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29話 留学生の正体

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「フレディ様……」
「あなたは……エミリア様……まさかあなたとの再会が、こんな情けない姿になってしまうとは……」

 私たちは廊下にしゃがみ、声のみで状況を伺う。

「魔法、上手くいかないのですか?」
 と、エミリア。
「はい、どうしても、コントロールができなくて……それでこの学院に留学生としてお世話になっているのですが、どうやら僕にはその才能がないようです……」

「そんなことありません。あなたには、あの校庭に植えられた草花のように綺麗に澄んだ魔力があります。一度、魔法を撃ってみてもらえませんか?」
「ですが……これ以上あなたに情けない姿を晒したくありません」

「私では……お力にはなれませんか。これでも一応、1年生では2番目の成績なのですよ?」
 1番目は私です、てへ。

「エミリア様……では一度だけ撃ってみます……」
「まぁ、ありがとうございます。よろしくお願いします」

「い、いきますね……リーフ!」
 魔法が放たれる音がするが、的に当たった音は聞こえない。
「やっぱり、ダメみたいです……」
 フレディ様の落ち込んだ声が聞こえてくる。

「フレディ様……途中までは軌道はいいのに、当たる直前にわざと反らされているように感じます」
「わ、わざとですか!? 僕は当てようと思っているのですが……いえ、エミリア様の言う通りかもしれません」
 どっちやねーん。と、ツッコみたいのを必死にこらえる。

「何か、思い当たることがあるのですか?」
「はい……実は子供の頃に魔法の指導を受けている時に、的に向かって撃ったのですが、誤って近くにいた小鳥に当たってしまい、その小鳥が死んでしまったのです」
「まぁ、それはお可哀想に……」

「はい、すぐに応急処置をしなくてはと先生に訴えたのですが、そんなことより魔法が的に当たらないことを反省しなさいと言われ、小鳥の手当をさせてもらえませんでした」
「そうだったのですね……」

「もちろん僕が当ててしまったのが悪いのですが、あの後すぐに手当てをしていれば助けられたんじゃないかと思うと、今でも夢に見るくらいで……僕は、魔法を撃つのが怖いです……あの的があの小鳥かと思うと……情けなくてすみません……」

「情けなくなんかありません。フレディ様はとても心の優しいお方です。なぜそんなお方が攻撃用の黒魔法を習得されているのでしょうか」
「なぜって……先生に言われるがままに習ってきたので考えたことがありません……」

「私は、フレディ様は回復用の白魔法を習得されるのが良いのではないかと思うのです。一度ご自分で考え直してみてはいかがでしょうか」

「白魔法……確かに傷を治すほうが僕には合っていると思います。今まで先生に言われた通りにしてきて、恥ずかしながら、そんな選択肢一度も思い浮かびませんでした。ありがとうございます、エミリア様。一度国に帰って検討してみたいと思います!」

「いえ、フレディ様の白魔法楽しみです」

 エミリアすごい良い感じ! どこの誰だか知らないけど!
 そう思っていると、アーサー殿下が廊下でしゃがんでいる私たちへと合流する。
 彼とアイコンタクトを取ると、彼は何気なく窓から部屋を覗いた。

「あっ……フレディって……そうか! アルフレッド!」
 アーサー殿下は普通にそう叫ぶ。
「おや、誰かが部屋の外で僕のことを呼んでいるようです」
「私は大丈夫です。どうぞ行かれてください」
「ありがとうございます」

 フレディ様が教室から顔を出すと、アーサー殿下は嬉しそうに彼の両肩へ手を置いた。
「アルフレッドだろ? 俺だ、アーサーだ。いやぁ久しぶりだな」
「アーサー!? うわぁ、すごい久々じゃないか! 何年ぶりだろう……。そうか、君はこの国の王族だもの、学院にいて当然か。顔も出さずにしれっといてごめんよ」
 フレディ様も笑顔になる。

「ディアナ、アラン、クラース、彼は隣国レールマン王国の第三王子、アルフレッド・レールマンだ」
 アーサー殿下は廊下でしゃがむ私たちへ向かって、そう微笑みながら紹介をしてくれた。

「隣国の第三王子!?」

 これは……これはもしかして……真のハッピーエンドを迎えられるのでは!?



 
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