。漢の友情ってやつだね。
ウォルトはプラム族のオスで、一言で言うと人間の顔をした鷹だった。
「で、お前らはなんだ? 猫か? 猫みたいな別の生き物か?」
ウォルトはすごい剣幕でボクに詰め寄ってくる。
そんなこと言われても猫なのかそうじゃないのかなんて、正直ボクたちにももう分からないよ。
「多分猫、だと思う……」
ボクは自信なくそう返した。
フェリクスがウォルトへ粗方事情を説明してくれ、ウォルトも彼らの現状を簡単に説明をしてくれた。
総勢100人くらいいたプラム族たちも1年くらい前にみんな揃って国から追放され、この高原へ逃げ延びたそうだ。
それ以来ウォルトがプラム族を束ねる族長らしい。
プラム族は魔力は少ないものの獲物を狩る能力に優れていて、手製の石の斧で魔物を撃退しながらこれまでやり過ごしてきたらしい。
それでも人数は70人くらいまで減ってしまったそうで、ウォルトは時折悔しそうな表情を見せた。
今は何者かが魔物を蹴散らしているのが見えたから、様子を見に来たそうだ。
プラム族もめちゃくちゃ視力がいいみたい。
彼はそれがナーガだと分かると、めちゃくちゃに感謝していたし。
彼らは峡谷にできた洞穴を隠れ家にしているらしく、そこまで案内してもらった。そこには色んな翼のプラム族がたくさんいた。
別の洞穴では“ナンヨウ鳥”という鶏みたいな鳥を飼っており、貴重な食料らしい。
「共食いじゃない?」ってウォルトに聞いたら、大笑いされて「クラニオだって魚食うだろ?」って言われた。
確かに、すごいバクバク食べてた……。
⸺⸺
ここまで結構遠かったため、今夜は隠れ家の洞穴に泊めてもらうことになった。
大自然での生活に、ちょっとだけ懐かしさもあった。
今日の晩御飯は“セイヨウ鳥の丸焼き”。ボクは生まれて初めて丸焼きチキンにかぶりついた。
やっぱりこれも、すごくすごく美味しくて涙が出そうになった。
ちなみにセイヨウ鳥は2週間で大人サイズに成長して毎日卵も産んで、家畜としてめちゃくちゃ重宝する鳥だった。
ここでは戦える戦士たちが見張りのため数時間おきに交代で寝起きをしていて、ボクたちも見張りに参加した。
まだ自分たちで魔物が倒せるだけいいけど、毎日これは大変そうだなって思った。
翌日、ウォルトは仲間のみんなに何やら指示を出していた。
プラムのみんなはセイヨウ鳥の洞穴に入っていき、次々にセイヨウ鳥を捕まえてボクたち猫の前に集まってきた。
そしてウォルトが1歩前に出る。
「じゃ、お前らの集落に案内してくれよ。今日から世話になんぜ!」
「本当? 来てくれるの?」
ボクは嬉しくて思わず笑みが溢れる。
「あったり前だろ。お前らは俺らのために1日かけてここまで探しに来てくれたんだろ。それは俺らもすげー嬉しかったし、何より安全で衣食住の充実した土地に住めるのは願ったり叶ったりだ」
「ありがとう! みんなで一緒に暮らそうね!」
ボクたちはまた1日かけて、無事集落へと帰還した。
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